BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 モノに変えて味わう快感

第2回 お金は使って完成品になる

第3回
子供に財産は残すな
糸井 僕のきょうの出費は、
お昼にハンバーガー一つ食べただけだから、
200円くらい。
その昔、会社から渡される経費を、
使うときに出そうと思って
適当に押し入れにしまっといたら、
あるとき200、300万円くらいになってたこともありました。
そういうふうに、僕はお金をぜんぜん使わないんです。
だけど、何かをするときに、お金がないと動き出さない。
エンジンがかからないってところがあるじゃないですか。
その意味では、ただ無駄に押し入れの中にしまっておくんじゃなく、
ちゃんと回転させるように使うことも必要じゃないかと、
この頃、思うんです。
お金は、世の中をうまく回していくための
潤滑油みたいなものですよ。
潤滑油がないと、摩擦がしょっちゅう起こったりする。
そして潤滑油として上手に使うためにも、
お金に対する自分なりの考え方をもつことが
必要になるんですね。
糸井 僕は、お金を使うのにもプロとアマがあると思うんですよ。
お金持ちであれ貧乏人であれ、
お金を使うセンスや才能が見事にない人っていますよ。
誰もがみな、中村さんの真似はできない。
中村 私がセンスがいいかどうかというのは、
また別の問題で。(笑)
糸井 中村さんの金の使い方って、極端な言い方をすれば、
ジェットコースター乗りっぱなしで
心臓ドキドキさせながら
生きてるみたいなもんじゃないですか。
これねぇ……プロなんですよ。(笑)
中村 そうなんですか?
糸井 そうなんです。
中村 ほめられてるんでしょうか(笑)。
私、お金は天下の回りものだから、
どんどん使い続けていれば、いつか回り回って
自分に返ってくる、みたいな言葉を
このあいだまで真に受けてたんです。
糸井 このあいだまで、ですか。
中村 42歳にもなって月末の預金通帳の残高が98円だなんて、
やっぱりいかんなと思い始めたんです。
だけど、ここはひとつ買い物をガマンして
財テクに走ろうかと考えた瞬間、頭のこのへんで、
「守りに入っちゃいかん」という声が聞こえる。
糸井 わかります、わかります。
それに98円じゃ財テクもできないし。(笑)
中村 お金を使い続けているからこそ仕事も入ってくるんで、
守りに入ったら、
ダメになっちゃうんじゃないかという恐怖があるんですよ。
泳いでいなきゃ死んでしまう回遊魚のように。
糸井 マグロのように。
中村 マグロです。
こういうのは間違っていますかねぇ。
いえいえ、お金を使うことは、間違ってないです。
糸井 使えるお金があるのに、使わない人もいますもんね。
子どもに譲ると遺言を書いて、
自分はやりたいことも楽しみもガマンして、
死んだあとに息子がパーッとすぐに使っちゃった
─みたいな話を聞くと、哀しいじゃないですか。
私に言わせると、先入観の強い人が多すぎますね。
財産は代々、子どもに残すものだと思い込んでる。
厚生省で、財産は子どもに残しますかというアンケートをとったら、
60何パーセントがそうすると。
なんで残す必要があるんでしょうかね。
年をとったらまだ大きな仕事が残っていて、
それは生きてるうちに自分のお金をきれいに使うことです。
糸井 将来に対する漠然とした不安があるから使わない、
という人もいます。
だから人は年をとるとケチになる。
でも、死ぬまでお金を手元に置いておいて、
子どもに渡るときに税金をたっぷり取られるんじゃあ、
税務署のために金庫番やってるだけですよ。
糸井 うん、その通りだ。
お金を使うことって、一般の人にはどこか抵抗があって、
決心も実行力も必要みたいです。
でもだんだん年をとって先が見えてくると、
食事だって食べる量も少なくなるし、
1個50円のトマトより、
300円でもおいしいほうがいいですよ。
僕はずっと以前から、
自分は77歳で死ぬという予定を立てていたんです。
糸井 暫定的に終わりを設定してるわけですね。
フランスのボルドーに行ったときも、
それに合わせた本数のワインを
200万円くらい買ったりしてね。
でも77歳といったら来年でしょう。
どうも死にそうにないのよね(笑)。
それで、そのあとのお酒がないと困るというんで、
最近またワインを買いだめしたんです。
そういう具合に、何歳で死ぬと決めたからには、
終着駅まであとどのくらいか、わかってるわけね。
糸井 それはそれで活気が出る。
時間軸を考えに入れるのは大事なことですね。
