明けても暮れてもラーメン
第1回
今日も朝から20種類!? |
糸井 |
山田さんのお店「麺屋武蔵」に
このあいだも行ってきましたが、
青山店、最近ちょっと
スープの味が濃くなりましたね。
若い人好みになっているというか。 |
山田 |
それ、大変に申し訳ないですけど、
店側に「少し薄めに」と、
おっしゃってください。
券売機に
「(スープの)濃いめ・薄め、
(麺の)固め・やわらかめ」
と貼ってあるので、
要望を伝えていただくと、
できるだけそれに添うかたちで
ラーメンをお出しします。
というのも、味覚はみなさん違っていて、
100人なら100人全員に合わせるのは
難しいんですね。 |
糸井 |
それは、多分、小山さんも
悩んでいらっしゃる部分でしょう。 |
小山 |
はい。 |
糸井 |
小山さんには、
僕のホームページ「ほぼ日刊イトイ新聞」で、
日清食品さんと「ほぼ日公式ラーメン」という
カップ麺を共同開発した時に、
お世話になりました。
12個入りの5000ケースを
インターネットだけで限定販売したんです。
こんがりガーリックしょうゆ味で、
なかなかおいしかった。 |
小山 |
レモン果汁のスパイスの小袋を入れるとか、
いろいろアイデアをいただいて、
私も面白かったですよ。 |
糸井 |
ラーメンって、誰もが食べたことがあるし、
みんな、おいしいだのまずいだの
さんざん言っています。
お二人は、千差万別のお客さんに対して、
どれだけ満足を与えられるかという勝負を
毎日しているわけで、
スープの味ひとつにしても、
絶えず頭の中で考えているわけでしょう。
いろいろなラーメンを食べて研究したりとか。 |
小山 |
今朝も他社のものを4、5種類、
自社の商品も15種類ほど試食しました。 |
山田 |
他社のカップ麺を食べてみて、
正直言ってすごくおいしかった、
負けちゃったというご経験は? |
小山 |
うーん、ほとんどないですね。 |
山田 |
言い切られてしまいました。(笑) |
小山 |
「武蔵」さんには
私も何度か食べに行きました。
いつもすごい行列ですね。 |
糸井 |
出張で来た人もいっぱい並んでますからね、
カバン持って。 |
小山 |
私はいつも仕事のことを頭に置きながら
食べてしまいますので、
自分がおいしいまずいよりも、
商品化できるかできないかが先にあるという、
残念ながら、ちょっと悲しい食べ方です。 |
糸井 |
ラーメン以外の時でも? |
小山 |
はい。
「この味を何かに活かせないか」とか。 |
山田 |
そう、僕もそうなんです。
実は僕、ラーメンは
自分が作るもの以外は
ほとんど食べなくて。
で、イタリアンやフレンチ、
和食を食べたりするのが楽しみなんですけど、
やっぱり食べながら
「このエッセンスをラーメンに活かせないか」
と、そんなことばっかり考えている。
さみしいですよね。 |
小山 |
本当においしいものを、
ただ「おいしいな」と感動しながら
食べられないところがあってね……。
「武蔵」さんのしょうゆラーメンは、
さっぱりした味で、
どんぶりのスープを
最後まで全部飲み干すことができる、
そんなラーメンですね。
こういう素材の味を引き出すものが
求められているんだと、勉強になりました。 |
糸井 |
山田さんは
インスタントラーメンとのつき合いは? |
山田 |
あの、正直言って、
僕は数ヵ月前まで
インスタントラーメンって
ほとんど食べたことがありませんでした。
それがある時、うちの店の若い衆に
夕めしは何食ってるかと聞くと、
「時間がない時は
コンビニでカップ麺を買って食べてる」
って。
「武蔵」で働いているということは、
いつかラーメン屋として
独立したい意志があるわけです。
そういうおにいちゃんたちが、
わざわざ夕めしにカップ麺を食べる。
驚きでした。
コンビニ弁当ならまだ納得できますが……。
まずいと思ったら食べるはずはないでしょう。
それで若い衆の気持ちを
理解したいこともあって、
