BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 その正体は?

第2回 ウイルスは賢い

第3回 ひいてしまったら・・・

第4回 寒くたってダイジョウブ
加地 医学の進歩によって風邪をひかなくなるのでは、
というお話がありましたが、
風邪のウイルスそのものがなくなることはありません。
インフルエンザにしても、大昔から人間に感染しながら、
ウイルスはずっと維持されてきている。
糸井 ある意味で、共生してるわけだ。
田中 インフルエンザのウイルスは、
もともと動物がもっていたものですよね。
加地 トリとかブタ、ウマ、アザラシとか、いろいろです。
そうした動物を宿主として維持されてきたウイルスが、
さまざまな手順を経て人間の世界に立ちあらわれ、
流行を起こす。
普通、このウイルスはこの宿主にくっつく、
というようにきちっとした関係があるんですが、
その点、ブタは寛容でしてね。
人のウイルスでもトリのウイルスでも受け付ける。
糸井 わかるなあ。ブタは寛容そうな気がする……。(笑)
加地 ブタが、人間とトリ、
両方のインフルエンザウイルスを受け付けて感染し、
体内で2種類のウイルスが増殖するとどうなるか。
遺伝子のリコンビネーション
−−交雑が起こるんです。
いろんな組み合わせで「新種」ができるんですが、
人間に病気を起こす性質をもち、
免疫はトリの型を受け継ぐとなると、怖いですよ、
これが出ると。人間には免疫がないから、
大流行します。
糸井 ブタの寛容さも困りもんだ。
田中 ブタのインフルエンザって、どんな症状が出るんだろう。
糸井 やっぱり、クシュッとか。(笑)
加地 ええ。ブタもくしゃみして、鼻水たらしますよ。
もともとは、インフルエンザは
トリの病気だったと言われています。
大昔の人間はごく小人数で暮らしてましたね。
インフルエンザウイルスは感染して維持されますから、
人がパラパラとしかいないと、
数十人が罹ったらもうおしまい。
トリだと、人口ならぬトリ口はものすごく多い。
だからウイルスにとっても、自分を拡大していくうえで、
トリが宿主だと都合がいいわけです。
糸井 なんだか、社会の国際化について話をしてるような。
加地 そうなんですよ。
ウイルスは電子顕微鏡でしか見えないくらい
微小なものですけど、広がり方は世界レベルで。
糸井 ミクロとマクロ、ですね。
話をうかがっているとコミュニケーション論であり、
流行論、国際社会論も入っている。
歴史の面でも面白いんじゃないですか。
加地 歴史ということでは、紀元前のアテネで
ペロポネソス戦争というのがありましたね。
流行病でたくさんの人が死に、
そのためアテネはスパルタに敗れたという説がありますが、
その流行病はインフルエンザではなかったかと……。
糸井 ナポレオンが冬将軍に敗れたのも、
インフルエンザのためだったと言われてますね。
そんなふうに歴史にも影響を与えながら、
ウイルスは生き続けるんだ。
加地 今だと交通が発達して人の動きが激しいでしょう。
ウイルスは人に乗っかって動くから、
社会が近代化して便利になればなるほど
ウイルスには都合がいい。
糸井 文明社会下のウイルス……。
加地 赤痢や腸チフスとか、文明化したり生活水準が上がると、
制圧されてくる病気も多いですけど、
呼吸器を介在する病気の場合、また別なんです。
田中 じゃあ、もしかしたらいちばん最後まで残る病気は、
風邪かもしれない。
加地 風邪をはじめ呼吸器でうつる病気。
あとはSTD−−性感染症でしょうね。
糸井 そこに何か、人間の面白さを感じます。
コミュニケーションが介在してますもんね、どっちも。
田中 北極や南極はあんなに寒いけど、
風邪はないと聞きました。
閉ざされて人の交流が少ないからなんでしょうね。
加地 北極に近いところにスピッツベルゲンという島があって、
冬は海が凍って交通が途絶するんです。
そこの住人は風邪をひかないのに、
春に氷がとけて大陸から船が着いたとたん、
風邪がわっと出た。
船の乗員によってウイルスが運ばれてきたんですね。
これ、
「風邪はウイルスで起こるのであって、
 寒さが原因ではない」
という証明でもありますけど。
糸井 うーん、寒さじゃないんですね。
加地 風邪と寒さとの関係では、
イギリスの「風邪研究所」で実験をしましてね。
被験者がウイルスに感染しないよう隔離したうえで、
寒いのに、お風呂上がりの濡れたままの状態で、
さらに濡れた靴下をはかせ、
そのままずーっと廊下に立たせる。
雨が降る中を外に出す……。
糸井 効くうっ。
イメージだけで、風邪ひいちゃう。(笑)
加地 ところが、いくら寒い目にあわせても(笑)、
風邪をひきませんでした。
糸井 でも、日本でインフルエンザが流行するのは、
寒い冬ですよね。
加地 インフルエンザウイルスは湿気に弱いんです。
室温20℃くらいで湿度が50パーセント以上あれば、
早く死ぬ。
ところが日本の冬は乾燥してますね。
人間の呼吸器は冬だと抵抗力が弱まってるし、
人は室内に集まりがちです。
ウイルスにとっては非常に活動しやすい条件が揃っている。
それで日本は冬に集中する。
熱帯だと1年中、散発的に
インフルエンザの患者さんが出てますよ。
田中 とくにインフルエンザが流行しやすい地域、
というのはあるんですか?
加地 人から人への強烈な感染力ということから、
人口密度が大きなファクターにはなるでしょうね。
糸井 すぐ思い浮かぶのは香港だけど。
加地 ええ。
よく中国の奥地で新型が出ますね。
あそこはブタとかトリと
非常に密接な接触のある暮らしをしてまして。
そこで出た新型ウイルスが香港に持ち込まれて広がり始め、
流行が認知される、ということは多いです。
糸井 アンテナショップみたいだ。(笑)
加地 ほんと、そうなんです。

第5回 ワクチンは受けるべきか

2000-12-11-MON

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