第3回
マニュアルからはずれよう |
糸井 |
街行く人の装いで、
どんなところに目がいきますか。
やはりニット? |
広瀬 |
ニットは見飽きてますから。
それより、同じようなスーツの人ばかりの
通勤電車の中で、
「スーツ姿でもここがちょっと違う」
という人がいたときなんか、
ハッとしますね。
違うと言っても、以前、
ある首相が着ていたような
半袖スーツはイヤですけど。(笑) |
大橋 |
私はブランド品を着ている人には興味ないですが、
自分好みの格好をしてる人には、
ついつい目がいきます。
そういう人は考え方も
似てるんじゃないかなと思ったりしますね。 |
糸井 |
僕には、“おしゃれ=部族説”
というのがありまして。 |
大橋 |
部族? |
糸井 |
部族ごとに、おしゃれがある。
たとえば暴走族の人たちがいるじゃないですか。
あれはあれで部族の流れがあって、
網のサンダルとか、
風にハタハタする縮みのシャツとか、
あの世界でカッコいいとされるものがあるんですよ。
それも竹の子族なんかと違って、
もっと広がりがある。
カラスみたいはマスクしてるやつがいたり。
僕はそういうのを見てて可愛いと思う。
自分とは違うけど、OKなんです。 |
大橋 |
あの人たちなりのおしゃれね。 |
糸井 |
おっ、そう出たか、
というところにクリエイティブがあるんです。
バイクの乗り方だって、
みんな足開いて乗ってるでしょ。
あれ、すごく危ない。
教習所ではタンクを膝で押さえて乗れと教わります。
それを無理して足開いて乗ってる。
ほんとバカなんだけど、
僕はいいんじゃないのって思う。
どこか無理してるって、
もしかしたらおしゃれの大切な
ポイントかもしれませんね。 |
大橋 |
自分自身のことを考えてみても、
苦心したり、無理してますもん。 |
広瀬 |
勇気、やっぱりいりますね。 |
大橋 |
気張らないとね。 |
糸井 |
安心の中に入っていくのはつまんないですよ。
ブランドの何と何が合うというのを
一所懸命に算数みたいに計算して、
「これにはこれ」というのは、
“勉強”みたいな気がする。
それだったら、いっそ外れて、
たとえば暴走族のスタイルにいったほうが
カッコよく思える。
結局、おしゃれにはマニュアルがある
っていう考えが僕には気持ち悪いのかな。 |
大橋 |
本当は、おしゃれに決まった
マニュアルなんてないんですよね。 |
糸井 |
ピアノでも、マニュアル通りに弾けば
上手かもしれない。
だけど、聴いててつまらないというのはあります。 |
広瀬 |
上手なのと魅力的なのは違う。 |
糸井 |
でも、おしゃれ論というと、
これまでは、どうマニュアルをつくるかばかりを
みんな考えてきたみたいで……。 |
大橋 |
そして、ほとんどの人が
そのマニュアルに何とか自分を当てはめようとしてね。
私は、そういうことをしてる
自分自身がカッコ悪いと思っちゃうんですね。
今、原宿なんかで
変な格好して頑張っている子たちがいるでしょう? |
糸井 |
います、います。
「どうしちゃったの?」と言いたくなるような
奇抜な色やデザインを組み合わせたファッションで。 |
大橋 |
あの子たち見てると、
逆にカッコいいなあって思うんです。 |
糸井 |
「いいねえ、その失敗」
と言いたくなる(笑)。
早い話、これとこれが合うって一覧表があれば、
おしゃれのフリなんかすぐできるんです。
テレビに出てるタレントさんて、
スタイリストが用意した通りの格好をしているでしょう。
ズルいっていうか、お笑いの子も
カッコよくなっちゃってるじゃないですか。
あれ、つまんないですよ。
リハーサルのときの私服姿のほうが、
おしゃれとしては下手でも、
ずっと魅力的だったりするんだな。 |
広瀬 |
私はニットの仕事の前に、
水産会社のサラリーマンをやってたんですね。 |
糸井 |
じゃあスーツにネクタイ? |
広瀬 |
ええ。それが辛くて、
少しでも自分好みにしようと、
ダーツの入ってる白以外のシャツにしたり、
ネクタイくらいなら自分で編んだりして……。 |
糸井 |
ネクタイくらいなら、って。(笑) |
広瀬 |
当時のことで面白かったのは、
終業時間の5時になると、
男ばかりでコップ酒飲みながら話をするわけです。
スーツ脱いで、ステテコ一丁になって。
すると、みんなイキイキとしてる。 |
糸井 |
わかる、わかる。 |
広瀬 |
暑いのに、なんでこんなネクタイ
締めてなきゃいけないんだろうと思ってたのが、
時間外になって自分らしい格好にもどったとき、
表情まで変わってくる。
おっさんには、こっちのほうがいいじゃないか、
よほどおしゃれなんじゃないかと思いました。
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