第3回
金欠も治る!? |
糸井 |
木暮さんは温泉療法医でもいらっしゃるんですが、
この温泉療法医というのは? |
木暮 |
日本温泉気候物理医学会というのがありましてね。
医師の資格をもった人たちが会員となって、
温泉医学の研究をしているんです。
その学会が認定するのが温泉療法医。
たとえばドイツとかイタリアには温泉療法専門の医師が
いますけど、日本にはこれだけ温泉があるのに、
ずっと専門の医師を認定するシステムがなかった。
それで温泉に対する指導や相談ができる医師が
必要だということで、温泉療法医というのが
生まれたんです。 |
糸井 |
木暮さんは、もともとはお医者さんで、
今は温泉旅館の経営者でもある。 |
木暮 |
うちが温泉旅館だったもので。 |
糸井 |
でも、いきなり家業を継いだわけじゃないんだ。 |
木暮 |
60歳で定年になるまでは、ずっと勤務医でした。
なぜ医師になったかと言うと、戦争中、
みんな兵隊にとられたでしょう。
医者だと、いくらか死ぬ危険が減るんじゃないか
という単純な動機なんです。それで医者になり、
あれ、そういえばうちは温泉旅館だ。
じゃあ、温泉と結び付いた医学をやったほうが
いいんじゃないかという、そういう流れです。 |
嵐山 |
この頃は温泉に、
「水曜日の○時から温泉医○○先生の話」
って張り出してあったりしますね。 |
木暮 |
秋田の玉川温泉なんか、医師の指導がある温泉として
有名です。 |
嵐山 |
玉川温泉は、泉質、規模、効能はじめ、
湯治用の温泉としては横綱ですね。
一軒宿だけど、何百人も泊まれる。 |
木暮 |
いつ行ってもいっぱいです。 |
嵐山 |
1週間以上いるという人が多くて、強酸性のお湯だから、
あなたは入るのは10分までとか、
5分入ったら何分休めとか、ちゃんと温泉医が指導してる。 |
糸井 |
トレーニングコーチがついているみたいなものなんだ。 |
嵐山 |
体験者の投書を集めた本によると、万病に効くらしい。
「金欠も治る」と書いてあった(笑)。
そこには岩盤浴というのもあって、
地下からくるラジウムを体に当てるわけ。
岩の上に毛布を敷いて、傘さしたりして寝っ転がる。
このあいだ行ったら、ある有名俳優がいて、
難民みたいな格好してるもんだから、びっくりしちゃった。 |
糸井 |
医師としての目からごらんになると、
温泉は薬にもなるけど、毒にもなるということは
ないですか。 |
木暮 |
それはたしかにあるんです。温泉の成分の中には
ヒ素や硫化水素、炭酸ガスといった、多量に吸うと
中毒になったり、死ぬものもあります。
ところが微量なら、硫化水素の場合だと去痰作用があるし、
ヒ素は強壮剤になる。毒というのは量によるんで、
両刃ですから、要は使い方ですね。 |
糸井 |
その凄味ある話を聞いたほうが、
なんか効くような気がするなぁ。
温泉の効能では、病気に対しそれぞれに、
じゃあ、どこの温泉に行けばいいよ
というのがあるわけでしょう。 |
木暮 |
一般的にはあります。含有成分がこうだから、
こういう病気に効くという一覧表はあるんです。
しかしながら、正確な臨床データが
本当は必要なんですがね。 |
嵐山 |
どこの温泉に行っても、いろんな病気に効くようなことを
書いてあるけど、僕は、一つに絞ってもらいたいね。
目ならあの温泉。ここは耳とか。 |
木暮 |
外国はそうなんですよ。
ドイツだと、ナウハイムは心臓にいいとなってるし、
サッカーのワールドカップで日本チームが滞在していた
フランスのエクスレバンは、リウマチに効く湯です。
みなさんがよくお飲みになるエビアンは腎臓ですよ。
そういうふうに一つか二つ、
メインとサブくらいを特定してますね。 |
糸井 |
万病と言わず、あえて絞る。 |
木暮 |
何でも効くよとなると、ボケちゃうんです。
ある程度絞ったほうが、受け入れ側もちゃんと責任をもって
やれるし、行くほうもそのつもりで行く。
