BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 道行く人に振り向かれても

第2回 しゃれもんの時代へ

第3回 マニュアルからはずれよう

第4回
パンツの力
糸井 大橋さんは今、
どういうものを好んで着ているんですか?
大橋 私はコム・デ・ギャルソンが多いんですね。
デザイン的にはシンプルなものもありますけど、
かなりこだわっている形が多いでしょう。
私は背もこんなに小ちゃいし、
それをどうやって着るかという戦いが
常にあるんです。
でも、もしその戦いがなかったら、
きっとつまんないと思う。
似合ってないよねえって、
そわそわしながら着てますけど、
それに挑戦し続けることで、
自分が前に向いているような気持ちになれるんです。
糸井 挑戦−−ですか。
大橋 若いときは何を着てもカッコいいんです。
でも、年を取ってくると体型も変わるし、
どんどんカッコよくなくなる。
私たちの年代って、なんでこんなふうに
おなかが出てきちゃったんだろうとか、
その都度その都度、
崖っぷちに立たされてるようなものです。
でも、そこで放棄しちゃったら、
もうその先はないのね。
広瀬 あとは、ウエストが
ゴムのスカートになるだけで……。
大橋 太っていようが痩せてようが、
みなさん個々に違ってていいんです。
ただ、それなりにカッコよく見える工夫をすることが、
おしゃれだと思うんですね。
だから私は、似合ってないなあと思いながらも、
諦めずに努力だけはし続けたい。
糸井 常に参加してないとダメですね。
大橋 そうじゃないと、気持ちがおしゃれのことに
ついていけなくなる気がする。
それが怖い。
最近買ったのは、紺地に白の水玉のスカートで、
裾にフリルがついてるんです。
普通だったら、
そんなフリルなんて恥ずかしいですけど、
私、どうしても欲しくて買ったんです。
着てみると、ちょっちょっとフリルがあるのが
何とも嬉しい。
そんなふうに自分の背中を押す意味でも、
できるだけ新しいと感じるものは買って、
似合おうが似合うまいが、
挑戦していきたいと思うんです。
糸井 自分に似合う似合わないって
どういうことなんでしょうね。
大橋 うーん、それ難しい。
広瀬 私の場合、鏡に映したときの、
「あっ、これは好きだな」
という感じかもしれないですね。
糸井 僕のようにかまわない人間でも、
行ってきまーすと家を出たのに、
着てるものがなんかイヤな感じがして、
着替えに帰ったりすることがある。
大橋 昨日似合ってたものが、
今日は似合わないということもあるし……。
わからないから、
努力していろいろ着続けているんでしょうか。
糸井 僕が自分でいちばん似合うと思っているのは
パジャマなんです。
パジャマを着てるときが、
いちばん自分らしくて、
うん、俺だなあって気がする。
それから僕、パンツだけは高級品ですよ。
大橋 見えないけれど、何か安心?
糸井 もともとは高いものを
着たりする人間じゃないんですよ。
1年間ずーっと同じジーパンをはき通しますし。
でもどんどんドレスダウンしていって、
そこでパンツもセコいと、
全部が安くなって、おしまいなんですよ。
せめて自分の値段を
3千円分くらい残しておきたい。(笑)
広瀬 私は、そんなに高いのははかないなぁ。
普通のでいいです。(笑)
糸井 広瀬さんは外側にちゃんと重しが効いてるから、
それでいいんですよ。
大橋 私、お茶のお稽古は朝早いものですから、
着付けがどこか変だっりしても、
直す時間がないんですね。
それが気になって気になって、
お稽古でも、どうしてここを間違えるの?
ってとこでお手前を間違えちゃう。
糸井さんのようにいいパンツはいてるとか、
きょうはキチっとしてるなと思ってることが、
1日の気分を左右する。
それを考えると、着るものって、
「たかが」じゃないですね。
糸井 僕が羨ましいと思うのは、
靴下にお金をかける人。
靴下のいいのをはいてると、
気分もすごくリッチなんですよ。
ところが、それってなかなか難しくて、
