第1回 その正体は?
|
糸井 |
今まさに、風邪のシーズンです。 |
加地 |
インフルエンザだと12月頃に始まり、
1月がピークですからね。 |
糸井 |
風邪はひかれますか? |
加地 |
私はひかないです。 |
糸井 |
さすが、“風邪博士”。
その秘訣はあとでうかがうとして、田中さんは? |
田中 |
僕はよくひきます。 |
糸井 |
そうでなきゃ(笑)。
きょうは、加地先生に、
いろいろ教えていただくという形になりそうですね。 |
田中 |
風邪について面白いなと思うのは、
病気は普通、「罹る」と言いますが、
風邪だけは「ひく」とも言いますよね。 |
加地 |
英語でも、「キャッチ・ア・コールド」と。 |
田中 |
他動詞と自動詞の違いもあるし。
それで風邪の場合、疾病観なんかもほか
の病気とは違うのかなあと思いまして。 |
糸井 |
くじ引きの「引く」とか「引き込む」みたいな
言葉の使い方ですよね。
悪いクジ引いちゃったみたいな。(笑) |
加地 |
ほかの病気と異なるのは、
あまりにポピュラーだという点ですね。
詳しく調べてみると、1人の人が1年間に
平均6回くらいは風邪をひいています。 |
糸井 |
そんなに? |
加地 |
ちょっとした風邪だと、
いつのまにか治ってるものだから忘れてるんです。
「風邪なぞひいたことがない」と豪語する方がいますが、
血液を調べると
ちゃんと風邪のウイルスに対する免疫があるんです。
免疫ができてるということは、
自覚はなくても、しっかりひいておられる。 |
糸井 |
申告は主観の部分も大きいんだ。 |
加地 |
なかには、会社を休むための口実に使う、
“政治的風邪”もありますが。(笑) |
糸井 |
お医者さんのカルテには、「風邪」とは書きませんね。 |
加地 |
風邪は、いろいろな原因によって
起こる呼吸器系の急性炎症性疾患の総称です。
症状としては、鼻水が出る、鼻がつまる、
くしゃみが出る、喉が痛い、咳が出る。
と同時に、発熱、頭痛、体のだるさ……。
それらを一括したのが「風邪」で、
正確には「風邪症候群」と言います。
原因のほとんどはウイルスで、
そのウイルスもいろんな種類がありますから、
患者さんを診ただけではわからない。
そこで、呼吸器のどこがいちばん強く冒されているかで
病名をつけることが多いです。
鼻水も出るけれど、診ると喉の炎症がいちばん強い。
その場合は「咽頭炎」とか。 |
糸井 |
それ、よく診断書に書かれます。 |
加地 |
咳がひどいときは「急性気管支炎」という診断がついたり。
いちばん多いのはいわゆる鼻風邪。
くしゃみに始まり、ティッシュペーパーを
山ほど使うくらい鼻水が出て、1週間くらいで治る。
これは医学用語で「普通感冒」といいます。 |
糸井 |
普通感冒。
ずいぶんいい加減な名前のような……。(笑) |
加地 |
英語で「コモン・コールド」。
非常にコモンだから。
それから「インフルエンザ」がありますね。
インフルエンザは症状がまたちょっと違います。
急に高い熱が出て、頭痛や腰痛、筋肉痛、
関節痛なんかがあって、
全身がだるいという症状も強く出ます。
鼻水とか咳、喉が痛いという症状はちょっと遅れて出て。 |
田中 |
ひとことで風邪といっても、さまざまなんですね。 |
加地 |
病原体もいろいろで、ウイルスでも
どんなウイルスかを調べるには手間も時間もかかります。
ようやくわかった段階では、もう患者さんは治ってる。
それにウイルスを特定できても、
直接効く薬はないんですよ。
ウイルスは細胞に寄生しているので、
薬となると、細胞に影響を与えず、
ウイルスだけをやっつけなきゃいけない。
それが非常に難しいんです。 |
糸井 |
イヤなもんですねえ。 |
加地 |
この頃やっとインフルエンザウイルスに対しては、
直接、効く薬ができつつありますが……。 |
糸井 |
ああ、希望の光。(笑) |
加地 |
でも、ウイルスの種類は多いですから。
鼻風邪はライノウイルス、喉を主にやるのは
アデノウイルスとか、9種類くらいある。
しかもライノウイルスならライノウイルスの中に、
さらに100種類以上もの型があるという具合で……。 |
糸井 |
ひゃーっ。 |
加地 |
たとえばライノウイルスの中の一つの型に罹ると、
それに対しては免疫ができますけど、
残りの99の型には免疫がありませんから、
そのつど感染して症状が出る。
だから1年に5、6回も風邪をひくし、
それが一生となると、
どのくらい風邪をひくかわからないわけです。 |