それがヨーロッパのやり方で、治療という面では、
日本はまだそこまでいってないですね。 |
嵐山 |
日本にも温泉病院というのがありますけど、
そういう病院とは別に、普通の湯治ができるというのは、
日本の温泉のいいところですよね。
露天風呂はあるし、食事も楽しめる。
何となくそこに4泊5日くらいいて
ボーッとしてるだけで新しい命をいただけるみたいな……。
これが病院のシステムになっちゃうと、
とたんに気分が落ち込む。
享楽でありながら体にもメンタルな部分にも効く。
そこの非常にいいポジションにスポーンとはまっているのが
日本の温泉で、これはたいしたものだと思う。 |
糸井 |
「子宝の湯」なんてありますが、
あれはどういうものなんですか。 |
木暮 |
不妊症にいいということですかね。
炎症とか婦人病疾患、あるいは性器の
発育不全みたいなもので不妊のこともあります。
だからあたためて骨盤内の血液の循環をよくすることで、
炎症がとれたり、性器の発育が促進されるとか、
そういうことでしょうね。 |
嵐山 |
そうすると、基本的にすべての温泉は子宝の湯なんだ。
でも不倫で温泉に行って、子宝の湯なんて書いてあったら、
男は困るね。 |
糸井 |
それは勘弁。(笑) |
嵐山 |
にもかかわらず、けっこう高級な温泉旅館は
不倫ばっかだよ。このあいだ、ある温泉旅館に行ったら、
客が13組いて、全部、不倫だった。 |
糸井 |
なんで不倫だとわかるの? |
嵐山 |
女将さんがこっそり教えてくれた。 |
糸井 |
旅先で普通のカメラじゃなく、
ポラロイドで写真撮ってるのも、ちょっと怪しい。 |
嵐山 |
朝、食事のときに楽しく話しているのは不倫(笑)。
夫婦はボソボソとしゃべるだけで、あとは黙々と食べてる。 |
糸井 |
不倫はともかく、最近のお客さんの傾向というのは
ありますか? |
木暮 |
中年の女性グループが増えていますね。
子育てが終わった人たち。
コーラスをやっている、お華をやっているとか、
5、6人から10人くらいの同好の士の方々が
いらっしゃるという。 |
糸井 |
ひと頃は、温泉旅館では男湯のほうが
うんと立派だったりしたけれど。 |
嵐山 |
ひと頃どころじゃない。ずいぶん前からすっかり逆で、
女性優先です。 |
木暮 |
露天風呂でも、女湯が男湯を
見下ろすようになっていますからね。 |
嵐山 |
法師温泉なんか、フルムーン以来、
夫が妻の背中を流すということになっているらしくて、
バカなオヤジが奥さんの背中を洗ってる。
水をぶっかけたくなるね。
ジジイとババアがイチャイチャすんなって。 |
糸井 |
嵐山さん、そういうことにやさしくないですねぇ。
目を細めて笑ってれば、いいじゃないですか。 |
嵐山 |
大っきらいだよ。(笑) |
糸井 |
じゃあ嵐山さんは、どういう人と一緒に行くんですか? |
嵐山 |
男3人というのが多いです。 |
木暮 |
うちも男同士のお客さん、よくみえますよ。 |
嵐山 |
2人だとホモ、1人だと自殺すると思われる。
そういや、このあいだ、飛び込みを見たよ。 |
糸井 |
いろんなものを見てるなぁ。 |
嵐山 |
だから男3人。男は奥さんと来るのいやだし、女性もそう。
亭主と一緒より、友達と行くほうが楽しい。
男同士、女同士のほうがいいんだよ。
男3人だと、あ、こういうとき、女房だと喧嘩になけど
男だけだから喧嘩にならないんだな、というときがあるよ。 |
糸井 |
たとえばどんなとき? |
嵐山 |
電車に乗ってて、ぬる燗の酒を飲むうち、
ぐでんぐでんに酔っぱらってきてさ。
もう1本飲もう、なんていうとき、
「女房だと、『やめなさい』って言うな」なんて思ってさ。 |
糸井 |
はあー。 |
嵐山 |
いろいろあるの。(笑)
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