北 折 |
糸井さんが「今日のダーリン」で書かれたなかに
「体重計という道具で
自分の体の中を探検してる感じ」
っていう言葉がありましたね。
まさに、それが、ほんとうに自分が
一番わかってもらいたかったことです。
表現の仕方がわからなかったことを
ズバッと書いていただいて
ものすごくびっくり仰天しちゃいました。 |
糸 井 |
それは北折さんが
もうわかってらっしゃったことで、
その言葉になってなかっただけのことです。
ぼくは書いてあることの通りに考えて、
逆にぼくは、この人に操られている、
って気持ちよさを感じて読んでいたんですよ。
読み進めていくと
こういうこと考えちゃうなっていうあたりで、
北折さんがちゃんと待ち伏せしていて。 |
北 折 |
あ、待ち伏せ(笑)。 |
糸 井 |
質問してないのに、
「はい! それはね」って言うわけですよ(笑)。 |
北 折 |
ポテトチップス食べちゃったときとか? |
糸 井 |
そう。名文句がいくつかあって、
体重が減るときに、
脂肪が減ってるのか、
炭水化物が燃えて減ってるのか、
どっちなんだみたいなことを
小うるさく言うやつがいるけど、
「うるさい! そんなことはどうでもいいじゃないか」。
言葉はもっと丁寧に書いてありましたけど。 |
観 客 |
(笑)。 |
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北 折 |
たしかに「どうでもいいじゃないか」ですからね。 |
糸 井 |
あれに、ぼくはこの本の
ひとつの覚悟を感じていて。
テレビだったらあの部分を
悪役というか、
つっこみ役をひとり立てますよね。
「しかし、これはまぁ
脂肪が減ってるわけじゃあないとも言えますね」
なんていうと、山瀬まみなんかが
「どっちだっていいじゃないですか」
って言う。 |
北 折 |
はいはい。
うちの番組では、
志の輔さんが言ったりもしています。
NHKの職員じゃない人に言わせる、みたいな。 |
糸 井 |
そうですね。
でもこの本では
ひとりでやってるわけですよね。 |
北 折 |
ちょっとそのへんは覚悟もいります。
専門家からつっこみがきたときにどうしよう、
っていうのがあるんです。
ただ、ほんとに専門家の人は
人がダイエットに成功して、
命を救うってことが起こったほうがうれしい、
って立場ですので、
「よくあそこまで書きましたね」っていうふうに、
すごく褒めていただく部分だったりもします。 |
糸 井 |
なるほどね。
番組と本で違いはあったんですか。 |
北 折 |
特に、医療関係の人とか
保健関係の人たちっていうのは
実際にスタートさせるっていうことが
なかなか、みんなできなくて
困ってると思うんです。
ダイエットっていうものを、
普通のサラリーマンのお父さんのような人に
どうやったらスタートさせられるかっていったときに、
ガッテンの番組ではなく、ぼく個人の本だったから、
ひとつのモチベーションの立て方として、
家族のために死なないってことを
くっつけてみたっていうのが、ひとつですね。 |
糸 井 |
うん。 |
北 折 |
あとは、テレビだと
いったん食いついた人をいかに逃さないかで
決まっちゃいますけど、
本の場合は、リモコンでピッといなくなったり
しないんで、ちょっと違いますね。 |
糸 井 |
ほー。 |
北 折 |
前半わざとちょっと難しい、
病気の説明とかゴツゴツした内容にしておいて、
さんざん疲れてやっと登りついたところから
後半はすーっと降りれらるようにしてみました。
そのほうが、読んだ人の体の中に
入っていけるかなーと思って。
なので、前半は「である」調、
後半は「ですます」調に変えてあるんですよ。 |
糸 井 |
文体を変えてますね。 |
北 折 |
はい。気づいてもらえないと寂しいんで、
「わけあって、ここから、
ですます調に変わります」と入れて、
無理やり気づいていただくようにしたんですけど。 |
糸 井 |
あの前半がなかったら、
ぼくもやってなかったです。 |
北 折 |
ああーよかった。やっぱりですか。 |
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糸 井 |
つまり、どう言ったらいいでしょうかね。
自分のボディーを
自分の脳がコントロールするっていうのは、
悪い意味ではしょっちゅうやってるわけです。
眠くてしょうがないのに、コーヒーをがぶ飲みして、
がんばるんだオレはっていうのは、
脳が体を奴隷にしてるわけで。
あと、腹いっぱいで、
もう、ゲーップって言ってるのに、
これうまいよねぇって言ってもっと食べるのも、
脳がやらせてるわけですよね。 |
北 折 |
そうですね、はい。 |
糸 井 |
その、悪い関係はさんざんやってきた。
このいまの世界そのものが
その脳が王座にいるおかげで
ろくでもないことだった。
逆の使い方で、脳が思い返して
ちがうふうに、考えを変えてくれたおかげで、
体が楽になるっていうのは、
いわば奴隷解放なんですよ。 |
北 折 |
ああー、なるほど。
すごいですね、表現が。 |
糸 井 |
ボディーという奴隷を
政権交代‥‥
そういうと民主党みたいだな。
指導部チェンジのおかげで、
その快感に
オレは捨てたもんじゃない、と。
脳を使うってことは、
悪いことだけじゃないから。
肉体派に戻ったり、
やけっぱちになって
急に山奥にこもっちゃってね、
耕して暮らすんだっていう必要もないし、
脳と体の関係をもう一回見直すっていう意味で
グラフを眺めるオレって
どっちの味方なんだみたいな。 |
北 折 |
ああー。ははは。
どっちの味方!?
