BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


冷え性日本に温泉力を!
(全4回)


その二文字を、目に、耳にするだけでも、
ほんわか効果あり!? 疲れ打ちひしがれている日本人を救う
最後のユートピアを語る。


構成:福永妙子
写真:中央公論新社提供
(婦人公論1999年1月22号から転載)


嵐山光三郎
作家。1942年東京生まれ。
雑誌『太陽』編集長
などを経て文筆家に。
著書に 『素人包丁記』
(講談社エッセイ賞受賞)
『ざぶん』『文人悪食』
など。
編集者時代より
温泉行脚を続け、
『日本列島
天然純朴の温泉』など、
温泉に関する
エッセイも数多い

木暮金太夫
(社)日本温泉協会会長。
日本温泉気候
物理医学会理事。
1929年群馬県生まれ。
前橋医学専門学校
(現群馬大学
医学部)卒業、 医学博士。
群馬県伊香保温泉の
老舗旅館「金太夫」
社長でもあり、
同地に「日本温泉
資料館」を運営。
共著に『ベルツ博士と
群馬の温泉』 など
糸井重里
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は
多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。


婦人公論井戸端会議担当編集者
打田いづみさんのコメント

信州の「りんご風呂」に行ったときのこと。
“湯上がりの一句”が宿の壁にズラリと貼ってありました。

「白き肌 近寄り見れば 村田かな」
――男風呂の、湯けむりに浮かび上がった
艶めかしき女人の背! 
つい近づいてみると、それは同行の村田クンであった。

なんかポワンとする幻想的な光景……。
きっと村田君はポッチャリ系なのでしょう。
この湯当たりした感じ、心がなごみます。

さて、今回は温泉博士の木暮さん、温泉達人の嵐山さんを
お迎えして、そんな温泉の“なごみ力”の秘密に迫ります。
そう言えば糸井さんも、この収録直後に温泉行きを控え、
なんだかウキウキしてらっしゃいました。

第1回
湯煙昇る国で

糸井 このあいだ、東北の八郎潟近くの温泉に入ってきましてね。
釣りの取材に行ったんですけど、どうせ泊まるんだったら、
温泉のあるところって思うじゃないですか。
温泉のあるなしで、旅のヨロコビがぜんぜん違っちゃう。
嵐山 温泉というと、みんな行きたがるよね。
「どこか旅行に行こう」ったって、すぐにはのらない。
それが、「温泉でも」なんて言うと、
「おっ、いいですねえ」。
糸井 「温泉」って殺し文句ですね。
言葉そのものがコミュニケーションみたい。
木暮 日本人はそもそも温泉好きですよね。
民族性といいますか、気候風土が高温多湿だから、
お風呂に入ってサッパリしたいという願望が、
昔から今日に至るまで歴史的にもずっとあります。
サッパリすれば、飲食もすすむし、気分もよくなる。
リラックスして精神的にもいい。
それに加えて、美人の湯なんていうのがあるくらいで、
美容の面でも効能があるし。
それから、温泉のイメージとしては
「あったまる」ということで、
そこに、ほのぼのとした情緒も感じられてね。
糸井 一時は温泉というと年寄りじみてる感じがありましたが、
今は若い人もよく行きますね。
木暮 若い人が好むのは、露天風呂の爽快さとか、ね。
糸井 露天風呂は人気ありますか。
木暮 私は伊香保で旅館をやっていますが、お客さんはまず、
「露店風呂はありますか」と聞いてきます。
糸井 昔は「テニスコートありますか」だったでしょう。
嵐山 プールとかね。
木暮 今や若い人にとって、露店風呂ははずせない条件です。
嵐山 露店風呂は日本人が発明した宝ですね。いいアイデアだよ。
木暮 そう思いますね。
嵐山 昔ながらの湯治だって、
少なくなってるわけじゃないんです。
僕が行くのはもっぱら湯治系のところですけど、
今、そこも混んでますもん。
糸井 嵐山さんは湯治系か。
嵐山 山の湯ね。団体バスが来るような
バブル系のところは嫌いなの。
糸井 それにしても、こんなに「温泉、温泉」と言うのは
日本だけでしょう。
木暮 日本は温泉が多いですからね。外国にも温泉はあるけど、
日本にくらべると数は少ないです。
しかも高温泉よりも、25〜34度くらいの低温泉が
多いですね。
糸井 日本には今、どのくらい温泉があるんですか?
木暮 温泉地は約2500ヵ所。
狭い国土にそれだけあるというのはすごいですよ。
世界の温泉の分布だと、環太平洋、日本も入っていますが、
アリューシャンとかアメリカの太平洋沿岸、
それからペルー、チリ、反対側だと、台湾、フィリピン、
ニュージーランド、そういうところを
リング・オブ・ファイアといいまして、非常に多いです。
火山に関係ありますから。
嵐山 温泉はあっても、日本みたいな入り方をするところは
少ないでしょう?
木暮 高温に入るのは比較的少ないです。
サウナとかロシア風呂というのは高温ですけど、
これは入浴じゃなく、蒸すほうですし。
日本で温泉というと入浴のイメージです。
でも外国の場合、必ずしもそうじゃない。
「飲泉」といって、飲んだりね。
日本でも5パーセントくらいは飲泉してますけど、普通、
「温泉に行こう」は、「温泉に入浴する」ことですもんね。
嵐山 ドイツのバーデン・バーデンなんか病院みたいでね。
消毒液のにおいがしちゃうし、看護婦さんなんかがいてさ。
楽しむという感じがしない。
糸井 楽しむというより、治す。
嵐山 アメリカのコロラドで入った温泉は、
日本のにちょっと似てたな。
アメリカンロッキーの麓なんだけど、
1キロ×500メートルくらいの
あったかい温泉プールがあって、
大陸横断鉄道が走っているのが見える。
ものすごく雄大なの。
糸井 いろんなところに行ってますね。
嵐山 去年の今頃は、零下40度のアラスカの露天風呂にも
入ったな。
木暮 アラスカは温泉が多いですね、火山地帯ですから。
嵐山 オーロラを見に行ったんだけど、
零下40度は並みの寒さじゃないね。
屋内のお風呂で体をあっためといて、
そこから露天風呂まで10メートルくらいダダダッと
一気に走っていって、ザバンと入る。
鼻にはツララがぶら下がってるんだよ。
糸井 それも豪快ですね。
嵐山 吸気が冷たくて、帰ってから1週間、胸が痛かったけど。
糸井 ドイツでホテルのサウナに入ったら、
ハダカの女の人がいっぱいいてびっくりしたんですけど、
ハダカでみんな一緒に入るのは日本だけじゃないですね。
嵐山 さっきのコロラドの温泉はハダカだった。
木暮 国によって違いますね。ハンガリーなんか、
小ちゃい前掛けみたいなので前だけ隠すの。
後ろはスッポンポン、男も女も。

(つづく)

第2回 賢い入浴法

第3回 金欠も治る!?

第4回 女房湯と愛人湯

1999-10-31-SUN

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