第5回 ワクチンは受けるべきか |
糸井 |
先生がなぜ、風邪をひかないかをお聞きしなくちゃ。 |
加地 |
簡単なんです。
体のコンディションを崩すと風邪をひきやすいから、
過労や睡眠不足を避ける。
もう一つは、普通の鼻風邪だと喉がいがらっぽい、
くしゃみが出るとか、ひきはじめがわかるでしょう。
するともう寝ちゃう。
これを「第1日目の注意」といいます。
もしそこで2、3日無理すると、
鼻水から始まって症状がずーっと出る。
洋食のフルコースでいえば、スープからデザートまで。
それが1日目で休むとスープだけで治ります。 |
田中 |
予防の点で、日常の心がけは? |
加地 |
鼻風邪の場合だと、手についたウイルスが
口を経てうつります。
鼻風邪の人の40〜90パーセントが、
手にライノウイルスをつけとるんですよ。
ティシュペーパーで鼻水を拭くときにつくんですね。
その手で触ったものにほかの人が触れると、
そこで感染する。
さきほどのイギリスの「風邪研究所」が、
ポーカーで実験しましてね。
風邪の人をメンバーに入れてゲームをやると、
手から手へウイルスがうつるのがよくわかる。
ですから予防として、手洗い励行は大事ですね。 |
糸井 |
洗いたくなっちゃう。(笑) |
田中 |
うがいはどうですか。 |
加地 |
ウイルスは喉にくっつくと、すぐに細胞に入り込むので、
過大な効果は期待できません。
それに喉はヒダヒダがいっぱいあって、
うがい薬が行き渡るのは難しい。
でも清潔にしておくことで、
喉の抵抗力を保つことにはなります。 |
糸井 |
じゃあ、インフルエンザの場合は
どう予防すればいいんでしょう。 |
加地 |
インフルエンザウイルスは
くしゃみや咳によって飛び散りますけど、
せいぜい飛んで2、3メートル。
ところが、床に落ちたものが乾燥して埃と共に舞い上がり、
空気中に浮遊して呼吸器に入るんです。
マスクもある程度の効果しかない。
空気感染するウイルスの侵入を遮断するには、
息を止める以外ないんです。 |
糸井 |
……困りました。 |
加地 |
それで私は、毎年、ワクチンをしてるんです。 |
田中 |
ワクチンは予想した型と違えば、
まったく効かないと言われてますが。 |
加地 |
最近は世界的な監視体制がありますから、
はるか遠い国で、これまで流行したのと
違うウイルスが出ても、わかるんです。
そして今度はこれだというので、
次の年のワクチンをつくる。
予想はよく当たりますよ。
今だとA香港型、Aソ連型、B型と、
この3つのどれかが流行るんですね。
3つともワクチンに入っています。
同じA香港型でも武漢株、シドニー株とか
型が少しズレることもあります。
でも少しくらいズレておっても、
ワクチンによる免疫はある程度効くんです。 |
糸井 |
僕は型が少しでもズレたら、
ワクチンはもうダメだと信じてた。 |
加地 |
間違った情報がテレビや週刊誌で流されるもんだから、
私も困っちゃって。
まったく新しい型が出たときは、
その型に合わせたワクチンじゃないとダメですけど、
今、毎年出てるウイルスは、
連続変異での少々のズレですからね。
それよりも深刻な問題はワクチンの不足です。 |
糸井 |
足りない? |
加地 |
昔は学童の集団接種なんかで大量に
ワクチンをつくってたんです。
ところが、効かない、副作用がある、
という考え方が広まって、
平成6年から任意接種になりましてね。
1回、4千円とか5千円を自己負担しなきゃいけない。
それで接種率がまたどーんと落ち、
メーカーは生産規模を縮小したんです。
この頃はワクチンに対する関心がまた高くなってきたけど、
生産量が少ない。
生産規模を回復すればいいんだけど、
これが設備の問題なんかもあって簡単にはいかないんです。
ワクチンは1年きりしか使えないから、
たくさんつくって捌けないと処分するしかなく、
その保障は誰がするかとか、
難しい問題がいろいろありまして。 |
糸井 |
でも、政治システムの中で解決できることですよね。 |
加地 |
厚生省もワクチンの制度を見直し中です。
効果を疑問視する方もいますが、
相対危険で0.3。
これはインフルエンザに罹った人のうち70パーセントは、
ワクチンをしていれば
罹らなくですんだだろうという意味です。
お年寄りだと、もし罹っても軽くすむし、
肺炎を合併しないですむ。
したがって死亡という最悪な事態を
予防できる可能性も高い。
ワクチンにはそういう効果があるんです。 |
糸井 |
副作用は? |
加地 |
注射したところが赤く腫れてちょっと痛む人が
10パーセントくらい。
それよりさらに低い頻度で、
多少、熱が出る人もいますが、すぐにひきます。
統計的には、100万回接種したら
0.3パーセントくらいの頻度で、
重症の神経系統の副作用が出ることはありますけど。 |
糸井 |
100万回で、ですか。 |
加地 |
ですから、副作用としては非常に少ないといえます。 |
糸井 |
僕、ワクチンしよう。 |
加地 |
ともかく、インフルエンザを
風邪に毛のはえたものと思っちゃいけません。
アメリカでは普通の風邪を「コールド」、
インフルエンザを「フルー」といって、
完全に分けてます。
会社でも普通の風邪だと
「休みなさい」とは言われないけど、
「フルーになりました」と言えば、
「そりゃ大変。すぐ寝なさい」と。
インフルエンザが流行してるとき、
エレベーターで誰かがくしゃみや咳をしたら、
息を止めてすぐにいちばん近い階で降りること、
なんていう心得も本で紹介されています。 |
糸井 |
日本は少し前まで、風邪もインフルエンザも一緒くたで、
インフルエンザになっても無理して出社するのが偉い、
みたいなところがありましたよね。 |
加地 |
美談でも何でもないです。
愛社精神があるなら、会社をお休みください。 |
田中 |
話をうかがっていて、ほかの病気だと、
どうして根治するかという話になりますが、
風邪は、どう病気と生きていくかという話になるのが
面白いですね。 |
糸井 |
そう、誰もみな風邪はひくんだし、
要はどう付き合うか、ですね。
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