BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


眠れない夜のために
(全3回)


どうして羊を数えるの?
「シープ、スリープス、シープ、スリープス・・・・」
という“語呂合わせ”が
さんの説。
さて毎晩数える人も、羊いらずのあなたも、
目指すは、眠りの“唯我独尊”!

構成:福永妙子
写真:外山ひとみ
(婦人公論2000年2月22日号から転載)


井上昌次郎
東京医科歯科大学
生体材料工学研究所所長。
理学博士。
1935年ソウル生まれ。
東京大学大学院修了。
世界睡眠学会連合理事。
睡眠の仕組みを、
脳科学の立場から
学際的・国際的に研究する。
著書に
『睡眠の不思議』
『ヒトはなぜ眠るのか』
など

葉子
ノンフィクション作家。1961年群馬県生まれ。
早稲田大学卒業。
昨年、
10年来の不眠症を抱える
自身の格闘、
眠れない人々への
取材をもとに
『不眠な人々』
(太田出版)を出版。
著書に
『家路を急がぬ人びと』
『それでも家を
  買いました』
など
糸井重里
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は
多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。


婦人公論井戸端会議担当編集者
打田いづみさんのコメント

余計なお世話ではありますが、ワタクシ、
糸井さんの「睡眠生活」に興味がありました。
だって、日本時間でもブラジル時間でも、
いつも活動してらっしゃるんですから。

ということで、まずは糸井さんの
「前夜の眠り」報告から始まったこの日。
(ちょっと眠そうなお写真↑にも注目)
不眠症だった矢さんの格闘ぶりをうかがい、
睡眠の仕組みを井上先生に教えていただくうち、
人は、その人のように眠る、ということが
だんだん明らかに……。

