第1回
タネも仕掛けも
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糸井 |
僕、小さい時から手品が好きだったんですよ。
実は初めて出した本も
『スナック芸大全』というくらいで。 |
パルト |
持ってます。 |
松田 |
いじわるゲームを集めた
古典的名著です。 |
糸井 |
そうですか(笑)。
昔、学校の近所に
手品のネタみたいなのを
売りにくるおじさんがいたでしょう。
僕は学校さぼってついていきました。
いろいろ見ましたけど、
竹の棒に石を縛りつけて
斜めに立てるという手品は、
カッコよかったですねえ。
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松田 |
あれは重心安定の原理を使った
物理トリックですね。 |
糸井 |
できるんですか? |
松田 |
やじろべえと一緒ですよ。
普通、茶碗をひっくり返して、
その糸底に立てるんですけどね。 |
ボナ |
先生、さすが詳しいですね。
やってたんですか?(笑) |
糸井 |
僕はマジック好きな人の生活や性格に興味があって、
そういう人は、
朝、「行ってきます」と出かける時に
ポケットやバッグに
何か仕組んだりするわけでしょ。
そのまぬけな努力が好きなんですよね。 |
ボナ |
スライディーニっていう、
もう亡くなったイタリアの名人がいるんですけど、
彼はね、たとえばパーティに呼ばれると
仕掛けをしていくんです。
でもリクエストがなかったら絶対にやらない。
「何かやっていただけますか」
と言われた時だけ、
「何も用意してないんだけど」
ってやるんです。 |
糸井 |
憧れるなあ。
自分だけが努力して、
報われる日もあれば報われない日もある。 |
パルト |
彼は有名だったから、
たいていはリクエストされますよね。
でもされない日には
「もったいないなあ」
なんて思いつつも、
「それじゃあ」
って帰っちゃう。 |
糸井 |
そのもったいなさはカッコいい。 |
ボナ |
今日なんかでも、
この部屋に糸井さんが来る前に
仕込んでおくトリックもあるんですよ。 |
糸井 |
あ、前にそれを助手のコにやられたことがあります。
「この部屋で、手紙を隠すとしたらどこがいいか、
好きなところを1ヶ所選んでください」
って言われて、
「ここ」って選んだら、そこに
「ほら、やっぱりここでしたね。へへへ」
なんて書いた紙があったんです。
要は、事前に部屋のあちこちに
同じ紙をしまってあったんですけど、
びっくりしましたね。 |
ボナ |
同じようなネタ、今、持ってますよ。
お見せしましょうか。 |
パルト |
それ、誰かに、リクエストされましたか? |
ボナ |
今言われたから、
しょうがなく出すんですよ。(笑)
では、編集部の方にお願いしましょう。
ここにトランプの、
ハートの1、2、3がありますね。
これを裏返して並べます。
で、マッチ箱を持って、
3枚のカードの上をスーッと動かす。
何か感じたら、
そのカードの上にマッチ箱を置いてください。 |
――
(以下
編集部) |
はい。 |
ボナ |
では、どうぞ。 |
―― |
じゃ、このカードの上に置きます。 |
ボナ |
(カードを開ける)これ、1ですね。
さあ、マッチ箱を見てみましょう
(マッチ箱を開ける)。
見てください。 |
―― |
(中に入っていた紙を渡され、開ける)
あれっ?
「あなたはハートの1を選ぶ」と出てきました。 |
ボナ |
当たったでしょ。もう1回、やります? |
―― |
はい。今度はここにします。 |
ボナ |
(カードを開けると3が出る)
また予言されてますよ。
ほら、このカードに
「あなたはこのカードを選ぶ」
と書かれています。 |
糸井 |
これ、2は……? |
ボナ |
2はここです。
(マッチ箱の裏に「あなたは2を選ぶ」という文字) |
―― |
皆さん、なんでわかるんですか……
あっ、選んだカードが1だったら
マッチ箱から紙を出して、
2だったらマッチ箱の裏を見せる。
3はカードそのものに書いてある。
どれでも当たるようになっているんですね……
やっとわかりました。 |
糸井 |
このトリックを知っていると、
怪しい宗教的なまやかしが、
すいぶんわかりますよね。
「北に大事な人がいる」
みたいな言い方がよくされるけど、
大事な人っていっぱいいるでしょ。
で、「北に」と言われたら、
みんな、それなりに探すんですよ。
ああいうまやかしに、
騙されないような勉強になりますね、手品は。 |
―― |
いま、勉強になりました。(笑) |
糸井 |
松田さんはこういうふうに、
「たまたま」なんてことはしないんですか。 |
松田 |
予言トリックですか。
昔はよくやりました。 |
パルト |
先生はかなり枚数が多かったらしいですよ。
3枚なんかじゃなくて、52枚全部あって、
「ハートの9でしょ。そう思いました」
とか言って靴脱いで
靴下の中から出したりして(笑)。
52枚、全部覚えてるからすごいですよね。 |
松田 |
知らない人が聞いたら、
本当かと思いますよ。
今の予言トリックは昔からある原理だけれど、
さっき、ボナさんが
「もう1回やります?」
と言ったでしょ。
あれはナポレオンズの工夫ですか。 |
パルト |
あ、そう言われればそうかもしれません。
いつもやってるんですが。 |
松田 |
その演出は新しいですね。
いいアイディアです。
知的所有権を主張できる。 |
糸井 |
なるほど。
マジックは、見せ方、演出までも含むんですね。 |
パルト |
これは誰それのタネ明かし方法、
というのもありますから。 |
糸井 |
そういえばナポレオンズは
よくタネ明かしをしますけど、
仕掛けを隠し通すようなことはないんですか。 |
パルト |
だから、本流じゃないんでしょうね。 |
糸井 |
あ、そういうことになるんですか。 |
パルト |
昔から伝わってる
松旭斎という流派などには原則があります。
「これからこんなことが起きますよ」
という現象を先に言わない、
同じ現象を2度やってはいけない、
タネ明かしをしてはいけない、とかね。
でも、僕らは
もともと遊びたいという部分がありまして、
タネ明かしまで楽しみたいんですよ。 |
松田 |
タネ明かしの楽しみという
新しいジャンルを開拓した
偉大なアイデアだと思います。 |
ボナ |
もっとも、すべてのタネを
明かすわけじゃないですけど。 |
糸井 |
手品には、
仕掛けをわかりたいと思わせるものと、
わからなくてもいいと思わせるものが
ありますもんね。 |
松田 |
でも、いいトリックというのは
だいたいシンプルです。
タネを知ってみると、
どうしてこんなもので人が騙せるのか、
不思議に思いますよ。 |
ボナ |
トリックの結果としての現象だって、
消える、移動する、出る、増える、
それから通り抜ける、瞬間移動、
これくらいなもんですよ。
あとは、これを
どう組み合わせるかだけですからね。
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