第2回
■“発見”に魅せられた人々
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糸井 |
井上さんの活動の根っこにあるのは好奇心。
中谷さんも一緒でしょう。 |
中谷 |
まるっきり同じです。
僕は北海道の室蘭で育ちましたが、
北国だと冬は学校の休み時間に外に出ないんですよ。
で、ペチカの前でいろいろ語るわけです。
僕の話をみんなが楽しみにするようになりましてね。
ところがそのうちに話すことがなくなる。
それで、図書館で本を読みだすわけです。
いかに嘘の話をつくりあげようかと。(笑) |
糸井 |
ネタを仕込む。 |
中谷 |
そのときに面白かったのが考古学の分野で、
世界的な発見をした人には心を奪われました。
トロイを発見したシュリーマンなんか、神話の中から
現実を掘り当てたとか言って、大嘘つきみたいなんだけど、
すごい感じがするじゃないですか。
それからツタンカーメンの墓を発掘した
ハワード・カーター、
アンデスの空中都市マチュピチュを見つけた
ハイラム・ビンガム−−。
彼らの発見のドラマを読むと、
これが泣けちゃう話なんです。
たとえばイギリス人のカーターは、カーナボン卿の
支援を受けてツタンカーメン王の墓を発見するんですが、
棺の上に枯れた花束が置かれていたんですね。
それは若い王妃が王に手向けた矢車草らしい。
そのときのカーターの言葉がいいんです。
「あたりに輝く黄金より、
枯れた矢車草のほうがずっと美しく見えた」。 |
糸井 |
くーっ、言うねえ。 |
中谷 |
彼は偉大な発見をしたにもかかわらず、お金は全部
すってしまうし、結婚もせず、一人寂しく死ぬんです。
その彼には好きな女性がいた。
ほかならぬカーナボン卿のお嬢さん。
でもカーターは小学校しか出ていなくて、
身分が違うというので結婚できなかったんですね。
ところが彼が死んだとき、彼女が葬式に現れて
見送ってくれたんですよ。
それから考えると、矢車草の話というのは、
自分の叶えられなかった恋に対する
イメージもあったんじゃないかと。
こうなると、話はきれいにまとまっちゃうでしょう。 |
糸井 |
ペチカ前の話ですねぇ。 |
中谷 |
あれだけ莫大な金と労力を投資して、
結局、黄金よりも人間の思い、つまり王妃が手向けた
花が好きだったなんてね。
でも、それ嘘だと思うんです(笑)。
本当は黄金も好きだった。
だけど、がぜん詩人になっちゃう。
マチュピチュを発見したビンガムもそうです。
この渓谷の上にとんでもないものがあるぞと現地の人に
聞かされて、井上さんみたいにドキドキしながら
険しい坂道を登っていく。雲の中から巨大な都市の廃墟を
発見したときのことを、ビンガムはこう書いています。
「私は夢を見ているのであろうか」。
そうなのかって、僕も行きましたよ。
……とんでもないところでしたね。
人間が行くもんじゃない。
夢なんか見ませんでした。高山病みたいになっちゃって。
でも、「夢を見ているんだろうか」って、
その1行がいいじゃないですか。
こういうことをペチカ前で話すと
人気者になるわけです。(笑) |
糸井 |
そして、『世界・ふしぎ発見!』につながる。 |
中谷 |
想像力より高く飛べる鳥はいない……。
僕は伝道師みたいな役目で、
井上さんみたいな方がいらして、
「こういうのが見つかりました」となれば、
それを増幅するのがわれわれの仕事。
また、そういう番組に出るのが糸井さん。 |
糸井 |
「カゴに乗る人、担ぐ人、
そのまたワラジをつくる人」 。
僕はできるならカゴを担ぎたい思っているんです。
なにしろ出もしない赤城山の埋蔵金に
あれだけ騒いだ人間ですから(笑)。
10回やって、「ありませんでした」に至るまで
充分に楽しみましたよ。
僕はあれ、群馬の赤城山の話だというので
引き受けたんです。生まれが群馬県の前橋だから。 |
中谷 |
故郷に錦を飾るというやつ。 |
糸井 |
いや、あの山に黄金が隠れているという噂は
地元の人ならみんな知ってたわけです。
目の前にケバだけでも出ていれば、
やっぱり引っ張ってみたくなるじゃないですか。
ちょっと服に糸屑がついていて、「あら、糸屑が」
というのがきっかけで恋が始まるみたいなものでね。 |
中谷 |
井上さんだってそうです。海綿採りの漁師の話を聞いて、
なんではるばるトルコ沖に潜るかって。(笑) |
糸井 |
海の中だから、危険なわけだし。 |
井上 |
そうですね。カリブ海の沈没船や海底都市だと
4、5メートル潜ればよかったけれど、
ウル・ブルンだと50メートルくらい潜りますから、
まかり間違えばどうなるかわからない。
常に死のリスクと向き合ってはいます。 |
中谷 |
僕らの場合も、スタッフは革命に出合ったり、
アフリカの村で捕らわれたりしてます。
ロケ地に着くと二日前に爆弾でやられていたとか。
人を楽しませたり、夢に賭けるということには、
それなりのリスクがともないますね。 |
糸井 |
それでも夢中になれるのは、
いい意味での「バカ」だからですよ。
今はどこを向いても、より堅実に、より効率よく
ということばかり言われてる。ところが、
みんなが聞きたがっているのは、ペチカ前の語りだとか、
バカなことをやってる人たちのお話でね。 |
中谷 |
僕もペチカ前の話がこんなに役立つとは
思いませんでした。今は電波を通じ、
1億人を前にペチカ話をしているわけです。
「ペチカ燃えろ!」ですよ。 |
糸井 |
毎回、番組で問題をつくるのは大変でしょう? |
中谷 |
だから多少、歴史をつくりかえているかもしれない。
藤原不比等は自分で歴史をつくりかえたらしいけど、
昔の権力者はよくそんなことをやりますね。
今は僕みたいな人間が歴史をつくる。(笑) |
糸井 |
エンターテイメントとして。 |
中谷 |
ただ、嘘っぽい話をつくることはありますけど、
嘘はいけませんから、その部分では襟を正して、
番組でも「ある部分は想像ですよ」と言うように
しています。まあ、人間がいるかぎり、
歴史のクエスチョンが尽きることはないですね。
(つづく) |