第2回
テレビは二極分化する |
渡邊 |
話をもどすと、衛星放送の時代になって、
限られていた映像文化がさらに民主化されて、
ますます開放されていってるんですよ。
だから、テレビに出る人もおそらく、
これまでのスターと言われた人だけじゃなく、
「こんな人まで」ということに当然なるでしょう。
現場サイドのことでは、つくり方の方法論も
ぜんぜん違ったものになっていく。
金がない、見ている人が少ないという中で、
今までのテレビと同じ方法論でやろうと思った人たちは、
多分、負けていくんだろうし、ハンデを逆手に取って
面白がったところが勝つんでしょうね。
テレビが始まったとき、映画と同じようにやろうとした
脚本家や監督たちが淘汰されましたね。
それと同じことが、もう一回起こるだろう
という気がします。 |
糸井 |
今までだと、テレビに出る人いうのは、いい顔してる、
いい歌をうたう、いい考えをもっているというように、
何か能力をもつ人が、テレビという素晴らしい宮殿から
下々の者に向けてものを発しているという感じが
ずっとあった。
これからはどうなるかというと、
特別な人が広場からものを言うんじゃなくて、
カラオケのマイクみたいに、
そのとき言いたいことがある人が出ていくんだろうな。
そうすると誰もが可能性をもっちゃうから、
ギャラも安くなる。 |
小牧 |
でも、逆方向もありますよ。 |
糸井 |
おっとっと。 |
小牧 |
テレビ放送の歴史って、もともとアメリカのGE
(ジェネラル・エレクトリック社)がNBC
というテレビ局をつくったところから始まってましてね。
テレビそのものを発明したのは他の人だけど、
GEがそれを大量生産した。
このテレビという箱を売るために、
「こういうのを流していますから、
この箱を買ってください」とNBCで
いろいろな番組をつくった。
そして、普及率がゼロからぱーっと上がったんです。
箱を売るのが主で、番組は従。
そして、ある普及率までいったところで、
こんなに人が見るんなら、そこに宣伝を入れればいい
ということで、次にテレビは広告媒体になった。
今度は宣伝、コマーシャルが主で、
番組はやっぱり従なんです。
つまり、番組が主役だったことはないんですよ。 |
糸井 |
映画はずっと番組が主役だけど。 |
小牧 |
ところが、ペイ・テレビというものが登場した。
契約して、毎月一定の料金を払って見るというやつ。
そこではじめて番組が主になったんですよ。
なぜならば、そのチャンネルの中身が面白いから
契約するのであって、コマーシャルが多すぎたら
契約しないですよ。
さらにペイ・テレビの究極がペイ・パー・ビュー。
これは番組を見るごとに料金がかかるというもので、
こういうふうにテレビが有料になってくると、
しょせん従だった番組が、
今度はいい加減ではすまされなくなってくる。
もちろん、それまでも、いい加減につくっていたつもりは
ないですけど。 |
渡邊 |
それは、僕に対する批判でしょうか。(笑) |
小牧 |
いや、自分に言ってるんです。
テレビ局に就職したとき、僕は番組をつくりたい
と思って入ったわけですよね。
それが最初に営業局の研修を受けたとき、
コペルニクス的なショックを受けたんです。
「番組をつくりたい」と言ったら、
「ああ、おめえも特別催し場のミレー展やる気か」と。
デパートで言うと9階の催物場まで
エスカレーターで上がる途中に商品がある。
で、買ってしまう。
つまり、あいだの階にある商品がコマーシャルであって、
主役は実はこっちなんだと。
番組は、いわばそこに人を呼ぶための
特別催し物場ヘビ展なわけですよ。 |
渡邊 |
ミレー展からヘビに変わったけど……。(笑) |
小牧 |
ヘビ展のほうが、人をわーっと集められるかなと思って。 |
渡邊 |
ミレーが描いてるヘビならいいですね。(笑) |
小牧 |
ビジネスとしては、たしかにそうなんです。
コマーシャルは間違いなく稼ぎ頭ですから。
それが、はじめてペイ・テレビで番組が主役になると、
客を呼べるソフトに関しては
いくら金をかけてつくってもいいじゃないか、
ということになる。
下手すると、映画をつくる以上に丁寧に、
壁紙がわずかに汚れていても張り替えるとかね。
銀座5丁目の鳩居堂は徹底的にこだわってつくるぞ、
みたいに。
その一方で、誰もが出られるぞ、というのもあって、
その二つが共存する。
だからこれからは完全な二極分化ですね。 |
糸井 |
鳩居堂の前にも歩行者天国があります状態なんだ。 |
小牧 |
ホコ天の露店をのぞく人々と、
きちっとした高い商品を買う人と……。 |
糸井 |
棲み分けしてる。
となると、出る側にしても、昔は芸能人が出世すると
歌舞伎座に出たじゃないですか。
ホコ天と歌舞伎座って本当は別のものだけど、
ヒエラルキーのなかの底辺と
頂点としての意味合いがあった。
だけど今は、どっちかを選びつつある。 |
小牧 |
同じピラミッドにないということですね。
さっきの糸井さんの話にもどると、
本物のギャラはどこまでも上がる。
それ以外は、うんと安くなる。 |
糸井 |
