第1回
■外国に行かなくても
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糸井 |
僕の英語力は平均的な日本人の下くらい。
つまり、中学、高校とやってきたんだけど話せない。
でも英語は習いたいとうっすら思っていて、
いつかは−−と言いながら、
しゃべれないまま死んじゃうタイプの人間なんですね。
そういう人間って、「日本語だけでいいや」
と一度は開き直るんです。
それが、インターネットが出てきて
海外と直接つながったり、
外国人とビジネスがらみのつき合いが増えたり、
情報のやりとりのシステムが変わっていくなかで、
若い人からお母さん、お父さんまで、
英語の必要性がもっと出てきたな
と感じていると思うんですよ |
リサ |
それで糸井さんも英語を? |
糸井 |
今日からでも始めたいという気持ちさえあります。
それで、今日はこういう人間が習得するための
道筋を示していただきたくて……。
「向こうに住めばいい」と
みんな言うんで困るんですけど。 |
リサ |
住んでうまくなる人と、
住んでも上達しない人がありますね。
日本人が多く住んでいる場所に行っちゃうと、
日本人同士ってグループで固まりますから。
私はアメリカにいたとき、ニュージャージーという、
わりに日本人が多いところに住んでいて、
母親が日本人なので、日本人のコミュニティとも
交流がありました。
お父さんの仕事の関係でアメリカにいらっしゃってた
お子さんがたくさんいるんですけど、
1年でペラペラになる子と、
2年いても上達しない子がいました。
上達する子は日本人といっさいかかわらない。
上達しない子はシャイだったり、
発音があまり上手じゃないからと、
あまり自分から進んで出ていかないんです。 |
糸井 |
住めばいいというものではない。 |
リサ |
日本に住んでいても、
十分、英語を話せるようになれると思うんですよ。 |
松本 |
僕は37歳のとき、NHKでネィティブの人に
インタビューする番組の仕事をもらいましたけど、
それまで日本から一歩も出ていないんです。
最初に出した英語学習の本
『私はこうして英語を学んだ』が
ベストセラーになったのも、
僕が海外経験がないということで売れたんでね。 |
糸井 |
がぜん、勇気がわいてくるなあ。 |
松本 |
なぜNHKのオーディションに合格したか
いろいろ考えてみましたら、関西芸人って言いますけど、
僕も芸人だったからじゃないかと思うんですよ。 |
糸井 |
はぁ、芸人ですか。 |
松本 |
大阪って、今は違いますけど、
30、40年前は日本人ばっかり。
僕は英語サークルに参加していましたが、
外人がいないから生きた英語が勉強できない。
そのなかで、なんとか英語を話してみたいと思って
外国人ハントに燃えていたときがありました。
大学の柔道部の友達に、手分けして外国人探してくれと。
「松本、外人おったぞー」で、走って行って、
「メイ・アイ・スピーク・ツー・ユー?」。 |
糸井 |
「おったぞー」ですか、猛獣狩りみたい。(笑) |
松本 |
猛獣狩りですよ。僕は外人、慣れてないですし、
目を見ろったって難しい。
けど、相手はライオンとかトラで、
目を離したらガブッとやりよるかもしれんから、
離さんようにってくらいの悲壮感でやりました。
そういうのを繰り返して、
最終的には自分が外国人になっちゃうんです。
ハワイから来た日系人になる。 |
糸井 |
「ワタシは〜」とか言って。 |
松本 |
「ワタシ、ニッポンゴ、タクサン、ダメ」。
あとは英語だけ。それを松山のバーでやりました。
友達を通訳にしてね。
ホステスは僕のことをハワイ人だと思って、
わいわい寄ってくるもんだから、
向こうで飲んでいる男のところには女性がいなくなった。
それでそいつが関西弁で、「外国人、どこや」。
女性が「この人、外国人です」と言うと、
「ほんまか? 日本人やないか」って。
横に座っている友達が小さな声で、
「ヒー・イズ・ヤクザー!」。
僕は外人になりきっているから
「オー、ヤクザー!」と大声出して。 |
リサ |
ハハハ……。 |
松本 |
そいつが「この酒飲め」と言うんですよ。
体の大きいやつでね。
日本人なら、「すんまへんなあ」とか言いながら
酒飲むんだろうけど、僕は外人だから、「ノー」。
そしたら相手が怒って、わざと僕に酒をこぼしたんです。
それで僕は立ち上がって相手の胸倉つかまえて、
「アポロジャイズ(apologize)!」−−謝れ、
と言いましてね。あとは英語で怒鳴りまくりました。
そいつ、最後には「ほんまに外国人や」と言って。 |
糸井 |
面白いですね、先生って。 |
松本 |
「グッバイ」と言って店を出て、
20、30メートル行ってから、
汗がいっぺんにドーッと吹き出ましたけど。 |
糸井 |
だんだん芸人の意味がわかってきました。 |
松本 |
だから海外で2、3年勉強するより、
日本で体張ってヤクザと英語やってるほうが、
できるようになります。
殺されるかもしれないんだから。
NHKの番組に出るなんて楽なものです。
(つづく) |