HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

その5

もういちど「どうして投資をするんだろう?」。

主業務のはずの「ひふみ投信」はおまけである、
というお話、とても面白いです。

おまけっていうことで言うと、
TVの『龍馬伝』から広く知られた
岩崎弥太郎のエピソードを思い出します。
岩崎弥太郎が木材を売ろうとして全然売れず、
奥さんに「おまけ」をつけることを提案されるんです。
そこで岩崎弥太郎は木の仏像をつくったんですが、
やっぱり売れなかった。
けれども、補修が必要な家で、
その補修を請け負ったところ、とても喜ばれたわけです。
そこで岩崎弥太郎は気が付くんです。
「そうか、木材がおまけだったんだ」って。
お客さんが欲しかったものは木材じゃなかった。
快適な空間なんだって。

僕の仕事にしても、
お客さまが欲しいのは投資信託じゃないんです。
投資信託を通じて社会に貢献したいとか、
もしくは将来のお金の不安を解消したいとか、
5年とか10年後にお金が増えて、
将来の不安がなくなればいいよねと考える、
そのことが主商品なんですよ。
だから、投資についてよく分からない、
その不安を解消してほしいんですね。
世の中に数千もの投信があって、
その中から僕らの商品を選んでくれるっていうのは、
家の修理をしてくれるようなことをしてくれた人に対して、
その木材を導入するのに等しいことだと
僕は思っているんですよ。

よく分かりました。

これが、この本には書いてない話ですね。
『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』
という本もそうでしたが、
彼らは主商品であるはずの曲そのものを
フリーにしているんですよね。
でも結果的にアメリカでたいへん稼いでいるバンドです。
グレイトフル・デッド体験、コンサートが売り物で、
いい場所で写真が撮れる、音源をつくれる、
Tシャツを販売する、それが彼らの「おまけ」で、
いちばん稼いでいるところです。
かつ、そこに嘘偽りがなく、
フリーで楽しめる人は楽しんでいるし、
お布施としてお金を払いたい人はTシャツを買う。

はい、「ほぼ日」でも
その本に関連したコンテンツ
つくったことがあります。

そうでしたね。
今、ネットが出てきて、SNSが出てきて、
消費者主権という発想が出てきたとき、
実はテレビコマーシャルで
ブランド価値をつくるような商品を
お客さまがそれほど望まなくなってきています。
例えばチェーン店の居酒屋さんとか今非常に苦しい。
なぜかというと、スマホで調べると、
地元で愛されている店は
チェーン店ではないお店ばかりです。
普通は発見できない店を知ることができる。
何日も煮込んだ究極のフォン・ド・ボーを使った
カレーが食べられる、
というような店を知ることができます。
行きたいですよね。
そうすると、テレビコマーシャルをやって
知名度が高いチェーン店というのは、
何も知らない時代だったら
むしろブランドの安心感で
そこに行くのが合理的だったんだけれども、
スマホの時代になり、検索ができると、
最も地域で愛されている店が見つかるようになった。
店側も、まじめに頑張っていて、
適切にネットとアクセスしてさえいれば、
広告費をかけずに、
検索されて見つけられる時代になったんです。
知名度が高いとか、全国チェーンだという価値が
だんだん壊れてきています。
それよりも、個々の体験が大事になっているんです。

その通りですよね。
「ひふみ投信」さんも、CMはありませんね。

はい。僕らのところでも「ひふみ体験」を持つと、
その人が「あっ、これいいね」と、
旦那が奥さんに、奥さんが旦那に、
それからご両親に、さらに子どもに、
それから今度は同僚にって広がっていくので、
僕らの口座開設の70%が、口(くち)コミなんですよ。

へぇ!

テレビコマーシャルゼロで、
広告宣伝費ゼロで、接待費ゼロの会社なんです。
多くの会社はテレビコマーシャルを打って、
銀行にアポを取り、
頭取に会わせてくださいと料亭で接待し、
総力をあげてやりますからと
トップダウンで商品を置いてもらいます。
僕らは、正面玄関から担当者に会って、
その担当者に納得してもらったら、
担当者が上に説得する。逆なんです。
役員を説得して頭取決裁をとるところまで、
会社の壁を越えて仲間になるんですよ。
投資文化を広げるために
どういう研修をしましょうかって話を一緒にして、
コミュニケーションをつくっていくんです。

そんな僕らにいま足りないのはコンテンツで、
いずれ、投資について分かる、
四コママンガをつくるとか、
そういうことをしたいんですよね。
「ほぼ日」的なテイストで
僕らが投資のことを伝えていくような媒体があり、
それが僕らの主業務だっていうふうにして。
それはもしかしたら、毎日発信する、
投資についての分かりやすい動画かもしれないし。
そういうコンテンツ制作会社のような部分を持ちながら
投資機能を持っているというような組織が、
次世代のあり方かなと感じます。
いまどきに言うとオウンドメディアですが、
それよりも本当に僕らは伝えたいことがあるから、
結果的にメディア機能を持っているよね、
っていう話なんですが、
それが「いま、したいこと」なわけです。

株は「得する」とか「損する」という
イメージが強かったですが、
応援したい会社の商品やサービスを買うことと、
投資をするということは、
そんなにかけ離れていないかもって思いました。

そういうことなんです。
僕らは投資の楽しさとかワクワク感を伝えたいんですよ。
それに、好きな製菓会社のお菓子を
3,000円分買うとしますよね。
そのお菓子は、数日でなくなっちゃうと思うんだけど、
3,000円、製菓会社の株を買えば、
お菓子のようには減らないです。
倒産すればゼロになるけど、そうそう減りません。
今はミニ株というのがあって、
普通は「単位株」といって
決まった単位からでしか買えなかったのが、
その単位株が小さくなり、会社によっては
1万円、2万円でも買えるようになりましたし。

「好き」や「応援」きっかけの投資でもいいんですね。
旅行で航空会社を選ぶとき、
価格や時間でも比較しますけれど、
「この航空会社が好き」という要素もありますものね。
好きな会社に投資することと、
その気持ちは全然かけ離れてないです。
そして、全国各地を頻繁にまわって
いろんな会社に出会っておられる
藤野さんがイメージする日本の未来に期待をこめて、
応援するのもありかも! って思いました。

そう言っていただけると僕もうれしいです。

どうもありがとうございます。
きょうはいいお話をたくさん聞かせていただきました。
前回とはまた違ったところを理解できた気がします。

ありがとうございます。
またぜひ今後ともよろしくお願いします。

藤野英人(ふじのひでと)

1966年富山県生まれ。
早稲田大学卒業後、野村證券株式会社、
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、
ゴールドマン・サックス系の資産運用会社を経て、
2003年にレオス・キャピタルワークス株式会社を創業。
代表取締役社長・最高運用責任者(CIO)として、
成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、
高い成績を上げ続けている。
明治大学商学部の講師も長年務めている。
現在、WEB版の「現代ビジネス」「cakes」にて
コラムを連載中。
著書は、
糸井重里が読んで
「非常におもしろかった」と社内にすすめた
「投資家が「お金」よりも大切にしていること」をはじめ、
「儲かる会社、つぶれる会社の法則」
「起業」の歩き方」など多数ある。