そうすると、つくる側も、どっちかに絞ってつくる
という思想をもたないと、どっちも
半端になるということね。 |
小牧 |
そうです。だから、未来のテレビは
ワールドカップの中継と、
『ワールドカップだけのための500時間』
に分かれるんですね。 |
渡邊 |
ワールドカップというのは、
オリンピックの何倍ものすごいお金をかけたもの。
『ワールドカップだけのための〜』は、
金はかからないけど、面積が広くて、
何やってもいいぞという、この二つの方向がある
ということですね。 |
小牧 |
その通りです。 |
糸井 |
『ワールドカップだけのための〜』って、
制作費はどのくらい? |
小牧 |
地上波の番組から言うと、二桁落として、
さらにその半分くらい。 |
糸井 |
消費税より安くつくってる。 |
小牧 |
単位時間だと、そんな感じです。 |
渡邊 |
もう一つの図式としては、われわれが番組をつくるとき、
その番組に「啓蒙」する部分と
「共感」を得るところが両立していると、
だいたいよく当たると言うんですよ
かつての『ニュースステーション』だったら、
久米さんは思いきり共感する、小宮さんは後ろに
報道局を背負ってるぞという顔をして、
びしっと啓蒙していくという、
この二つがあるとうまくいくんです。
音楽番組でもバラエティでも、ちょっと知らない、
「へぇー?」ということと、共感の部分と両方がいる。
その昔の映画の頃とか、初期のテレビは
けっこう啓蒙が多く、今は共感に
どんどん傾いてきたんですけど、これからのテレビは
ちょっと違ってくるかもしれません。
小牧さんが言った金かけてつくるというのは、
ある主の啓蒙です。質の高いショーはこういうものだ、
質の高い報道とはこういうものだ−−。 |
糸井 |
NHKなんかそうかもしれない。 |
渡邊 |
『NHKスペシャル』なんて、われわれが興味をもって、
本もたくさん読んでるようなことでも、
「知らなかった」ということを次々と出してくる。
あれは9割が啓蒙だったりするんですけど、
やっぱりすごいと思います。
NHKは多チャンネル時代になっても、民営じゃないから、
これまで通りの予算で芸能人をいっぱい集められるし、
お金の余裕をもって報道の取材や資料集めもできる。
そういう意味では、今後さらに強くなる可能性は
ありますね。なーんて政治的な発言を……。 |
小牧 |
渡邊さん、最近、仕事がNHKシフトだから。(笑) |
糸井 |
金銭的に余裕をもって好きなことができる
NHKのようなところもあれば、
貧乏だけど、企画者が自由な発想で番組づくりができる
スカイパーフェクTVのようなところもある。 |
渡邊 |
そういう意味では、これからのテレビは啓蒙と
共感がますます分かれていくという図式もある
という感じですね。 |
糸井 |
腕時計とそっくりですよ。 |
渡邊 |
はぁ、そうですか。 |
糸井 |
200万、300万する時計と、
500円の時計とがあるじゃないですか。 |
渡邊 |
なるほど。昔、腕時計というと、
誰でも1個しかもっていなかった時は、
その時計に、ある種の高級感と、ある種の使いやすさと
両方なければいけなかった。
いくつも持てるくらい豊かになったら、すごく高いのと、
安くて使いやすいのと分けてもってる、
みたいなことですね。
未来のテレビと確かに同じかもしれない。 |
小牧 |
車もそうだ。アメリカの場合ね。
アメリカは駐車場という制限がないから、
ユーティリティ・ミニバン系をファミリーユースに
もっておいて、またポルシェを買ってしまうみたいに
明らかに使い分けでいます。
日本の車も本当は、そういう時計の方向に
流れるべきなのに、駐車場という制限があるがために、
両方の機能をもつステーションワゴン
という形態が流行ったりね。 |
渡邊 |
「RVなのに高級」なんていう、わかんないのもある。 |
小牧 |
「静かな4WD」、何なんだよ、それ、みたいな(笑)。
日本の国土が広がらない限り、車は時計に向かわない。
(つづく) |
【注】
地上波放送とは、地上の中継局などを経由して
電波を送る放送。
NHKや民放など、私たちが一般に
「テレビ放送」と呼んでいるものがこれ。
衛星放送とは、人工衛星を使って
電波を送受信して行なう放送のこと。
衛星放送の中で、放送を目的とした放送衛星
(Broadcasting Satellite)を使うのがBS放送。
通信を目的とした通信衛星
(Communication Satellite)を使うのがCS放送。
放送専用の衛星を使うBSは高画質なのに対し、
CSは本来、通信用であったため、電波が弱く、
画質は落ちるとされていたが、
技術の進歩で画質は向上して、
今や通常放送での差はない。
また多チャンネルで専門分化した番組を提供するのが
CSのセールスポイントとなっている。
CSの運営管理事業を行なう会社をプラットフォーム
といい、パーフェクTVとJスカイBが合併した
スカイパーフェクTVと、ディレクTVがある。 |
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