- 藤田
- 最近、おもしろいなと思った表現があって、
それは
「復旧にかかるコストは経費だけど、
復興にかかるコストは投資なんだ」って。
- 糸井
- なるほど。
- 藤田
- こわれてしまったものを元に戻すだけでは
ただの「経費」ですけど
いま、自分たちのつくっているものが
「将来に渡って
きちんと利益を生み出していけるような
新しいもの」
だったら、
そこにかかるコストは「投資」だ‥‥と。
- 糸井
- 自分たちがやってることの「確かめ算」が、
できるような話ですね。
- 藤田
- そして、あくまで「投資」であって、
それが「投機」になってしまっては、ダメ。
- 糸井
- うん、うん。
- 藤田
- 新しい価値を生み出しているか、
短期的な利益だけにとらわれていないか。
ちょっとした言葉の違いだけど、
そのことを意識することができたんです。
- 糸井
- そのとおりですよね。
で、ぼくが、あとひとつ付け足すとすれば
「利益は生み出さないけれど、
信頼を生み出しているか?」ってことで。
- 藤田
- ああ、なるほど。
- 糸井
- これまでのタイプの「営利企業」では
株主総会で
ブーイングもらっちゃうかもしれないけど
「たとえ利益を生んでいなくても、
あなたの会社は、
あなたがたのやっていることは、
なくなってしまったら、困るんです」
という励まし方が
これからの時代には、あると思うんです。
- 藤田
- 同じように「信頼」の話で言うと、
「こいつがつくってるんだから、大丈夫」とか
生産者じゃなくても
「この店が扱ってるんなら、安全安心だ」
「ここの料理人さんが使ってるんだから
大丈夫だし、絶対おいしいよね」
というような関係性を、結んでいきたいんです。
- 糸井
- そうなったら、強いですよね。
- 藤田
- 福島大学の清水修二先生が
「コミュニケーションの核にあるのは
説得じゃなくて、信頼だ」って。
- 糸井
- なるほど。
- 藤田
- 本当に「あぁ、そうだよなぁ」と思いました。
もちろん「理屈」も大事なんだけど、
結局は、その人や、組織や、取り組みなどが
いかに信頼できるのか‥‥ですよね。
- 糸井
- うん、うん。
- 藤田
- で、「じゃあ、どうしたら信頼されるの?」
って言ったら、やっぱり
「生き生きしてる人」だったり
「思いやりがある人」だったり
きっと、そういうところなのかなあ‥‥と。
- 糸井
- そういう人って、
人と人をつなげてくれますもんね。
- 藤田
- そうなんです。
震災前から震災後1~2年くらいのあいだは
郡山の野菜をどうしようかって
農業者だけで集まって
カンカンガクガクの話し合いをしてたんですが
震災後3年めくらいから
クリエイターの方とか、学問の世界の方とか、
PR業界の人とか‥‥
それまで、私ら農民とは
まったく関係なかった世界の人たちと
話をするようになったんです。
- 糸井
- ええ。
- 藤田
- そしたら、おたがいに
すっごいリンクすることが、たくさんあって。
だから、本当におもしろいんです、最近。
- 糸井
- たとえば、どんな取り組みがあるんですか?
- 藤田
- 奥田政行シェフが郡山につくった
「福ケッチャーノ」というレストランがあって、
そのおとなりで
「開成マルシェ」というマルシェが
定期的に開催されるということで参加したら、
すごくおもしろくて、人が人を呼んで‥‥。
- 糸井
- へえ。
- 藤田
- で、そのマルシェのことを聞きつけた
東京の旅好きのお姉さまが
わざわざツアーを組んできてくれたりとか。
自分には利益もないのに人を連れてきて
なんか、パンフレットまでつくってくれて。
- 糸井
- 本当に「おもしろい」って思ったんだね。
- 藤田
- ツアーに来た人たちも
ほとんど予備知識がなかったみたいで
とりあえず
「おいしい野菜なんかが食べられるのかな」
みたいな感じだったんですが
私らの畑へ行って、ダイコン引っこ抜いて、
ワイルドに包丁で切って、
「さあ、食べてみ」みたいな感じで。
- 糸井
- おお。
- 藤田
- まさに「大地の味」を、たのしんでくれて。
そのあと、マルシェに戻ったら
さっき食べたダイコンを買うことができて、
ワインを飲みながら、
生産者たちの思いも聞くことができて‥‥。
- 糸井
- いいですね。
- 藤田
- 私たち、ずっと自分たちの「郡山」のことを
「魅力のない街」だと思っていたんです。
お米の産地ではあるけれども
とりたてて有名な農作物も、なかったですし。
- 糸井
- 「何でも2番」って言われてたって‥‥。
- 藤田
- そうなんです。
優等生なんだけども、器用貧乏みたいな街で
「いいところねえなあ」と思ってました。
でも、たのしんでくれている人たちの顔を
見ていたら
「そんなことないじゃん、ぜんぜん」って。
- 糸井
- お客さんに、教えてもらうんだよね。
- 藤田
- そうなんです。
畑でダイコン引っこ抜いてかじって食うなんて
自分らにとっては「ふつう」のことも、
お客さまにとっては、そうじゃなかったんです。
- 糸井
- つまり「コンテンツ」だったわけだ。
- 藤田
- 「みんな、こんなにも好奇心を持って、
驚いてくれるのか!」
そのことを知ったら、
「じゃあ、次にこの人たちが来てくれたとき、
もっともっとたのしんで、
もっともっとおどろいてもらうには
どうしたらいいだろう?」
みたいなことを、
ぐるぐる考えるようになったんですよ。
- 糸井
- いやあ、いいですね。
藤田さんがすごくたのしそうに話すところが
なにより、いい。
- 藤田
- はい。
もちろん、いろいろ難しいこともありますが
ひとつだけ言えるのは
「いままでの人生のなかで
いまが、いちばんおもしろい」ってことで。
- 糸井
- おもしろいですか。
- 藤田
- おもしろいですね。
震災後1年目、2年目なんかは
「このあと、
この郡山で農業を続けていくためには
どうしたらいいだろう」
みたいなことを、ずっと考えてましたが
いまはもう、
「どうやったら、自分たちがたのしんで、
どうやったら、
みんながたのしいと思ってくれて、
どうやったら、
もっとみんなが集ってくれるだろう?」
そんなことばっかり、考えてます。
- 糸井
- 藤田さんの顔を見てたら
強がりじゃなく、そう言えてるのがわかる。
- 藤田
- はい、無理なく言えるんです。
本当に、いまが、いちばん、たのしいって。
<つづきます>
2015-03-27-FRI