靴や靴下ってダメになりやすいから、
意外とケチになる。
大橋 私は夫の靴下を買う係なんですけど、
最近は、色や柄に凝った、
いい靴下がなかなか見つからないんですよ。
糸井 景気が悪いせいか。
広瀬 結局、当たり障りのないところに、
しわ寄せがいくんですね。
大橋 広瀬さんは、毎日、
ご自分の作品を着ていらっしゃるんですか。
広瀬 出張に行くときはジャケットのこともありますが、
うーん、1年の3分の2はやはりニットですね。
糸井 作品をつくるとき、刺激を受けるものは?
広瀬 糸の感触が最初ですね。
あ、この糸をこう編んでみたいな。
この糸で立体的なモチーフをつくってみようとか。
糸井 そうか、糸選びなのか。
広瀬 ええ。
出会い、というのか、
その糸が編んでほしいと言ってるようなものは、
やっぱり手がいきます。
ほかにデザインのヒントとしては、
たとえば歌舞伎を観て、
あの着物の桜をなんとか表現したいと
モチーフの一つにしてみたり。
それから私の生徒さんはみな女性ですから、
広瀬が着ているデザインがそのまま、
女性にも着られるように
ということも考えてつくります。
きょうのニットにしても、
普通の男の人はまず着ないですよ。
でもサイズを変えてつくっていただければ、
女の人には着てもらえますから。
糸井 そうか、それで“衣装"でもあるわけなんですね。
広瀬 家にいるときは、
ごく普通のアラン模様のセーターを着てますよ。
糸井 いつも肩パットが入ってるわけでもないんだ。
広瀬 ないです。(笑)
大橋 これまで何着くらい、おつくりになりました?
広瀬 1千着以上はつくってます。
糸井 全部、とってあるんですか。
広瀬 講習会で1回着たものは
生徒さんが覚えていますから、
あまり着られないんです。
それに年間20着以上つくってると、
置くスペースもなくなりますから、
どんどん人にあげてしまう。
撮影用にとってあるものもありますけど、
基本的には作品に対して、
そんなに執着はないんです。
1個終わると、
それは過去のものになってしまいますから。
私はほんのわずかな合間でも、
かぎ針や編み棒を持って手を動かしてますけど、
結局、編むこと自体が好きなんですね。
糸井 カッコいい!
大橋 広瀬さんをひきつける編み物の素晴らしさって
何でしょう。
広瀬 糸1本からつくる魅力ですね。
布だと柄が決まってたりするけど、
編み物は糸を組み合わせたり、
編み方を変えたり、
糸の段階から自由な表現ができます。
糸井 いちばん大きな作品というと……。
広瀬 妹の結婚式のお色直しのドレスですね。
いつか結婚するんだろうと思いながら
3年くらいかけて編みためてたのを、
結婚が決まったときにパッと仕上げて。
糸井 ジーンとくる。
僕も今度、編みぐるみをやるんです。
人形をつくるやつ。
広瀬 ぜひ見せていただきたいですね。
糸井 ところで広瀬さん、毎日とっかえひっかえニット
を着ていて、部屋の整理整頓ってどうなってます?
広瀬 いやあ、私の部屋は汚いですよ。
脱いだら脱ぎっぱなし。
糸井 やっぱり、そうですか!
大橋 そんなふうに見えませんけど。
糸井 いやね、僕の観察によると、
おしゃれで独身の男の部屋はたいてい汚い。
着脱ぎして積み重なった洋服が
堆肥みたいになってるパターンが多いんです。
広瀬 まさにその通りです。
糸井 いちいちきれいに整理整頓してたら、
おしゃれしていられないんじゃないか。
画家で絵の具のパレットを
きれいに整理してる人って少ないでしょう?
大橋 そういえば、いない。
私も絵の具を使ったあと、パレットは洗わないです。
そのほうが次のときに描きやすい。
真っ白いパレットの上で一から始めると、
かえって色数が使えなくなるような……。
糸井 でしょう?
自由度がなくなるんです。
きちっと整理しておくことと、
自由にいろいろやれるってことは反するんじゃないか。
おしゃれに関してもそうだと、僕は思いますね。

2001-04-23-MON

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