第4回
■英語は“芸”だ
|
糸井 |
僕の知り合いの格闘家で、アメリカに試合に行って、
ちょっと向こうにいようとなったんですね。
そいつは学生時代からずっと格闘ばかりやっていて、
英語なんか習ったおぼえはないのに、
友達つくって帰ってきました。 |
松本 |
自信というか、これに関しては負けない
というものがひとつあるといいですね。
芸でもビジネスでも。
プライドのないコンプレックスのかたまりはダメです。 |
リサ |
英語を話すことに関しては、
プライドを捨てないといけないから。 |
糸井 |
捨てなきゃいけないものがあるから、
別の部分で自信をもてる何かが必要だと。
でも、ある程度年とった人が英語を学ぶのは難しいですね。 |
リサ |
小さい子が英語を勉強するんでしたら、
文法を学ぶのは大事だと思います。
でも大人になってから会話をマスターしたい
というのであれば、読み書きは置いといて、
とりあえず使うという練習をしたほうがいいと
私は思います。 |
糸井 |
その「とりあえず」ができない。
まだまだ危機意識が足りないのかな。 |
松本 |
極限状態まで追い込むのは一つの手です。
ある日本人がホテルの部屋をステテコ姿でちょっと出たら、
ドアが閉まっちゃった。
鍵は部屋のなか。英語がしゃべれないので困ったけど、
フロントでたった四つの単語だけが出た。
「キー・インサイド、ミー・アウトサイド」。
それだけで相手は、「うん、わかった」と。 |
リサ |
ホテルというと、フロントに電話をかけるのが
難しいって言いますね。
身ぶり手ぶりができないだけに。
友達がアメリカに行ったとき、
アイロンを借りようとしたんだけど、
電話で「アイロン」って言っても通じない。
結局、フロントまで行って、
英語のスペルを書いたそうです。
アイロン(iron)は「アイアン」って発音するから、
通じないです。 |
松本 |
アイロンを持ってきてくれというのは、
英語でどう言います? |
リサ |
「キャナイ・プリーズ・ハブ・アナイアン?
(Can I please have an iron?)」 |
松本 |
アイアンにはanがつきますね。
日本人が苦手なのがこの冠詞。
「ザ」なのか「ア」だったか、
いろいろ考えてもわからないから、
冠詞と一緒に一つの言葉として
覚えたほうがいいというのが僕の考えです。
アナイアンと。
文章もひとつのかたまりとして
発音を覚えたほうがいいですね。
「座ってください、テイカ・シート(Take a seat)」
と言うのを、ある日本人は「タクシー」と聞き間違えた。
だから、「テイク・ア・シート」じゃなく、
「テイカシート」とかたまりで覚える。
“not at all”はアメリカ人は
「ナタトール」と言いますが、
なかなかそんな発音はできないので、
「ナレロー」とそのまま覚えてしまう。 |
リサ |
単語を「これはどういう意味?」って聞くと、
みんなだいたい答えられるんですけど、
実際の会話では使えない。
もったいないですよね。 |
松本 |
それと、英語は結論を言うのね。
日本語で「きみ、まだ若いよ」は
「ユウ・アー・ヤング(You are young)」
じゃないんです。
英語では「グロー・アップ(Grow up)」。
若いから、もっと大人になれというんです。
ところが日本語は結論を言いませんね。
「電話が鳴ってるよ」と言うとき、
「はい」なんて答える人はいません。
つまり「電話を取れ」ということでしょう。
だから英語では
「ザ・フォーン・イズ・リンギング
(The phone is ringing)」じゃなく、
「ゲット・ザ・フォーン(Get the phone)」
取れ、なんです。
ノックしたら、「ゲット・ザ・ドア(Get the door)」
行け、です。
getには、ものすごくいろんな意味がありましてね。
giveとgetは英語の基本です。
だけど、学校ではいっさいそれを教えません。 |
糸井 |
日本人が外国に行ったときに、
いちばん使うのがwantじゃないですか。
これがほしい、あれが飲みたい。 |
リサ |
「アイ・ウォント・ディス」とか。
