第4回
お金は寂しがり屋 |
糸井 |
邱さんは、これまでいくつくらい事業をなさったんですか? |
邱 |
「邱先生は、やらなかったことのほうが
少ないんじゃないですか」
と人に言われたことがあります。
たとえば上海へ行って、
ある角から次の角まで歩くとするでしょ。
その間に10くらいの仕事を考えます。
考えるだけでやらなければ、
どのくらい金持ちかと思うんだけど、
余計なことをやるから、損をするんです。 |
糸井 |
最近、損をしたのは? |
邱 |
そうですねぇ。3年前は43億と26億、
それからおととしは20億円、損をしたかな。
もっとも私の場合は会社のお金ですけど。 |
中村 |
はぁ……。 |
糸井 |
拍手ですね、もう。(笑) |
邱 |
お金を持っているという感覚はぜんぜんないんだけど、
損をする元手があるというのが自分でも不思議でね。
僕はこれからもまた、いっぱい損をして、
死ぬまでに全部なくなってしまうかもしれませんよ。
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糸井 |
楽しそうに聞こえるなぁ。
失敗すると、分析したりするんですか。 |
邱 |
いや、しません。
“余計なことをしたな”と思うだけで。 |
糸井 |
サッパリしてますね。 |
邱 |
こっちのポケットのものが
あっちにいったというくらいの感覚なんです。
それに後は振り返らない。
そうそう、去年の末から
また新しい仕事を7つか8つ始めました。
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中村 |
すごいバイタリティですね。 |
糸井 |
邱さんの生きる目的というと。 |
邱 |
そんなに偉大なことを考えてるわけじゃないですよ。
どうやったら退屈しないですむか─それだけです。 |
糸井 |
なんかわかります。
同じことをやってて、マンネリになったらイヤになる。 |
邱 |
何年かにいっぺんは、ご破算にする必要があるんです。 |
中村 |
お金の扱いに関して、
縁起をかついだりすることはあるんですか。 |
邱 |
あまりないですね。
ただ一度だけ、人から財布をもらいましてね。
その財布に替えたとたん、大損をしたことがあった。
その財布はすぐ人にあげましたよ、
損をするだけの金を持ってない人に。 |
中村 |
金を持ってない……、そりゃ、絶対に損はしませんね。 |
邱 |
その人、
「先生からもらった財布、なかなかいいですよぉ」
って。(笑) |
糸井 |
なにかと回してますね。
僕は昔、あるパーティーの席で邱さんから、
「糸井さん、土地買っておいたらどうですか」
と言われたことがあったんです。バブルの前ですが。 |
邱 |
おや、そうでしたか。 |
糸井 |
「金はないし、だいいち、
どういうところを買えばいいかわかんないです」
と僕が言ったら、邱さん、
「ムードのいいところを買いなさい」
とおっしゃった。
学校が近いだの何だのっていう不動産屋の軸じゃなく、
「ムードのいいところ」という言葉に、
僕はシビれましたね。 |
邱 |
僕の住んでいるところを見てごらんなさい。
最初に事務所として買ったのは表参道の四つ角、
その次に買ったマンションが公園通り、
その次に建てた本社ビルは渋谷、
今、家があるのは代官山。
ムードのいいところを選んだら、
しばらくすると、そこがものすごく賑やかな街になるんです。 |
中村 |
ムードがいいというと? |
邱 |
たとえば表参道は、シャンゼリゼに似てると思った。
それであるときカミさんと表参道を車で走ってて、
信号が赤で止まったときにひょいと左を向いたら
「売家」の看板がある。
「ここはいい場所だね」
とカミさんと話して、
信号が青になるまえに素早く電話番号メモして、
その日のうちに売り主と交渉ですよ。
そんなふうに、「なんとなく、この場所は」というのがあるんです。
その表参道の建物は、
30年前に1600万円で買ったものなのね。
それを今は人に貸してるけど、
いちばん高いときは
敷金で1億8000万円もらってましたから。
今でも月に200万円の家賃もらってる。 |
糸井 |
お金って、あるところに集まるようになってますねえ。 |
邱 |
お金は寂しがり屋で、
仲間がいるところに集まりたがるんですよ。
どうしてみなさんのところに
お金がなかなか行かないかというと、寂しいところだから。 |
糸井 |
バレてる、お金に(笑)。
じゃあ、お金に会えるようにしておくことも
大事なことで……。 |
邱 |
そのためにも、お金は使って動かさなきゃしょうがないんです。
それから、お金は臆病者ですからね。
危ないと思うとすぐ逃げ出す。
浜辺のカニと同じで、
ワッと脅かしたら1匹もいなくなる。
それが最近みたいに株が高くなるぞっていうと、
またノソノソいっぱい出てくる。 |
糸井 |
急に投資家という人たちがいっぱい現れましたものねえ。
隠れてたんだ。 |
邱 |
これから、ものすごい勢いで株式ブームになりますよ。 |
糸井 |
ちなみに、どういう株が狙い目なんでしょう。 |
邱 |
世界中の金を上手に集める力のある会社の株が
高くなりますね。
あと、日本の証券会社の株。
みんな先入観で、金融関係は悪いと思ってるでしょ。
この3、4年、証券会社は赤字を続けたけど、
含み資産で赤字を消してしまってるの。
しかも税務署にはマイナスが残ってるから、
儲けても税金払わんでいいのよ。 |
糸井 |
はぁ、そうかそうか。 |
邱 |
円高とは外国のお金が円を買っているということです。
だから株が上がるんです。
あとは通信業がすごい。
今、みんな道歩いてても電話かけてるけど、
夜はね、日本に出稼ぎに来ている
外国人や留学生がもっぱら電話をかけてて、
そのお金が一年に800億円ですよ。
でも日本の通信業はもう株価が高くなってるから、
僕が目を向けるのは中国。
中国には十億人もいますからね。
それが一斉に電話をかけたら……。 |
糸井 |
すごそうだ。 |
邱 |
中村さん、こういうところに投資するっていうのはどう? |
中村 |
いま、お話を聞いてて、
「そうか、チャイナテレコム!」とか思った(笑)。
心は動くんですけど、
私はその世界のセンスがないから無理ですね。
ちょっと儲けたら気が大きくなって調子にのり、
次には大火傷してる自分の姿が目に浮かびます。
今ですら、火ダルマなのに。(笑) |