BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

“埋蔵好奇心”を発掘せよ!
(シリーズ全4回)

第1回 海底に眠るドラマ

第2回 “発見”に魅せられた人々

第3回 人は「知」を欲する

第4回
■さらなる謎を追って
糸井 井上さんがこれからやってみたいというテーマの中に、
日本の海に潜って、遣唐使、遣隋使の船を探してみたい
というのがあるそうですね。
井上 遣隋使船のほうは不明ですが、遣唐使船のほうは
遭難の記録があります。
海上交通を通じて、日本が先進文化と交流してきた中にも、
たくさん遭難、沈没の歴史がありますからね。
糸井 何艘行ったとか、記録に残っているわけじゃないでしょう。
井上 ある程度の記録は残っているのですが、
調査の組織的活動のほうは
すごく立ち遅れているのが現状です。
糸井 それを探し出す可能性となると、
巨人の松井の打率どころじゃない。(笑)
中谷 どのくらいの大きさの船だったんでしょう。
井上 詳しくはわかっていません。
類推して30メートルくらいだったのでは、
という説はあります。
ただ、当時は、建造技術や航海術も未発達でしたので……。
糸井 ボートなみ。
それで勉強のために唐とか隋に渡っちゃうんですからね。
中谷 仏典を求めて。
やっぱり中国に行けばなんかいいことがあるぞ、
という欲求に駆り立てられたんでしょう。
糸井 その当時の平均寿命って40歳代だと思うんですよ。
そうすると、人生って、生まれたこと、娶ったこと、
子供をつくったことくらいしか思い出がない。
枝葉はいろいろあるにしてもね。
中谷 中原永世名人みたいなことをしない限り……。
糸井 人生は短いし、いろいろ事件があるわけじゃないから、
「仏典あるよ、行かない?」と言われたら、
大ごちそう目の前に出されたみたいなもので、
「おう」となったのかもしれないね。
ワンちゃんたちにボールを投げると
バーッと走っていくみたいに。
そこに躍動する生命みたいなものを感じますね。
結局、船が沈没して死んだ人もいるわけだけど。
中谷 あらゆる成功がそうですが、
サルが一歩をしるすためには、
屍が累々としているってことですね。
井上 世界中そうです。船を利用して以来、古代エジプト王朝の
王家の船をはじめとして、これまでの多くの船が遭難、
座礁、転覆し、荒れ狂う波間に沈んでいます。
だから、海底のまだ発見されていない遺構や難破船の中に、
たくさんの悲劇のドラマが隠されているでしょうね。
糸井 井上さんは黒船にも興味があるとか。
僕らはペリー来航のときの船しか知りませんが、
実際には他にもまだあって、
途中で沈没しちゃったってことですか。
井上 どうもそういう情報があるようです。
これから少し詳しく調べてみたいと思っています。
糸井 井上さんとしては、そういう船がぜひ沈んでいてほしい。
井上 やっぱり、興味はひかれます。糸井さんや中谷さんを
海底にご案内できる日がくるといいのですが……。
糸井 中谷さんが関心あるのは?
中谷 衰亡史。大国の興亡ですね。
たとえば、あれほど偉大だったローマが
どうして滅んでいったのか。
糸井 それは自分の衰亡を
予感するトシになったということですよ。
青春は終わった。
中谷 アラララ……。
糸井 物事に終わりがあるのを、青春のときには知ろうとしない。
だけど、それを知ってからのほうが人生は面白い。
中谷 なるほど。
それから僕が糸井さんの次に尊敬しているのが(笑)、
ホーキング博士なんです。
彼はしゃべれないし、歩けない。指しか動かせないのに、
『ホーキング、宇宙を語る』って、この世のすべての構造、
原理を解き明かそうとしているわけですね。
冒険を夢見て大航海に出ていった人とか、
実際に一歩を踏み出した人間もすごいけど、
頭脳の中だけで世界や宇宙を支配しようとしている
ホーキングもすごい。

アルキメデスがいいこと言ってました。
「我に支点を与えよ、さすれば地球を動かしてみせる」と。
ホーキングがまさにそうです。
糸井 結局、人の脳の重さと、
その人にとっての宇宙の重さというのは
イコールだということなんでしょうね。

(おわり)

1999-01-09-SAT

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