第2回
賢い入浴法 |
糸井 |
温泉につかるとき、気持ちのいい湯の温度って
あるんですか? |
木暮 |
それはありますね。人によって異なりますが、
40度前後の温度ではないでしょうか。 |
嵐山 |
要するに、ぬるめの湯ですね。 |
木暮 |
ええ。そこに長く入る。それが体にいちばんいいですね。
熱くも寒くもない温度を「不感温度」と言いますが、
日本人の不感温度は35度から36度くらい。
西洋人のほうはちょっと低くなります。 |
糸井 |
熱さの感じ方が違う? |
木暮 |
個人差もあるでしょうが、1度から2度くらい違う。 |
嵐山 |
僕はぬる湯好きで、さっきの不感温度の
36度くらいがいいね。それで1時間も2時間も入っちゃう。
そうすると、自分がいるんだかいないんだか
わからなくなる。あれ、無の境地だな。 |
糸井 |
温泉禅? |
嵐山 |
そう、臨済宗温泉派(笑)。
ほら、今、僕たち、空気の中にいるって
意識していないじゃないですか。
それと同じように、お風呂に入っているのに、
入っているという感じがしなくなるのよ。
自分の存在が薄皮一枚になっちゃう。
でも、そこまでの感覚に達するのが難しい。
僕もそうなるまでに2年くらいかかった。 |
糸井 |
到達するのに修行2年……。 |
木暮 |
「夜づめの湯」というのもあります。
一晩じゅう入っているお風呂。 |
嵐山 |
いいですねえ。 |
木暮 |
JR水郡線で水戸から郡山に行く途中にある
湯岐(ゆじまた)とか、猫啼(ねこなき)なんか、
そういう温泉ですよ。そこは放射能泉ですが、
さっき申し上げた不感温度くらいですから、
いつまで入っていても平気。
おばあちゃんも若い者もみんな一緒に入って、
ゆったりおしゃべりなんかしてます。 |
嵐山 |
群馬県の法師温泉も、ぬる湯かげんが
ちょうどいい感じですね。 |
糸井 |
でも、35、36度といったら、「通」じゃない温泉好きは、
これじゃ入ってられないって言っちゃいますね。 |
木暮 |
だから本当は、温度差のある浴槽が二種類あると
いいんです。熱湯好きの人とぬる湯好きの人と、
必ずいますから。お客さんも宿に、
「露天風呂ありますか」と聞くと同時に、
「熱いのとぬるいのとありますか?」という質問をすると
いいんじゃないかと思いますよ。 |
糸井 |
熱いお湯のおもしろさ、喜びもあります。
インパクトがあって。 |
木暮 |
高温浴だと草津温泉の時間湯というのが代表的で、
これは47度あります。
だけど、ゆっくりは入っていられないから
短時間で入浴する。 |
糸井 |
のぼせちゃいますもんね。 |
木暮 |
高血圧や心臓疾患の人は、ちょっと注意が必要です。
いちばん温度が低いのでは、大分県の九重高原にある
寒の地獄温泉。これは冷泉で、13〜16度。 |
嵐山 |
水より冷たいね。 |
木暮 |
プールだって30〜32度ですから。 |
糸井 |
それに喜んで入るわけですか。 |
木暮 |
寒冷浴といって、神経症なんかに効果があると
いわれています。循環器に疾患がある人には
よくないですけど。 |
嵐山 |
僕が昔、寒の地獄に行ったら、きのうアントニオ猪木が
来たと言っててさ。ちょうど週刊誌で追求されてる頃で、
逃げてきたのかね。 |
糸井 |
ちょっと頭冷やそうって(笑)。
冷泉や高温浴はともかく、さっきの不感温度くらいだと、
1時間でも2時間でも入れるわけですね。 |
木暮 |
入れます。それは大丈夫です。 |
糸井 |
僕の知りあいに温泉好きが高じて
頭を坊主にしたヤツがいて、
そいつに教わったところによると、吃水線は乳首であると。
そこから上をつけなければ、のぼせずに
長時間入っていられる。
その時間も、30分より短いと「入った」とは言えない。
体の中があったまらないから。
それで、30分以上入るためにも熱い湯は
選ばないと言うんです。 |
嵐山 |
厳密に言うと、温度だけじゃなく、泉質によっても
入り方はいろいろあるわけだけど。 |
糸井 |
僕はそう教わったものだから、
なるべくそれを実行しているんですけど、
たしかに首までつからなくなってから、
温泉がもっと楽しくなったんです。
