今年は、万葉集編纂者のひとりと目される
大伴家持(おおとものやかもち)の生誕1300年。
それにあわせて、里中さんはいま
家持の物語を執筆中です。
他にもまだまだ万葉集にからんで
描きたい話があるという里中さんに、
ひきつづきお話をうかがいました。
- ——
- 今年は大伴家持の漫画も
描いていらっしゃるんですよね?
- 里中
- ほんとはもう出来てないといけないんですけど、
遅れています(苦笑)。
- ——
- 万葉集編纂の経緯も描かれるのですか?
- 里中
- 柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)が
個人的に書き記しはじめて、
何らかの形で残しておいた
歌集のスタートのようなものが、
誰の手を経てどんな風に流れたのかわからないけれど、
山上憶良(やまのうえのおくら)とか
大伴旅人(おおとものたびと)とかがかかわって、
大伴家持に託された。そんな風に、
私としては思うしかない。
なので、そう描くことになると思います。
- ——
- 万葉集と長いつきあいになりましたね。
- 里中
- 万葉集研究者のみなさんにいつも言うんですけど、
みんなの力で万葉集を世界文化遺産にしたい。
その価値はあると思うんです。
こんなにも長い間ひとつの言語が保たれて、
1300年も前に男女平等、身分の差による区分がない、
政治犯の歌でもすぐれていれば取り入れるという、
こんなすばらしい文化遺産はない。
日本人はもっと胸を張っていいと思います。
明日香の景色も財産です。
幸か不幸か開発から取り残されたので、
万葉集の時代の風景が残っています。
歌のとおりに、香具山、畝傍山(うねびやま)、
耳成山(みみなしやま)の
大和三山がすぐそこに見えます。
道を歩けば、
「ここは、讃良が歩いた道かもしれない」
「この道をあの人が歩いて、
彼女の元に通ったのかもしれない」と
感じることができます。
明日香に行かれる方は、
ぜひそのあたりを楽しんでください。
- ——
- そういう味わい方って、ありますね。
- 里中
- 明日香に行けなくても、
万葉集の楽しみはキリがないんですよ。
一日一首読むだけでも、
何年も楽しめます。
興味のある方は、万葉仮名(あて字の漢字)にも
挑戦してみてください。
江戸時代にはすでに読めなくなってしまって、
額田王(ぬかたのおおきみ)の歌に、
未だ読み方が判明していなくて、
いろんな説のあるものがあります。
そういうものにチャレンジしてみてください。
歌から入る。人から入る。時代背景から入る。
いろんな切り口があります。
ここに歌を残している人の誰かは
あなたの祖先かもしれない。
ピンとくる歌があったら、
ご先祖の歌かもしれない。
そうじゃなくても、
ご先祖とどこかで深くかかわった人かもしれない。
日本なんて狭いですからね。
そう思うと楽しいでしょう。
- ——
- なるほどー。
- 里中
- もうひとつ楽しいのが、
関西のイントネーションで読んでみること。
東歌はありますが、
万葉集に歌を残している人の多くは、
基本的に近畿圏の人です。
だから、歌も関西のイントネーションで
読んでみると、また違った味わいがあります。
全体にほわぁ〜っとします。
ロマンチックじゃなくなることも
ありますが(笑)。
新しい万葉集を発見してください。
(おわり)
2018-10-07-SUN
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN