BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

英語を話せる人、話せない人

第1回 外国に行かなくても

第2回
■恐るべき関西思想
糸井 いきなり真珠湾攻撃ですね。
ハワイ人になりきる話から始まるとは
思いもよりませんでした。
松本 ああいうこと、あんまり頭のいい人はできないです。
リサ とっさのときって、母国語が出るでしょう。
怒ったときとか。
それを英語で通すなんてすごい。
松本 そのかわりスイスとかドイツに行ったときは
母国語、関西弁で通します。
スイスだとドイツ語かフランス語でガンガンきます。
英語で何言ってもダメ。
だから土産物屋で値切るときは、
「これ、高いのとちゃうか」
「ここ曲がってるいうの、わからへんのか。
安うせい」。(笑)
糸井 通じますか?
松本 なんかわからないけど値段、半額になってる(笑)。
最終的には、母国語は強いですよ。
それに関西弁って、値切りとか交渉に
ひじょうに役に立つ。
糸井 相手のペースにはまらない?
松本 はい。
会社のトップとか上司、役人がこう言ってますとなると、
東京の人は「ははぁ」と全部言うことききますね。
縦に従うというのか。
でも大阪の人は上の話、聞かない。
「ちゃう、ちゃう」って。
同じ土俵の横に並んでるんですよ。
リサ それ、アメリカの文化に似てます。
上司だろうが、権威がある人だろうが、
言いたいことはストレートに言う。
松本 交通違反して警察につかまっても、
「なんでアカンねん。みんなやってるやん」。
どっちが悪いかはっきりしようと、
ディベート的なんですね。
大阪には漫才文化があります。
自分が言いたいこと言ってボケる。
そこに必ずツッコミがいて、
反対してもらわないとダメなんです。
肯定と否定、それを二人でやるのが漫才で、
これ、ディベートです。
そして、「負けられへん」。
この攻撃性が英語を上達させるんです。
アメリカの発想も、もともとディベートが生んだものです。
糸井 「恐るべき関西思想」ですね。
松本 だから大阪やと、
すぐ英語うまくなりますよ、ホンマに。(笑)
リサ イントネーションにしても、標準語ってフラットだけど、
関西弁ってすごく抑揚があるじゃないですか。
英語をしゃべっている人からすると、
関西弁のほうが発音しやすいですね。
私も言葉が関西弁っぽく訛ることがあります。
松本 大阪で飲んでたら、
二人の白人が関西弁でペラペラしゃべってましてね。
変なカップルだなあと思ってたら、
一人は水俣の写真を撮っていた
ユージン・スミスさんの未亡人。
二人とも大阪は面白いって言ってました。本音が出る。
東京では出ないと言うんです。

引っ越しのサカイが上場したときのコマーシャルで、
それまでのCMで踊って歌ってた男の人が
酒場で酔っぱってるのがありますね。
「(上場したのは)いったい誰のおかげや思うてんねん。
わしが歌うて踊ったおかげやないか」。
そういう本音をぶっちゃけるのが関西です。
関東は頭のいい人が多いから、難しい言葉を使いますね。
大阪は本音の語り言葉です。
だから活字にはなりにくいですが。

糸井 きょうは大阪の話みたい。でも、本質的ですね。
それが英語にも通じる。
東京でかたい人たちが集まって仕事しようというとき、
このプロジェクトは何のためにするかというので、
「これは子どもたちのため」とか
「未来の社会のため」とか必ず言わなくちゃいけません。
ところが大阪人て、「それ、なんぼやねん」
というところがあります。
「何が未来や、明日、どないなんねん」って。
松本 それ、アメリカ人の好きな「ボトムライン」
っていう言葉に通じるんですよ。
ボトムライン、これ何かというと、
会計用語で財務諸表ってあるでしょう。
バランスシートがあって、いちばん下のところ、
黒字か赤字か。途中はいらん。
国のためとか子どもの将来、そんなことどうでもええ。
儲かったか、儲かってないか−−。
アメリカ人は、誰がお金出すねん
ってはっきり言いますからね。
アメリカと大阪が合うのはそこなんです。
リサ 日本で「ごはん食べに行かない?」と言うと、
「ちょっとこのあと仕事があるんで行けないんだ」
と最後にイエスかノーがきますよね。
でも英語の場合は
“No,I can't go,because〜”って、
最初に結果がわかって、そのあとに理由がくる。
糸井 リサはどっちで考えるの?
リサ 日本語でしゃっべってるときは日本語で考えますし、
英語でしゃべっているときは英語で。
日本にいるときは日本の文化に従って、
「郷に入れば郷に従え」って言うじゃないですか。
アメリカに行くとすごくはっきりものが言えます。
それって、やっぱり言葉なんでしょうね。
松本 言葉ですね。
東京の言葉は押しが弱いけど、
関西弁は値切るのでも女を口説く場合でも、
ノーは許さないんです。
断られても、「ま、ええやないか」と、
どんどんプッシュする。
そのかわり、「それはなっとらん」
と相手を怒らせたときは、
「そういうてもお互い、いろいろありますわなあ」
と、自分と相手を横にイーブンにしてしまう。
それで責任回避できちゃうんです。
糸井 ふだんは自分を出してボトムラインを守ろうとし、
どこかのところで組み立てきれないとわかったときには、
全部、ブロックを平らにしてしまう。
リサ 便利ですね。
糸井 本音としたたかさ……。
今、上方的発想が広がってきていますね。
それは、標準語を使う中央の文化が
無力化しているからだと思う。
確立し安定していたものが壊れつつあって、
このままじゃ沈んでしまう。
だから、それを補完する実質的な文化をもつ
大阪の人たちと一緒になって、
もう一つの道を探していく時代に
なりつつあるんじゃないでしょうか。
松本 関西が日本を全部押さえてしまうのには、
ちょっと怖さを感じますが。
リサ アメリカには東と西がありますけど、
東のニューヨークって大阪っぽいんですよ。
みんなはっきりしてるし、ストレートだし、
大っきい声でしゃべるし。
西のほうはどちらかというと東京に似てますね。
標準語っぽい雰囲気で。
松本 そう、ニューヨークのブルックリンあたりだと、
ユダヤ人が多いでしょう。
ユダヤ人のど根性は心臓に毛がはえたようなもので、
これが大阪とまたよく似てる。
本音でぶっちゃけるというか。
糸井 ボルテージ高いですよねえ。(笑)
松本 みんな巻き込まれちゃう。
で、自分は変えようとしない。態度も大きい。
リサ ニューヨークが東京と似ているところがあるとしたら、
いろいろなところから人が集まっていることと、
姉妹都市であるという点ですね。
糸井 それを僕らが勝手に、大都会同士だし、
東京とニューヨークは似ていると思ったら、
大間違いなんだ。

さっきのボトムラインの話ですけど、
要は、何をしたいと思っているのか、
本当に求めているのは何かってことですよね。
僕が英語を習いたいというのも、
最低限できないと自分が困る。
それをやらないと自分のボトムラインが
危ないんじゃないかって気がするからなんです。

松本 ボトムラインは本音指向と言いますかね。
ふつうの人が英語を勉強する場合、
英検とかTOEFL(外国人のための英語学力試験)
のスコアを上げようとします。
でも筆記試験で1級とっても、
コミュニケーションできるかどうかは別。
デーブ・スペクターが問題を見たら、
半分くらいわからなかったって。
だけど、みんな偏差値のマルバツがほしいんですね。
関西の場合は必ずしもそうじゃない。
やってて楽しい、おもろいからだと。
糸井 そういえば、あるテレビ番組を見ていたら、
関西のどこかの街頭で仕掛け人が通行人にいきなり
「バーン」と銃を撃つマネをするんですよ。
それを受けて、「ウッ」と倒れる人が8割くらいいる。
リサ それ、東京でやったら、何人が倒れるマネするか……。
松本 大阪人はみんなそうです。おもろいことにはつきあう。
僕も小学校のとき、
面白そうだから外国語を勉強してみたいと思いました。
ところが中学2年で文法が出てくると、
だんだん面白くなくなって、
そのうち帰国子女がクラスに入ってきたら、
いっぺんにいやになっちゃった。
英語のできる人ほど、嫉妬が始まる。
英語はジェラシー・サブジェクトなんですよ。
嫉妬科目。
リサ 話してると、イヤミに聞こえてしまうらしいです。
松本 日系アメリカ人に、どこに住んでいるか聞いて、
「アイ・リブ・イン・タチカワ」だとOK。
「アイ・リブ・イン・タ、チ、カーワ」になると、
同じ顔してけしからん。その発音が許せん。(笑)

(つづく)

第3回 本音から入る

第4回 英語は“芸”だ

1999-01-24-SUN

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