とりあえずコンビニに並んでいる
カップ麺を全部買ってきて、食べてみました。 |
糸井 |
いかがでした? |
山田 |
多分、小山さんも商品開発に
関わられたんじゃないかと思いますけど、
日清さんの「具多(グータ)」という
カップ麺を食べた時、300円前後の値段、
しかもお湯を注いで4分待つだけで、
あそこまですごいものができちゃうことに、
驚愕しました。 |
糸井 |
インスタントラーメンの世界って、
つまりは
「店が閉まってからもやってるラーメン屋」
ですからね。 |
山田 |
いや、ほんとにそうです。
組織の力を合わせて
日本国中に認知させる商品を作る人たちは、
ものすごい努力というか、
商品への思いがあるんだなぁと。
僕は店側の作り手のプロであり、
正直、こんなこと言いたくないですけど、
「負けてらんないな」と思いましたよ。(笑) |
糸井 |
僕はもともと
「ラーメンがとっても好きだ!」と
声高に言うほどではなく、
「ラーメンも好き」というくらいでした。
ラーメンと言えば、寒い日の屋台。
ノスタルジーと言うか、
一種のムードの中で食べる時代が
長くありました。
実際、ラーメンの味の上下を
みんなが言うようになったのも、
そんなに昔じゃないですよね。
僕はある時、
山本益博さんの勧める店に行ってみて、
ラーメンにすごい味の差があることを
知りました。 |
小山 |
ありますねぇ。 |
糸井 |
つまり、一所懸命に作ってるラーメン屋と、
一所懸命に作ってない
ラーメン屋があることに気づいたら、
「どうやったらもっとおいしくなるだろう」
と考えずに
まずいままで出している人たちへの怒りが
わいてきた(笑)。
そこらあたりからですね、
ラーメンに強い興味をもつようになったのは。
僕は作っている人たちが、見えないところで
努力している部分を見つけるのが
好きなんです。
たとえば「武蔵」さんのラーメンだと、
キャッチフレーズは
サンマの煮干しでとったダシ。
で、サンマをあれほど
特色として強く打ち出す一方で、
実際に食べてみて、あとに残る味、
鼻から通る味というのはコブなんですね。
それに気づいた時に、
僕は「そうかぁ!」と思って、
嬉しかったなあ。 |
山田 |
それ、僕も嬉しいですねえ。
僕は一杯のどんぶりの中に
いろいろなキーワードを込めているつもりで、
気づいてくれるお客さんに、
それをプレゼンテーションしたいんです。
見える部分だけじゃなく、
食べ終わったあとに、
「うん、これじゃん」という何かをね。 |
糸井 |
その一つが、僕はコブだと思った。
だしに使ってるコブの分量って、
相当多いでしょう。 |
山田 |
多分、他の店の3倍か4倍は使っています。 |
糸井 |
やっぱり……。
一杯のラーメンの中は
ブラックボックスみたいで、
僕らのわからない秘密が
ものすごく隠されているんだろうけど、
それは明らかにテストを繰り返した
長い時間の中から生まれてきたものですよね。
たとえばカップヌードルという商品にしても、
どれだけ研究と改良を重ねて、
あの味、あの形状に着地したのか。 |
小山 |
カップヌードルは、
具材をみるとエビが特徴のラーメンなんです。
お店のラーメンには入っていない
豪華な具であるエビを入れたのが、
一つのポイントじゃないかと思います。 |
山田 |
すごいロングセラー商品ですが、
味は変化しているんですか。 |
小山 |
あれはものすごくシンプルで、
しょうゆベースに
ペッパーを効かせた味ですけど、
発売開始から30年、
根本の味は変えてません。
が、品質の向上を図り、
麺・スープ・具材の改良をしています。
ああいう長期に渡って
食べられている商品は、
コロッと変えてしまうといけないので、
徐々に徐々にですが。
具材を例にとると、卵の食感とか、
エビの大きさ、エビの質感も、
その場でゆで上げた感じに
仕上げるように変えて‥‥。
94年には、具材の増量もしています。 |
|
(つづく) |