BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 その正体は?

第2回 ウイルスは賢い

第3回 ひいてしまったら・・・
糸井 田中さんは風邪をひいたとき、どうして治してますか?
田中 ほっておくという……。(笑)
糸井 自然治癒力?
田中 原則として、寝てるだけです。
加地 田中さんのおっしゃる通りなんです。
風邪薬は症状を抑えてはくれますけど、
ウイルスに働くわけではありません。
体の中のウイルスと闘っておる防衛力というか、
治癒力を充分に働かすためには、
体を暖かくして寝ておるのが基本です。
田中 民間療法みたいなものもたくさんありますね。
卵酒やショウガ湯を飲む、ネギを首に巻くとか。
糸井 梅干しの黒焼きもいいって。
田中 話にはいろいろ聞きますよね。
僕自身はやったことはないですが。
糸井 僕、だいたいやってます。(笑)
加地 根拠はあるんですよ。
卵酒とかショウガ湯を飲むと体が温まる。
それからネギやショウガは、
呼吸器系を刺激して痰を出しやすくしますしね。
そのネギを首に巻くというのは、
首を温めれば、体全体もあったまりますから。
糸井 じゃ、ニラを巻いてもいい。(笑)
加地 民間療法での効果には、サイコロジーもあるでしょう。
これでよくなるという必勝の信念とか、
おばあちゃんから伝わる特効薬だと思えば効くわけです。
糸井 精神的なホメオスタシスを回復してあげる、
ということですかね。
田中 そう言えば、戦前にはやった健康法なんか見てると、
精神力を養うことで病気にならないとか、
治るとかいうものが多かったみたいです。
身体を鍛練しているようでいて、
実は根性を鍛えているという場合も少なくないし。
きっと、効果はあったんですよね。
がんばったのに、風邪くらい防げないと悲しいですから。
逆に、さきほど言われた「政治的風邪」を
無意識のうちに実際にひいてしまうこともあるでしょうし、
心の影響は大きいんでしょうね。
加地 気持ちのもちようと言いますが、
風邪をひくと仕事にならん、と気を張らしておる。
それも効果はあるんです。
糸井 休みの日になったとたん、
病気になったりしますもんね。
加地 私がアメリカ留学中に聞いた話では、
向こうの社長さんは土、日にしか、風邪をひかんのです。
こうした精神的なものとの因果関係も
解明されてきています。
糸井 わかってきましたか。
加地 人の体にはNK細胞(ナチュラルキラーセル)といって、
侵入してきたウイルスを
やっつけようと頑張る細胞があるんですが、
その細胞の働きが、気持ちのもちようで変わってくる。
がんの患者さんで、落語を聞くと
NK細胞が増えたという報告があります。
風邪も同じ。
精神的な状態が免疫や体の防御反応に作用して、
細胞レベルの働きで、風邪に罹らないとか、
早く治すというのがわかってきたんです。
そういう研究を「神経免疫学」というんですけどね。
糸井 そういうの、好きだなぁ……。
僕の場合、一つだけ、風邪を治す特効法があるんです。
人には勧めにくいけど。
田中 ぜひ、知りたいですね。
糸井 名づけて「徹夜健康法」。
自分なりの理屈ですけど、
人間は風邪をひいたりして体がきついときは、
補助タンクのスイッチが入るんじゃないかと。
そこで、無理やり徹夜しちゃう。
そうすると、風邪が治っちゃうことが多いんですよ。
加地 肝臓とか腎臓とか、人間の体の臓器には、
それぞれ予備力はあります。
糸井 やっぱり、そうですか。
加地 ただそれは若いときだけで、
年をとると予備力はなくなり、無理をするとダウンする。
糸井さんが徹夜して風邪がよくなるのは、
まだお若い証拠ですよ。
糸井 いや、実は最近、それが効かなくなって……(笑)。
でも、スポーツ選手なんか、
軽い風邪だと運動したほうがかえっていいと
聞いたことがあるんですが。
加地 一般的には、運動で
さらに体に負担をかけるのはよくないです。