でも言葉としては、ちょっと幼稚です。
子どもが「アイ・ウォント・キャンディ」と言うみたいで。 |
糸井 |
「ほちい、ほちい」でしょう。 |
松本 |
赤ちゃんが話す最初の言葉は、「ギブ・ミー」ですね。
「ギブ・ミー・メルク(milk)」。
それは、さっきの、結論を言うこと、なんです。
欲しいじゃなくて、くれ。
このあたり、大阪ですね。買うてくれ。
また大阪の話になりますが、
難しいことは東京の人にまかせておきなはれ。
で、結局どうやねん。
「ダズ・イット・ワーク(Does it work)?」の発想。
使えるかどうかが大事。 |
糸井 |
workもよく出てきますね。 |
松本 |
ドラッグストアで「この薬効きますか?」は、
受験英語だと「イズ・イット・エフィケーシャス
(Is it efficacious)?」とやりますが、
アメリカ人はそんなの聞いたことがないから、
「ユー・ミーン・イット・ワークス
(You mean it works)?」と変えられちゃう。 |
リサ |
そういうことも含めて、
覚えたら、とにかく使うことですね。
私もうちにいるときはずっと英語なので
忘れるということはないんですけど、
それでもときどき、
それって英語でどう言うんだっけって、
すぐに出てこないことがあります。 |
松本 |
英語の勉強するのは筆記試験とかサイエンスじゃなくて、
アート、芸ですからね。
アメリカ人の発音をマネするというのは
芸人になりきることです。
だから外国人いやだという気持ちだったら
ぜったいにうまくならない。外国人好きやねんと。
関西で「英語好きやねん」といったら、
「アイ・ライク・イングリッシュ、
イングリッシュ・ライクス・ミー」。
桂枝雀も英語の落語で言ってる。
「僕は大阪好きやねん。アイ・ライク・オーサカ、
オーサカ・ラブズ・ミー・バック」。
わかりやすいですね。大阪と自分が一体化。
東京だと、おれは東京好きだけど、
東京がおれを好きかどうか関係ない。 |
糸井 |
英語の本はたくさん出ているし、
英会話学校も繁盛しています。
英語をマスターするのに効果的な方法は? |
リサ |
学校に行くのもいいと思いますけど、
高いお金出して何も覚えられなかったら
もったいないような気もするし。 |
松本 |
ディベート的な発想は英語にすごく役に立ちますから、
まず日本語でディベートを勉強するのもいいですよ。
論理的にものの道筋を立てる。白黒はっきりさせるとか。
とにかく、英語では後ろにさがっちゃいけませんね。
これでもか、これでもかというくらい前に出て。 |
リサ |
主張しないと。 |
糸井 |
僕は外国の人と会うとき日本を背負っちゃうんですよ。
「バカだな、日本人は」と思われたない。
それでなるべく立派にしゃべろうと思って、
「クッジュー・プリーズ」とか考えて、
そこで止まっちゃう。
そういう意味じゃ、Tシャツに短パンですね。
スーツな気持ちをやめる。
しゃべれなくても当たり前だろう、
と思わせたほうがイケるかもしれない。 |
松本 |
開き直るということです。 |
糸井 |
最後に、話すのとヒアリング、どちらが先でしょうか。 |
リサ |
話すと聞くはセットですけど、
私は話すほうが上達は早いと思います。 |
糸井 |
アクティブですよね。
ヒアリングだと黙ってじっとしててもいいわけで。 |
リサ |
そうなの。流されちゃうんです。
うちの父は日本に住んで13年ですが、
ほとんど日本語を話せないんです。
テキストもいろいろ買ったけど、
忙しくてほとんど見なくて。
仕事では日本語を必要としないし、
母親は両方をしゃべれるから、楽なほうにいって、
会話は英語。
日本にいるから日本語は耳にしてるんですけど、
やっぱり自分で話さないとダメですね。 |
松本 |
なるほど、僕は聞くほうが先だと思ってたけど、
まずしゃべろうという気持ちですか。
呼吸と同じで、出すほうが先、出したら入ってくる。
そうか。僕は今日、学びましたね。 |
糸井 |
アイデアと同じですね。
使わずにためるより、
まず出し切ったほうが、また増える。
(おわり) |