BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


おしゃれの近道
(全4回)


たとえ「変な人」と思われようが、
装いの基本は唯我独尊である?!
時代をつかむイラストレーター、ニットの貴公子、
パンツの達人が集まってみれば・・・・

ゲスト
大橋歩
広瀬光治

構成:福永妙子
写真:橘蓮二
(婦人公論2000年4月22日号から転載)



大橋歩
イラストレーター。
1940年三重県生まれ。
多摩美術大学
油絵学科卒業後、
「平凡パンチ」の
表紙専属を7年半つとめる。
以来、雑誌や広告等で
幅広く活躍を続ける。
「おしゃれする」
「おしゃれにうつつ」
「おしゃれは大事よ」
「きものでわくわく」
など 装いに関する
著書も多数。

広瀬光治
ニットデザイナー。
1955年埼玉県生まれ。
水産会社に
つとめるかたわら、
専門学校で編物を学び、
日本ヴォーグ社に転職。
全国で講座を持ち、
NHK教育テレビ
「おしゃれ工房」
に出演するなど、
その華麗な作品と
語り口から
“ニットの貴公子”
として人気を博している。
糸井重里
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は
多岐にわたる。
当座談会の
司会を担当。


婦人公論井戸端会議担当編集者
打田いづみさんのコメント

デスクの前に、
何年も貼りっぱなしのブロマイドが1枚。
私の視線でボロボロになったそこには、
総レースのニット姿で端然と微笑む美男子が……。
そう、まさにその憧れの君が、
今回のゲスト・広瀬光治さんなのです。
そして、「おしゃれ」と言えば、
もう一人の憧れの人・大橋歩さんのお話を聞きたい!
(ブホッ) ……ということで、
鼻息荒く当日を迎えた担当者でありました。
春の一日、大橋さんは素敵な藍のお着物でご登場、
白いコートを脱いだ貴公子は、
ピンクのニットに
水色のジャケット(パールのブローチ付き)という装い、
糸井さんも紺のパーカーがお似合いでした。