だけど、風邪の予防にはいいかもしれませんね。
風邪は寒さが原因だと誤解されがちですが、
それは間違いで、寒さは
ウイルスによる感染のきっかけをつくるにすぎない。
でも、きっかけではありますから、
乾布摩擦とか薄着でスポーツするとか、
皮膚を鍛練して寒冷刺激に慣れさせると、
風邪をひくきっかけをつくりにくくはします。
寒さに対するトレーニングですね。
糸井 人間はここのところ、急に過保護になってますよね。
3食きちんと食料を得られるようになったのも、
ごく最近のことでしょう。
でも人体そのものは急激に変化するはずはないから、
粗食とか、原始の生活にもどしたり、というのも
必要じゃないかと思うんです。
加地 人間は何百万年も前からのリズムに慣れてますから、
糸井さんのおっしゃるように、
生活環境が急に変化しても、体は変われない。
今、昼夜逆転の生活が多くなってますけど、
体のリズムは狂います。
寒さのトレーニングにしても、
日本には春夏秋冬があって、
寒いときは寒いなりに体がきちっとできてる。
それを今のように小さいときから
冷房、暖房完備で暮らしているのはよくないですね。
糸井 僕の徹夜健康法は極端にしても、
ボディに負荷を与えて鍛え直す、
というふうに考え方を変えていかないと、
人類は脳ばかり発達して、
肉体はますます衰弱していくような気がするんです。
田中 紅茶キノコ以来、ぶらさがり健康器、野菜スープ、
コインやテープを体に貼る、
パンツをはかない、あるいは赤いパンツをはく、
おしっこを飲むとか、いろんな健康法が数え切れないくらい
次々に登場してきたわけですけど、
それぞれの効果はどうあれ、
人間の身体の本来の生命力とは関係ない、
単なるフェティシズムのようなものが多いですね。
健康になりたい、ってよく言うんだけど、
健康という観念にふりまわされているだけで、
強迫的な健康願望が、
むしろ害になっていることもあるように思います。
ただ、民間療法と呼ばれる世界にも、
すごい人がいて、たとえば整体法を創始した野口晴哉に
『風邪の効用』という有名な本がありますけど、
これはタイトル通り、風邪の大切さを説いているんです。
なんの役に立つのかというと、
日常生活のなかで身体に偏って蓄積された疲労などを
調整するんだと言う。
そのために身体が風邪を求めているとも言えるわけです。
だから「治る」と言わずに「経過する」と言う。
この考えは、病気を悪としか見ない常識とは
対立するものですが、
僕はこのような疾病観がとても好きなんです。
そこで、ふと思ったのですが、
人間はずーっと風邪をひいてきたわけで、
もし、医学の進歩や薬の開発で風邪をひかなくなると、
ひかないことのマイナスみたいなものも、
ひょっとして出てくるんじゃないでしょうか。
加地 たしかに風邪をひくことは悪いことばかりでもない。
体への黄信号の役割をしますし。
風邪はウイルスが原因ですが、
副次的な要素として抵抗力が落ちてるということでもある。
だから、「疲れすぎてますよ」
「無理をするともっとひどい病気になりますよ」
「ゆっくり休みなさい」
というサインにはなりますからね。
糸井 その「ゆっくり休む」というのは、
どのくらいの期間ですか?
加地 普通の風邪は1週間くらい、
インフルエンザだと2、3週間は必要です。
病気そのものは1週間ほどで治りますけど、
呼吸器の組織はウイルスによって
細胞が破壊されてますから。
つまり、戦った跡がまだ残ってる……。
田中 ああ、荒れた戦場の後処理をしなくちゃいけない。
加地 細胞が修復され、呼吸器の機能が元通りになるには、
やはり2、3週間はかかります。
症状がとれたというので無理をすると、
そこで肺炎になるんです。
糸井 ほかの病気を併発するんだ。

第4回 寒くたってダイジョウブ

第5回 ワクチンは受けるべきか

2000-12-02-SAT

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