だから、フルムーンのキャンペーン広告の
高峰三枝子は正しいんだと。 |
嵐山 |
あれ、法師温泉だよ。 |
糸井 |
法師ですか。で、おっぱいの谷間が見えるような
つかり方をしているじゃないですか。乳首の上ギリギリ。
あれですよね。 |
嵐山 |
あれは、みんながおっぱいのふくらみ、
見たいからだよ。(笑) |
糸井 |
あれこそお手本だと、いいように解釈してたのに……。
でも、やっぱり肩は出して入ったほうがいいでしょう? |
木暮 |
心臓に対する負担を考えると、寝たほうがいいんです。 |
嵐山 |
寝湯っていうのがありますね。 |
木暮 |
日本人の入り方は、しゃがんだような半座位でしょう。
それだとやっぱり水圧がかかる。
その点、寝風呂は心臓に水圧があまりかかりませんから。 |
嵐山 |
僕もやってみたけど最高だね。寝湯専用の温泉では、
寝っころがれるように、頭をのせられる丸太を
置いてあるところもあります。
そういうふうにしてないところでも、みんなよく寝てる。
山の湯に行くと、オヤジがよく浴槽のそばの床にも
寝てるじゃない。あれ、見た目はきったないんだよ。
ビローンとオチンチン出したまんまで(笑)。
最初は、死んでんじゃないかと思った。
それを、「スイマセン」と言いながらまたいでいくわけだ。 |
糸井 |
その光景は想像したくないけど、
たしかに気持ちよさそうです。 |
木暮 |
温泉の入り方について付け加えると、
1回入ると体に変化が出ますから、2時間は休む。
それが基本です。
でも、みなさん忙しいのか、短時間で出たり入ったりを
繰り返す人が多いですね。 |
糸井 |
本当は、体を立て直す時間が必要なんですね。 |
嵐山 |
女の人とナニするときと同じですね。2時間はおくこと。
僕も糸井さんも、もう学問にしか興味ないから
関係ないけどさ。(笑) |
木暮 |
それから、よく、酔いを覚ますためだといって
お風呂に入る方がいますね。あれは逆効果です。 |
嵐山 |
そうですか。酒が抜けるような気がするんだけど。 |
木暮 |
程度にもよります。ほろ酔いかげんならまだいいけど、
泥酔しているようだったら危ないですよ。
アルコールというのは体の水分をとっちゃうわけでしょう。
お酒を飲むと水を飲みたくなるのもそのためで、
脱水状態になってる。アルコール飲んでるうえに、
お湯の温度刺激が加わると、ダブルパンチを受けるわけで、
これじゃ、体はまいっちゃいます。 |
嵐山 |
温泉のポスターで、桶にお銚子のっけてたりするのが
あるけど、あんなの、本当はよくないね。 |
木暮 |
あれは、「絵」としてだけです。それに、湯気に
あたりながらお酒飲んでも、決してうまくない。
おいしいのは、むしろ湯上がりでね。
不感温度のぬるいお湯の場合だと、また別ですが。 |
嵐山 |
それは僕もそう。山の中のぬる湯に
1時間もつかっているときは飲んじゃうけど、
短時間しか入れない熱いお湯では飲まないもんね。 |
糸井 |
温泉を究めるには、そういった知識も必要だ。 |
木暮 |
たとえば露天風呂なら何でもいいんじゃなくて、
それが地中から沸き出している天然温泉かどうかくらいは
ユーザーの方に知っていてほしいですね。
さらに、浴槽の温泉は放流式なのか、循環式なのか、
加熱しているのか、水でうめているのか、
そこまで追及すると「通」ですよ。 |
嵐山 |
最近、わざわざ天然温泉と書いてあるんだよ。 |
糸井 |
温泉なら天然は当たり前なのに。 |
嵐山 |
紛らわしい代物が出てきたから、
わざわざ書いて区別しなきゃいけなくなっちゃった。 |
糸井 |
だけど宿の人に、「これ沸かしてあるんじゃない?」
って聞きにくい。 |
木暮 |
見分け方の一つとしては、
お風呂に人が入っていないときに、のぞいてごらんなさい。
縁からオーバーフローしていないのは循環式です。 |
糸井 |
あふれているのは放流式。 |
木暮 |
ただ、見た目を上手にごまかしているところも
ありますけど。
(つづく)
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