そのあいだに、やりたいことをやらなきゃ
間に合わないと思うんです。
だからお金も、使えるうちに使うほうがいいですよ。
それに、あるところまで到達したら、
使うのがイヤになりますから。
中村 イヤになりますかね?
私もそれに期待してるんですけど。
僕にもほしいモノは何でも買った時代はあったけど、
いつか卒業してしまうものです。
今なんかヨーロッパに2週間旅行に行っても、
自分のものを買うために1ドルも使わない。
欲しいものなんか何もない。
シャツだってユニクロの1900円の着たりしてる。
糸井 ある程度までいったら、
かえって自由になれるのかも。
中村さんも突然、別のものに
興味がシフトしちゃうんじゃないですか。
中村 そういえば最近は、
仕事で強制的に買い物をさせられているような……。
無邪気に、ああエルメス、ああシャネルって言いながら
買ってた時期が懐かしい気がします。
今なんかシャネルの受注会とかショーに呼ばれても、
行かなきゃ買い物しなくてもすむなあ、と思うんです。
でも、この「行かない」というのが敵前逃亡みたいで、
敵に背中を向けたくない。
「中村も落ちたもんだ。受注会にも来やしねえ」
と思われるのがイヤで。(笑)
糸井 意地になるわけですね。
中村 それで行っちゃうんです。
で、ショーを見て、
今年は買わなくていいやと思うんですけど、
店員さんが揉み手で
「お気に召したものはございましたか」
と待っていると、
買わなくちゃ悪いんじゃないかという気になる。
結局、散財して、翌月に引き落とされるカード代金のために
出版社に前借りをして、
でもまぁ、エッセイのネタにさせてもらうかと、
まるで吉本の芸人のようで(笑)。
無駄遣いする私に対し、周囲の期待もありますでしょう。
それに応えるといいますか。
そんな自分が、媚びてるようでイヤなんですけどね。
糸井 媚びてますか?
中村 ええ。ブランド品なんて、
自分に中身がないから欲しがる金メッキみたいなもんよ、
なんてことはわかってまして。
だからといってやめると、
そんな自分がやっぱり媚びてるような……。
その昔は、お金がない卑屈さゆえに
媚びているのかと思ってた。
でも、ある程度のお金が入るようになって、
お金を使い始めますね。
そしたら、お金の使い方も人に媚びてるんですよ。
その点、うちの夫は香港人なんですけど、
お国柄なのか、それとも家系なのか、
お金に関する感覚は私とは違いますね。
私なんか仕事の場で
最初にギャランティの交渉をするのはイヤ、
みたいなところがありますけど、
彼はそういうことを恥ずかしいと思わない。
お金のことを過小評価もしないし、
過大評価もしないんす。
糸井 そういうのは羨ましいですね。
中村 私もそこは学ぶべきだと思いますけど、
ぜんぜん学習してない。
ともかく、媚びることから脱却することが、
とりあえずの私の目標ですね。
糸井 お金から自由になるために必要な金額、
というのもありそうな気がします。
このラインから、というような。
これ以上稼いでも同じだというラインとして、
月に100万円、使えるお金があればいいと
私は本に書いてます。
糸井 100万円ですか。
はっきり数字が出てくるところがセンスですね。
そしたら読者のアンケートはがきで、
「100万円なんてとんでもない」
という感想が来ましたけどね。
私はみなさんに100万円稼げと言ってるわけじゃない。
ただ、「使えるお金で月に100万円ある」人は、
それ以上のお金を持っている人と、
生活内容はほとんど変わらないということです。
そういう人たちは家もすでにあるし、
あとは乗ってる車がロールス・ロイスか
国産の小さな車か、くらいだけの違いだけでね。
糸井 たしかにそうですね。
毎日、高級レストランに行ってるはずもないし。
上を見たらキリがないというけれど、
実際は100万円越えたら、そう違わない。
もちろん、誰もがそこまでいけるわけじゃない。
じゃあ今度は、人に義理を欠いたりせず、
恥ずかしくない生活をするための
いちばん少ないラインはいくらかといえば、
30万円ですね。
糸井 またまた、具体的な数字が出てきますね。
たとえば定年で仕事は引退した。
一方で、子どもは巣立ち、家のローンも終わって、
うちの中のモノはひと通り揃っているという場合、
年寄り夫婦だけで暮らすとしたら、
月30万あったらなんとかやっていけます。

第4回 お金は寂しがり屋

2001-03-05-MON

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