第2回
手品好きの人々
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糸井 |
そもそも、みなさんの
マジックとの出会いを聞きたいなあ。 |
松田 |
私は子供の頃に読んでいた本ですね。
『少年倶楽部』の付録に
単純なカード当てトリックの解説があったのですが、
その読心術的な演出に感心しましてね。 |
糸井 |
友達や家族の前でやりました? |
松田 |
いや、私は人見知りする子供でしたから、
あまりやってないです。
しかし、誰かが書いてたな。
手品というのは
コンプレックスを持った人間にとって
非常にいい趣味である、と。 |
ボナ |
ああ、心が癒されるというか。 |
糸井 |
なんか、わかるような気がしますね。
“エレキの大将”みたいな人は
やらないでしょうねえ。
「海はいいなあ。手品でもやろうか」
とは……。 |
パルト |
あまり直射日光と縁がない。(笑) |
糸井 |
それで松田さんは、
マジックのどんなところに
興味があったんですか。 |
松田 |
たとえば医療の世界で、
新しい薬ができて、
それまで治らなかった病気が
奇蹟的に治るようになる、
というようなことがあるでしょう。
私の場合はそれとよく似ていて、
新しいトリックやアイディア、工夫で、
それまでうまくできなかったことが
滑らかにできるようになる。
そういうところが好きなんです。 |
糸井 |
ご自身、マジシャンになろうと思われたことは? |
松田 |
あるわけないでしょ(笑)。
私は、自分は改良型の人間やと思てるんですよ。
オリジナリティの才能がないのは自覚しています。
ですから、人の考えたトリックを
どうすればもっときれいに見せられるかとか、
そっちのほうなんです。 |
糸井 |
研究派と実戦派があるとして、
松田さんは研究派なんですね。
ナポレオンズのおふたりは、
いつ手品を始めたんですか。 |
ボナ |
僕の場合は、親父が旦那芸でやってましてね。 |
パルト |
彼の親父さんは
とってもいい先生だったんですよね。
下手だったんで、
正面から見ててもやり方がわかって、
「ああ、なるほど」って。(笑) |
ボナ |
秘密の金庫の中に入ってる道具を、
小学校の頃から勝手に開けていじってました。 |
パルト |
彼の実家は金庫を作っていた会社なんです。
道具が金庫に入ってるんだけど、
金庫屋の息子だから開けちゃう。 |
糸井 |
二重におかしいですね。 |
松田 |
金庫にはどんなネタが? |
ボナ |
たとえば、指の間で
ボールが1個ずつ増えて、
2個になったり3個になったりするやつですね。 |
松田 |
それ、もう小学校の時からやってたんですか。 |
ボナ |
やってたんです。 |
松田 |
あれ、難しいでしょう。
初めて見た時は、
あの、フッと二つになる瞬間が
神秘的に見えましたね。 |
糸井 |
そのボールは売ってますよね。 |
ボナ |
そうそう、あれは道具ものです。 |
松田 |
しかし、テクニックが伴わないと。
道具だけあってもできないですから。 |
パルト |
その点、彼は努力の天才ですよ。
途中で投げ出さないで、完璧になるまでやって。 |
糸井 |
実戦派なんだ。 |
ボナ |
そうですねえ。
道具が手元にあって先に仕掛けを見るから、
「なんで、これで人が騙せるんだろ」
ってなるわけですよ。
そこがおもしろい。
でも指先の難しいテクニックを使う手品は、
残念ながら今は趣味でしかやってないんです。
見せても、
「それよりも首回してよ」
って言われるから。 |
糸井 |
僕、あれ、好きだなあ。 |
ボナ |
今、ありますよ。 |
糸井 |
エッ!
じゃあ、見せてもらおうかな。 |
ボナ |
しょうがないなあ。
偶然持ってたんですよ。(笑) |
パルト |
これは最近では
「頭ぐるぐる」というふうに改名されましてね。 |
ボナ |
では、いいですか。
(パルト氏の頭に窓のあいた筒を被せる)
ハイ、いきます。
(その筒を回すと、パルト氏の頭が
一緒にぐるぐる回っているように見える) |
糸井 |
何回見ても、おかしい!