寝不足で焦ってる方、
少し気を楽にしてくれるヒントが満載ですよ。

第1回
眠れない人々
糸井 すいません!
ギリギリになっちゃいまして……。
僕は昨夜、矢さんのお書きになった
『不眠な人々』を読むうちに、眠れなくなりまして。
普通は眠くなるものなんですけど。
糸井 いや、あの本、不眠症がうつりますよ(笑)。
それで本にも出てきた薬、
メラトニンを飲んじゃったんです。
睡眠を誘発する作用がある……。
糸井 時差ボケ解消のために飲んだことはあるけど、
効かないと思ってたんです。そしたら……。
効いたんですか?
糸井 効いた、効いた。
実は30分前に起きたばかりで。(笑)
井上 メラトニンは、飲む時間がタイムリーじゃないと
効かないんです。
よほどタイミングがよかったのか。
ツボに入っちゃったんですね。
糸井 入った……。
さんも不眠症に悩んでたんですよね。
ええ。
不眠症には「入眠障害」「中途覚醒」
「早朝覚醒」「熟眠障害」とありますけど、
私の場合は寝つくのにひどく時間がかかってしまう
入眠障害です。
眠りたいのに眠れない。
ようやく眠っても浅い眠りだけ。
そんな日が続くんです。
糸井 それはいつ頃から?
ひどくなったのはここ1、2年ですけど、
会社をやめた10年前くらいから
不眠気味になりました。
フリーって、自分で生活を
全部コントロールしなくちゃいけないでしょ。
眠るのも自分次第みたいな。
それで普通の人が働いている時間に寝てると、
どこか怠けてる気になったりして。
私は知人から
「心臓を荒縄で巻いたような図太い性格」
と言われたこともあるけど、眠ることさえも
プレッシャーになっていったのかもしれない。
糸井 眠れないときって、すごくあせるんですよね。
朝刊が配達されるバサッという音があるでしょう?
あれがイヤでしたね。
まんじりともしないまま朝を迎えて、
あのバサッを聞くと、
「ああ、今日もまた眠れないままこの時刻になった」
と思うわけです。
テレビをつければ、さわやかーな顔したお姉さんが、
「行ってらっしゃい。今日も1日元気で」
なんか言ってるじゃないですか。
それ見て、「まだ寝てないわよ!」って突っ込んで、
またドーンと落ち込む。
体のキツさ以上に、眠れずにいる4、5時間を
「どうしよう、どうしよう」
と思いながら過ごす、それがすごく辛いんです。
ついには、ベッドに入ること自体が怖くなって……。
糸井 大変そうだなぁ。
でも本を書くために取材をしたとき、
「実は私も眠れなくて」という人が
まわりにもいっぱいいて、
不眠の人が増えてるという実感がすごくありました。
糸井 不眠の悩みそのものは、昔からあったんでしょうか?
井上 平安時代の『病草紙』という絵巻には、
まわりはみな寝ている中で、一人だけ起きて、
指を折って数える仕草をしている
女官の絵があります。
あれは、あきらかに不眠の現象ですね。
ですから今に始まったことではないんですが、
ストレスが多かったり、
不規則な生活を送りがちな先進国では、
なんらかの睡眠異常に悩む人の数は
増加の一途です。
成人の5人に1人は不眠を訴えているという
報告もありますもんね。
これ、アメリカに迫る勢いだとか。
井上 アメリカには睡眠専門のクリニックが
1500くらいあります。
日本では専門の病院がまだまだ少ないから、
アメリカ以上に大変です。
糸井 睡眠異常――と言うんですね。
井上 眠っているべき時間帯に眠れなくて、
起きている時間帯に眠くてしょうがない。
そのために“生活の質”を
長期に渡って損なうというもので、
不眠症、過眠症、どちらも入ります。
睡眠異常は原因によって、
さらに34種類の疾患に分類できるんですが、
大まかに分けると3つです。
1つは精神的なストレスなど、
身体内に起因するもの。
最近よく聞かれるものでは、
突然眠くなって、意識を失ったように
ガクンと寝てしまう
ナルコレプシーという病気は遺伝的なものですが、
眠っているときに呼吸ができなくなる
睡眠時無呼吸症候群は、脳に欠陥があったり、
肥満で気道が狭くなっているなどの
原因が考えられます。
それから、寝室の環境が悪い、などの
身体外の原因によるもの。
そして、時刻というか、リズムの問題が
うまくいかないことによるものです。
糸井 時差ボケなんかも、
リズムが狂うことで起こるんですよね。
井上 睡眠異常の1つに分類されてますね。
それからリズムの問題で若い人に増えているのが、
学生時代に夜型の生活を送っていて、
就職して昼型に戻そうとしても戻らないというもの。
糸井 それも病気なんですか?
井上 病気です。
ずーっと時差を解消できない状態が
続いているわけです。
ほかには、24時間のリズムに
体を合わせられないという病気もあります。
もともと人間の生物時計は
およそ25時間周期だけど、
毎朝起きて光を浴びたときに、
自動的に24時間リズムにリセットされる。
だから、私たちは外界リズムに適応して
生活できるわけですね。
ところがそれがリセットされずに、
約25時間のリズムのままでしか
生活できない人もいるんですよ。
じゃあ、1日に1時間ずつ遅れていっちゃう。
井上 「概日リズム睡眠障害」と呼ばれるもので、
そうしたリズムのズレが原因と思われる
登校拒否や出社拒否も最近すごく増えてます。
これ、赤ちゃんのときの
生活パターンの影響もあるんですよ。
えっ、そんな小さい頃の……。
井上 人間は生まれて数ヵ月の間に、
外界と自分の脳との関係がつくられます。
そして、生物時計が昼夜のリズムに
同調できるような機能を自然にもつんです。
ところがこの時期に、1日中明るくて
昼夜の変化がない部屋で生活したり、
親とのコンタクトが不規則だったり、
要するに1日の単位がないような
環境で生活をしてると、
体内時計の約25時間周期を
1日のリズムに合わせて修正しないまま、
一生、自分の時計で生活することになる。
そして、そんな子どもたちが、
ここにきてどんどん増えつつあります。
子どもたちがキレるとか、
学級崩壊という現象が問題になっていますね。
躾の問題ばかりがよく言われるけど、
こうしたリズムの問題で
24時間社会に同調できないことが
背景にあるかもしれない。
そこのところは警告しておきたいですね。
そういう病気の人は、
光を当てる治療をしてもダメなんですか。
井上 光を当てるとか薬を飲むとか、
いろいろ方法を試みるんですが、
なかなか24時間のリズムに同調できない。
深刻な問題です。
私、不眠の人たちを取材したときに
感じたんですけど、
女の人は自分の眠りの状況や
そのときの心理状態を
ちゃんと語ってくれるのに、
男の人はなかなか話してくれない。
不眠について男女のとらえ方の違いが
あるんでしょうか。
井上 眠りというのはプライバシーの部分ですから、
見せたくないという心理が男には
あるのかもしれない。
睡眠障害という病気そのものは、
男性のほうが多いんですよ。
というのも、女性は男性よりも、
生物として緻密でデリケートにできている
高級品なんです。
それにくらべて男性は粗雑にできてる。
糸井 ありゃ、粗雑品ですか。(笑)
井上 子孫を残すのが至上命令の女性の体は、
生殖活動的な機能が男よりも多く、
睡眠もまたそのシステムをサポートしてるんです。
だから睡眠の質と量においても、
女性の方が男性より優遇されています。
ただ、現代社会はスイッチをオンにして
連続運転したり、オフで休ませるような
ロボットに近い社会ですからね。
男性は比較的それに合わせやすいけど、
高いレベルにある女性が
一挙に低いロボット並みに合わせようとすると、
大きなストレスになったり、歪みが生じたりする。
糸井 精密機械であるがゆえに、
ちょっとの埃で狂ってしまうみたいな。
井上 そういう意味では、女性が睡眠に対して
不満をもつ割合は、
男性より高いかもしれません。
それから女性の場合、
生殖活動の続いている時期には
睡眠も保証されますけど、その時期を過ぎると、
子孫を再生産する仕事は終わったとばかりに
急激に体が変化する。
そのため更年期以降、
不眠を訴える人は多くなりますね。

第2回 命がけの行為です

第3回 寝グルメ、提唱!

2001-01-21-SUN

BACK
戻る