BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


明けても暮れてもラーメン
(全4回)


スープに秘めたいくつものキーワード、
卵の食感やエビの大きさなど、
微妙に改良を重ねるロングセラー商品……
人気店主と即席麺開発者に聞く、
「うまい!」までの道のり

ゲスト
小山元一
山田雄

構成:福永妙子
写真:和田直樹
(婦人公論2003年1月22日号から転載)

小山元一:
1954年滋賀県生まれ。
日清食品(株)広域営業部
CVS企画担当次長。
同志社大学工業化学科卒業後、
同社入社。
研究所・マーケティングを経て
商品開発担当者に。
即席麺「幻の名店」シリーズ、
セブンイレブンと
共同会開発した
「すみれ」「一風堂」
「日清具多」など
多くのヒットを手がける。
山田雄:
1953年生まれ。
「麺屋武蔵」店主。
80年、原宿に洋品を開き、
83年には青山に
アパレルメーカーを設立する。
96年、アパレル業界から
ラーメン業界に転じ
青山に「麺屋武蔵」を
オープンし、
2年後に新宿にも出店。
以来、行列の出来る
人気ラーメン店として
評判を呼んでいる。
糸井重里:
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。

明けても暮れてもラーメン
第1回
今日も朝から20種類!?
糸井 山田さんのお店「麺屋武蔵」に
このあいだも行ってきましたが、
青山店、最近ちょっと
スープの味が濃くなりましたね。
若い人好みになっているというか。
山田 それ、大変に申し訳ないですけど、
店側に「少し薄めに」と、
おっしゃってください。
券売機に
「(スープの)濃いめ・薄め、
 (麺の)固め・やわらかめ」
と貼ってあるので、
要望を伝えていただくと、
できるだけそれに添うかたちで
ラーメンをお出しします。
というのも、味覚はみなさん違っていて、
100人なら100人全員に合わせるのは
難しいんですね。
糸井 それは、多分、小山さんも
悩んでいらっしゃる部分でしょう。
小山 はい。
糸井 小山さんには、
僕のホームページ「ほぼ日刊イトイ新聞」で、
日清食品さんと「ほぼ日公式ラーメン」という
カップ麺を共同開発した時に、
お世話になりました。
12個入りの5000ケースを
インターネットだけで限定販売したんです。
こんがりガーリックしょうゆ味で、
なかなかおいしかった。
小山 レモン果汁のスパイスの小袋を入れるとか、
いろいろアイデアをいただいて、
私も面白かったですよ。
糸井 ラーメンって、誰もが食べたことがあるし、
みんな、おいしいだのまずいだの
さんざん言っています。
お二人は、千差万別のお客さんに対して、
どれだけ満足を与えられるかという勝負を
毎日しているわけで、
スープの味ひとつにしても、
絶えず頭の中で考えているわけでしょう。
いろいろなラーメンを食べて研究したりとか。
小山 今朝も他社のものを4、5種類、
自社の商品も15種類ほど試食しました。
山田 他社のカップ麺を食べてみて、
正直言ってすごくおいしかった、
負けちゃったというご経験は?
小山 うーん、ほとんどないですね。
山田 言い切られてしまいました。(笑)
小山 「武蔵」さんには
私も何度か食べに行きました。
いつもすごい行列ですね。
糸井 出張で来た人もいっぱい並んでますからね、
カバン持って。
小山 私はいつも仕事のことを頭に置きながら
食べてしまいますので、
自分がおいしいまずいよりも、
商品化できるかできないかが先にあるという、
残念ながら、ちょっと悲しい食べ方です。
糸井 ラーメン以外の時でも?
小山 はい。
「この味を何かに活かせないか」とか。
山田 そう、僕もそうなんです。
実は僕、ラーメンは
自分が作るもの以外は
ほとんど食べなくて。
で、イタリアンやフレンチ、
和食を食べたりするのが楽しみなんですけど、
やっぱり食べながら
「このエッセンスをラーメンに活かせないか」
と、そんなことばっかり考えている。
さみしいですよね。
小山 本当においしいものを、
ただ「おいしいな」と感動しながら
食べられないところがあってね……。
「武蔵」さんのしょうゆラーメンは、
さっぱりした味で、
どんぶりのスープを
最後まで全部飲み干すことができる、
そんなラーメンですね。
こういう素材の味を引き出すものが
求められているんだと、勉強になりました。
糸井 山田さんは
インスタントラーメンとのつき合いは?
山田 あの、正直言って、
僕は数ヵ月前まで
インスタントラーメンって
ほとんど食べたことがありませんでした。