僕はタネを知りたいというよりも、
「なんでこんなにおもしろいんだろう」
って考えるのが好きな人間で、
前に、この芸のおもしろさについても考えました。
ポイントはね、顔なんです。
人間にとって一番情報量の多い顔に
焦点を絞ったところに、おもしろさがある。
だから、マスクやサングラスをすると
つまらなくなるし、
手なんか入れたらもう全然おもしろくない。 |
パルト |
ああ、顔がいいんだ……。 |
ボナ |
いや顔がいいわけじゃないの。(笑) |
糸井 |
パルトさんのきっかけは?。 |
パルト |
僕はやはり、愛と平和ですね。
大学の時に
ボランティア研究会を起ち上げまして。 |
糸井 |
老人ホーム慰問みたいな。 |
パルト |
そうそう。
でも、歌なんか歌ってもお年寄りは喜ばない。
で、どうしようってなった時に、
先輩にマジックの好きな人がいて、
部員にマジックを教えてくれたんです。 |
ボナ |
僕も同じ部員でした。 |
パルト |
僕、どうしても最後でポカしちゃうんですよ。
ディズニーランドで
1日に7000本売れるという、
有名な「ダンシングステッキ」がありますが……。 |
糸井 |
はいはいはい。
昔、買いました。
ステッキの握りに仕掛けがあって、
ステッキが、持っていないのに
勝手に動いてるように見えるんですよね。 |
パルト |
あれを、
「今日、やってもいいよ」
と言われて、
ぐるぐる回してパッとやったら、
ステッキが天井にささっちゃった。 |
松田 |
でも、観客は
そういうもんだと思ってたかもしれないし(笑)。
あのステッキ、
実は私も買ったことあるんですよ。
深夜に児童公園で練習しました。 |
ボナ |
そう言えば、最近、
「ジャンピング人形」っていうのを
よく路上で売ってるでしょう。
紙の人形がピョンピョン跳ねるやつ。
僕、原宿で松田先生が
あれを買ってるのを見ましたよ。(笑) |
松田 |
あれ、不思議ですよね。
ネタは誰が考えても
糸仕掛け以外に考えられないのですが、
どう見ても演者が操ってるのでは
なさそうに見えるところが
ミソかな……。 |
パルト |
操る人がお客さんの中にいるんですよ。
全然関係ないような顔して、
なぜか貧乏ゆすりをしてる。 |
糸井 |
あ、すばらしいですね。
そういうものは、
見かけるとすぐに買われるんですか。 |
松田 |
いやあ、あれはたまたまです。 |
糸井 |
参考資料みたいなものですか。 |
松田 |
そんな感じですね。
私の場合は文献が主ですけど。
道具まで買っていたら、
トランクルームがいくらあっても足りない。 |
ボナ |
われわれの道具でも、倉庫が必要ですから。
細かいものも入れたら何千という数になります。 |
糸井 |
ナポレオンズで一番人気があるネタは何ですか。 |
ボナ |
世界が認めた「人体浮揚」ですね。
僕らが外国に招ばれてるのも、
人体浮揚のおかげなんですよ。 |
パルト |
理論武装もちゃんとしてますから。
あれはね、究極のダイエットなんです。
布をかけられた瞬間、
僕は自己暗示をかけて
体重をゼロにするんです。
まあ、一度見ていただかないと、
そのすごさはわかりませんね。 |
糸井 |
何が理論武装なんですか(笑)。
じゃ、今までに大きな失敗は? |
パルト |
僕らの場合、失敗しても
「またギャグだ」って思われるんで……。 |
ボナ |
ネタの仕掛けを忘れて
登場したことはありましたよ。
彼がハンカチを出して、
そのハンカチを僕がひったくって
中から傘を出すという芸だったんですけど、
彼が「ハンカチ忘れた」と言うんですよ。
「じゃあ、俺、どうやって傘出すんだよ」
って言ってハッと気づいたら、
僕も傘を忘れてました(笑)。
もうどうしようもないから、
「次のマジックいきましょう」 |
糸井 |
今、映画でもテレビでも
SFXやCGが全盛でしょう。
そうすると、
今度は逆に生がおもしろくなりますね。 |
ボナ |
われわれのライブで、
初めて生のマジックを見たという人も多いです。 |
パルト |
「やっぱり、ライブってすごいなあ」
みたいなことはよく聞きますね。 |
糸井 |
指先が器用だなあ、なんてことも
ライブだと実感できますもんね。 |
松田 |
いや、それは大いなる誤解ですね。
プロの奇術師というのは、
実はあんまり器用じゃない。
こんなことを言うと何ですが、
技術もあんまりうまくないプロもいる。
アマチュアのほうが
ずっとずっと勉強してますから。
ただ、アマチュアは見せ方が下手なんですね。 |
パルト |
アマチュアの場合、
仲間内でしか見せないから。 |
糸井 |
ああ、同人雑誌の感覚ですね。
だけど夢中になる人が多いっていうのは、
自己達成みたいなことですかね。 |
パルト |
そうそう。
それで病みつきになっちゃう。
プロもアマも本当は
不器用な人が多いんですよ。
不器用な人が
一所懸命やって「できた!」というのは、
子供の頃に鉄棒や飛び箱を何回もやらされて、
居残り特訓でできた時の感動と同じなんですね。
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