──
これまでに「200枚以上」のりすの絵を
描かれてきたということですが
はじめは、
「1枚」からはじまったわけですよね。
藤岡
はい。
──
そこから「もう1枚、もう1枚」と
リクエストに応えていったということですが
「はじめの1枚」のときって
「仕事」という感じではないですよね、まだ。
お料理を運ぶ仕事だったわけですし。
藤岡
そうですね‥‥たぶん。
──
でも、いまは完全に「仕事」ですよね?
藤岡
きっと、そうなんだと思います。
わたし、りすしか描いていませんから‥‥。
──
藤岡さんのなかでは
いつから「仕事」になったと思いますか?
藤岡
いつから、と言うと
それは「だんだんに」だと思うんですけど、
やっぱり、
みんなが「見てくれる」じゃないですか。
クッキーのパッケージになったら。
──
ええ。
藤岡
それが、本当に、うれしかったんです。
仕事かどうかについては曖昧だったんですが、
「うわあ、すごい! うれしい!」って。
──
はー‥‥なるほど。
藤岡
だから、自分としては楽しく描いてるだけなので
これまで、あんまり
「仕事よ!」って気もしていなくて、じつは。
──
でも、はたから見たら
「描いた絵をみんなに見てもらえるのが、
すごくうれしい」
というのって
やはり、プロの絵描きのよろこびだと思います。
藤岡
はい、そうなんだと思います。
でも、自分で「画家!」と思ったことが
あんまりないので‥‥
「プロの画家です」って言っていいのかな(笑)。
──
いやいや、プロの画家です(笑)。
でも、藤岡さんという画家が他とちがうのは
作品が「クッキーの箱」となって
町の中をぐるぐるまわる、という点ですよね。
藤岡
はい、クッキーの箱なので
買ってくださった人だけじゃなくって
ご家族も見てくださるでしょうし、
誰かにプレゼントしていただけるなら、
またそこで、
わたしの絵のことを知らなかった人の目にも
とめてもらえると思うんです。
そのことを想像すると、すごくうれしいです。
──
1点ものの芸術作品として描いているのに
流通の形態は「商品」なんですよね。
藤岡
わたし、クッキーのパッケージになった時点で
いったん満足しちゃうんです。
だから、いろんな人が個展をやらないのって
言ってくださるんですけど、
ぜんぜん、そういう欲求がわかないんです。
──
つまり「もう見てもらってる」から。
藤岡
それで、充分なんです。
──
でも「見られることで鍛えられる」という面も
かならず、ありますよね。
藤岡
はい、それは、そうだと思います。
だから、こわくなったりすることもあります。
基本的に「ボツがない」ので。
──
先ほど「描いた絵はすべて商品になる」って
おっしゃってましたもんね。
藤岡
はい、西光亭の奥さまに絵を渡すと
かならず、パッケージにしてくださるんです。
だから、絶対に手を抜けないんです。
──
藤岡さんの「職業意識」って
そのへんにあるんじゃないかなと思いました。
強烈にあるわけじゃないけど
でも、静かに、しっかりあるというか。
藤岡
むしろ「あ、これはダメよ」って言われたら
すごく気が楽なんですけどね(笑)。
──
なるほど(笑)。
藤岡
しかも、そこまで真剣に描いた作品なのに、
けっこう執着がないんです。
──
ご自分の絵に?
藤岡
ちょっと、自分から離れている感じがする。
絵から一歩ひいた感覚というか‥‥
そのへん、やっぱり
ふつうの画家とはちがうかもしれないです。
──
でも、あらためてですけれど
「クッキーの箱」だったっていうことが
すっごくいいなと思いました。
藤岡
はい、相性が良かったんだと思います。
あの、ほろほろっとしたクッキーに
このタッチの絵なので、
全体として
どこか、あたたかな雰囲気が出ていて‥‥。
──
ちなみに、あれだけたくさんあるなかで
「ものすごく売れる」パッケージがひとつ、
あるそうですね。
藤岡
どんぐりの絵です。
──
なんでも、そのパッケージだけで
売上個数の3分の1ほどを占めているとか。
藤岡
そうみたいです。
──
やっぱり、「とくにできのいいもの」って
たくさんのなかでも
目につくってことなんでしょうかね。
藤岡
うーん、どうなんでしょう。
わたし自身は「売れる、売れない」ってこと
あまりよくわからないので‥‥。
──
その絵を描いたときのこと、覚えてますか?
藤岡
覚えてます、覚えてます。
ものすごーく、集中して描いていたんです。
もう、目と絵が
くっついちゃうんじゃないかってくらいに。
──
そんなに。
藤岡
で、しつこいぐらいに、重ね塗りしてます。
──
へぇー‥‥。
藤岡
背景の色が気に入らなくって、
たしか、3回くらい塗り直してるはずです。
──
その迫力というか‥‥情念みたいなものが
宿っているんでしょうか。
藤岡
情念は、けっこう込めるかもしれません(笑)。
──
描きあがったときは、うまくいったなあと?
藤岡
はい、たしか一晩で描き上げたんですけど
「できたー!」って感じでした。
いま、情念って言葉が出ましたけど、
やっぱり「絵に対する思い」が強いときのほうが
うまく描けるような気がします。
──
思い‥‥というと?
藤岡
たとえば、お母さんりすと子りすが出てくる
絵を描こうって思ったら‥‥。
──
ええ。
藤岡
「ありがとう、ありがとう」って思いながら
ずうっとそう思いながら、描くんです。
──
ほー‥‥。
藤岡
そうやって絵を描いていると、
雰囲気のいい、母子りすの絵になってくれます。
だって、
お母さんりすは、子りすに「ありがとう」って
思っていると思うし、
子りすも、お母さんりすに「ありがとう」って
思っているはずだから‥‥。
──
気持ちを想像しながら描くんですね。
藤岡
はい、りすの気持ちになってみるんです!
──
‥‥なるほど。
藤岡
‥‥いま、自分で言ってて
ちょっと恥ずかしかったんですけど‥‥(笑)。
──
いや、でもそうなんでしょうね。
藤岡
はい。
ずっとりすの絵を描いてきて、
やっぱり、そういうことだなって思ってます。
<つづきます>
2013-07-24-WED