それがある時、うちの店の若い衆に
夕めしは何食ってるかと聞くと、
「時間がない時は
 コンビニでカップ麺を買って食べてる」
って。
「武蔵」で働いているということは、
いつかラーメン屋として
独立したい意志があるわけです。
そういうおにいちゃんたちが、
わざわざ夕めしにカップ麺を食べる。
驚きでした。
コンビニ弁当ならまだ納得できますが……。
まずいと思ったら食べるはずはないでしょう。
それで若い衆の気持ちを
理解したいこともあって、
とりあえずコンビニに並んでいる
カップ麺を全部買ってきて、食べてみました。
糸井 いかがでした?
山田 多分、小山さんも商品開発に
関わられたんじゃないかと思いますけど、
日清さんの「具多(グータ)」という
カップ麺を食べた時、300円前後の値段、
しかもお湯を注いで4分待つだけで、
あそこまですごいものができちゃうことに、
驚愕しました。
糸井 インスタントラーメンの世界って、
つまりは
「店が閉まってからもやってるラーメン屋」
ですからね。
山田 いや、ほんとにそうです。
組織の力を合わせて
日本国中に認知させる商品を作る人たちは、
ものすごい努力というか、
商品への思いがあるんだなぁと。
僕は店側の作り手のプロであり、
正直、こんなこと言いたくないですけど、
「負けてらんないな」と思いましたよ。(笑)
糸井 僕はもともと
「ラーメンがとっても好きだ!」と
声高に言うほどではなく、
「ラーメンも好き」というくらいでした。
ラーメンと言えば、寒い日の屋台。
ノスタルジーと言うか、
一種のムードの中で食べる時代が
長くありました。
実際、ラーメンの味の上下を
みんなが言うようになったのも、
そんなに昔じゃないですよね。
僕はある時、
山本益博さんの勧める店に行ってみて、
ラーメンにすごい味の差があることを
知りました。
小山 ありますねぇ。
糸井 つまり、一所懸命に作ってるラーメン屋と、
一所懸命に作ってない
ラーメン屋があることに気づいたら、
「どうやったらもっとおいしくなるだろう」
と考えずに
まずいままで出している人たちへの怒りが
わいてきた(笑)。
そこらあたりからですね、
ラーメンに強い興味をもつようになったのは。
僕は作っている人たちが、見えないところで
努力している部分を見つけるのが
好きなんです。
たとえば「武蔵」さんのラーメンだと、
キャッチフレーズは
サンマの煮干しでとったダシ。
で、サンマをあれほど
特色として強く打ち出す一方で、
実際に食べてみて、あとに残る味、
鼻から通る味というのはコブなんですね。
それに気づいた時に、
僕は「そうかぁ!」と思って、
嬉しかったなあ。
山田 それ、僕も嬉しいですねえ。
僕は一杯のどんぶりの中に
いろいろなキーワードを込めているつもりで、
気づいてくれるお客さんに、
それをプレゼンテーションしたいんです。
見える部分だけじゃなく、
食べ終わったあとに、
「うん、これじゃん」という何かをね。
糸井 その一つが、僕はコブだと思った。
だしに使ってるコブの分量って、
相当多いでしょう。
山田 多分、他の店の3倍か4倍は使っています。
糸井 やっぱり……。
一杯のラーメンの中は
ブラックボックスみたいで、
僕らのわからない秘密が
ものすごく隠されているんだろうけど、
それは明らかにテストを繰り返した
長い時間の中から生まれてきたものですよね。
たとえばカップヌードルという商品にしても、
どれだけ研究と改良を重ねて、
あの味、あの形状に着地したのか。
小山 カップヌードルは、
具材をみるとエビが特徴のラーメンなんです。
お店のラーメンには入っていない
豪華な具であるエビを入れたのが、
一つのポイントじゃないかと思います。
山田 すごいロングセラー商品ですが、
味は変化しているんですか。
小山 あれはものすごくシンプルで、
しょうゆベースに
ペッパーを効かせた味ですけど、
発売開始から30年、
根本の味は変えてません。
が、品質の向上を図り、
麺・スープ・具材の改良をしています。
ああいう長期に渡って
食べられている商品は、
コロッと変えてしまうといけないので、
徐々に徐々にですが。
具材を例にとると、卵の食感とか、
エビの大きさ、エビの質感も、
その場でゆで上げた感じに
仕上げるように変えて‥‥。
94年には、具材の増量もしています。
  (つづく)

第2回 サンマの煮干しに導かれて

第3回 ウニラーメンと音の出る焼きそば

第4回 1分でも早く食べたい!

2004-02-11-WED

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