第1回
道行く人に振り向かれても
糸井 さすが広瀬さん、
すごいニットを着てらっしゃいますね。
大橋 シルクでしょう?
きれいなピンクベージュで、
レースみたいに細やかですね。
すごく手間がかかってそう……
広瀬 そういうフリをしてますけど(笑)、
そんなに手間はかかってないんです。
糸井 製作時間はどのくらいですか。
広瀬 1日8時間かけたとして
4日─32時間くらいですか。
実際には、移動中の新幹線の中などで
モチーフだけを編んでおくんです。
15分あれば1枚できますから。
あとで、それをまとめてつけて仕上げるとか、
そんなやり方をしてます。
糸井 広瀬さんは明るい春のニットだし、
大橋さんはシックな和服だし、
僕、なんだか恥ずかしいな。(笑)
大橋 私は、お茶のお稽古の帰り
そのままの格好なんです。
広瀬 藍染めで、味わい深い色ですね。
大橋 この着物は“薩摩”という木綿ですけど、
お茶の席では座ったまま、
ずって移動したり、
体の向きを変えたりしますでしょう。
絹だと滑るのでよいのですが、
木綿は滑らないから、これは本当は向いていないの。
でも、お茶をこぼしても、心配じゃないですしね。
広瀬 普段もお着物が多いんですか。
大橋 月に3回あるお茶のお稽古には、
頑張って着物を着ていきます。
糸井 こうしてお二人が並んでると、
ジャンルは違うんだけど、
それぞれに板についているのが羨ましい。
大橋 そんな……。
私、着物を着たとき、
襟をぜんぜん抜かないものだから、
「こけし」って言われるんですよ。(笑)
糸井 いや、着慣れてる感じです。
僕なんか、まったくおしゃれじゃないから。
「おしゃれだぞ」と主張してるものが苦手で、
新しい服を買うと洗濯して水を通したり、
古着にしたくなるんです。
そんなだから、いちばんイヤだったのが、
バブルの頃に多かったですけど、
路上にいるアンケート屋さんみたいなソフトスーツ。
大橋 ああ、あれ……。
糸井 テレビの番組でおしゃれの
採点をするのがあるけど、あれも嫌い。
何と何が合うだの、
この組み合わせは考えられないだの、
人に言われる筋合いじゃないだろうっての。
たとえばの話、アフリカのマサイ族の衣装を
採点できるかといえば、できないわけですよ。
おしゃれの基準って、
自分で「あ、こうじゃねぇな」と思いながら、
好きなものを自由に選んでいく。
そのうちに自分の着たいものが決まっていく
─というのが僕の理想なんです。
で、きょうのゲスト、お二方とも、
「このファッションは私だけ」
って感じがして、気持ちいい。
僕、広瀬さんをテレビではじめて拝見したとき、
驚きましたもん。
広瀬 アハハハ。
こういうニットを着てますから、
「何だろう、あの人」
って言われることは多いです。
最近でこそ「ニットの先生」として
顔を知ってくださってる方も増えましたけど、
はじめて講習会に立つようになった
12、13年前は、街を歩いていても、
道行く人から
「あれぇーっ」
ってよく振り返られました。
最初の頃は、恥ずかしかったですね。
糸井 えっ、恥ずかしかったんですか。
広瀬 でも、ニットの仕事をしてますから、
ニットで振り向いてもらうことは
ありがたいことなんです。
これが普通のメリヤス編みのセーターだと、
多分、見過ごされてしまう。
ニットにはこういうのもあるよ、
というのを知ってもらうためには
驚いてもらうことも大切でして。
大橋 生徒さんに教えるとき、
途中で何度か着替えをなさるそうですね。
広瀬 ええ。
講習会は私の舞台ですし、舞台に立つとき、
ニットは私の衣装なんです。
せっかく編んだものを見てもらって、
より多くの人に訴えかけたいし、
それに講習会では飽きさせない工夫も必要ですから。
お昼休みにご飯を食べたあとは、
誰でも眠くなりますね。
そのとき私の衣装が変わっていると、
生徒さんは「あれっ」と目が覚める。
午後2時か3時頃、もう一度睡魔が襲う頃に
黒板の後ろで着替えて登場すると、
また眠気が吹き飛ぶ。
そうやって最後まで目を覚ましたまま、
講習を受けて、帰っていただく。
糸井 見事だ。(笑)
広瀬 今じゃ自分でも着替えが楽しみで、
きょうは3回着替えられたとか。(笑)
糸井 作家の橋本治くんも編み物が得意で、
僕はセーターをプレゼントされたことがあります。
それも僕の本の表紙の絵を、
そのまま模様にしてくれてね。
広瀬 橋本さんの編み物は、
1枚の絵を描くという感覚ですよね。
表現する道具が、たまたま絵の具でも
色鉛筆でもなく、毛糸だったという考えで。
ただ、いくつも色を使うから裏がすごい(笑)。
糸をいっぱい切ったあとがそのまま見えて。
あれは私たちにはちょっとできないですね。
糸井 ニットの先生としては、ね。
そのあたりは違うけども、共通しているのは、
「私が楽しい」ってことですよね。
広瀬 ええ、自分が基準なんです。
人から見たら
「あれ何だろう」というようなものでも、
それが自分なりのおしゃれだったりしますもんね。
大橋 私もお茶の稽古では、
生徒さんはほとんどが普通の主婦の方で、
私のように木綿の着物でなく、
みなさん柔らかい縮緬の小紋とかを
お召しになってる。
でも私にはそういうのは合わないし、
着たいと思わないから、
ずっとこういうので通してきたんですけど、
最初のうちは、
「変な人」って目で見られたみたいです。
でも、そのうちに、
「あっ、あの人はあんなものだ」
と思ってくれるんですね。

第2回 しゃれもんの時代へ

第3回 マニュアルからはずれよう

第4回 パンツの力

2001-04-08-SUN

BACK
戻る