思ったより正義の味方は簡単だったりで。 |
糸 井 |
うれしいんですよ。 |
北 折 |
はい、はい、はい。 |
糸 井 |
でも、それをさせる
最初のきっかけが難しかった、ってお話、
お知り合いでやっぱり、そういう方が
いらっしゃったんでしょうか。 |
北 折 |
亡くなっちゃった人ですね。
いまから考えると
やはりそれで亡くなってたんだなって
いうふうに思いました。 |
糸 井 |
はぁー‥‥。 |
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北 折 |
もう十何年前にも、最近になってからも、
ぼくの身近で突然死がありました。
けれどそのことで、とにかく誰かに
お伝えしなきゃというよりは、
「ためしてガッテン」という番組を
つくり続けてきたから、これを伝えなきゃ、
という気持ちになってきたというのが
すごくありますね。
ガッテンがはじまって、
丸15年になるんですけども、
最初の2年目までは
病気ネタはやってなかったんですね。
で、3年目に、
動脈硬化のくそ難しいことを、
はじめていろんなキャラクターを使ったり
小野アナウンサーの血液の中の白血球の成分が
血管壁を突き破る瞬間の顕微鏡画像を撮るとか
いろんなことをして、
動脈硬化のメカニズムっていう、
くそ難しいことを、
くそ細かくやるっていうのを──。 |
観 客 |
(笑)。 |
糸 井 |
くそだらけですね。 |
北 折 |
はい。 |
観 客 |
(笑)。 |
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北 折 |
それを、「ためしてガッテン」で
わざとやったことがあったんですね。 |
糸 井 |
はい。 |
北 折 |
どのくらいのお客さんがついてきてくれるのか
みたかったんです。
そのときに、いまでも忘れられないんですけど
熱海の老人ホームに入ってる
おばあさんが電話をしてきて、
今日の番組をつくった人の名前を教えてほしい、
って言うんですよ。
ぼくは、そこでうっかり名前を言うと
何かにまきこまれて
たいへんなことになるんじゃないかと
すごくびびったんですけど。 |
糸 井 |
(笑)。 |
北 折 |
話を聞いたら、
自分はいままでの人生の出会った人の中で
感謝をしてる人の名前を
毎朝マリア様に唱えているっていう話をして。
今日の番組は、とにかくいままでで、
あんなことを知ったのははじめてで、
びっくりしたので、
この番組をつくった人の名前を
毎朝唱えたいというふうに
おっしゃってくださったんですよ。 |
糸 井 |
ほう。 |
観 客 |
へぇー。 |
北 折 |
泣きますよ、ほんとに。
何度でも思い出し泣きできます。
それからなんですけど、
やっぱりそうやって番組を見てくれてる人たちが
「ためしてガッテン」にはすごく多いと思うと、
もう、お客さんのことが
かわいくてしょうがなくなってしまって。 |
糸 井 |
はいはい。 |
北 折 |
たくさんの人、
見てる人たちに、
一番大事なことはなんだろうか、
っていうふうに物事を考えるように
変わってきたんですね。 |
糸 井 |
ああー。 |
北 折 |
それまでは、
自分の担当の回だけはおもしろい番組にしよう、
っていう意識しかなかったんです。
とにかくテレビですから、おもしろくしなきゃ、
っていう意識だけで。
それが、お客さんのことが、
あるときから、
かわいくてしょうがなくなってしまって、
お客さんに対して何ができるかってことで
考えるように変わってきた。 |
糸 井 |
友だちになったわけですね、
お客さんが。 |
北 折 |
そうですね。
友だちのような、親のような、
近所のおばさんのような
感じに変わってきたんですね。 |
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糸 井 |
それは、北折さんが
何歳ぐらいのことですか? |
北 折 |
ガッテンが始まって3年目ですので、
32、3ぐらい。 |
糸 井 |
32、3でそれが感じられるっていうのは、
なかなかないことでしょうね。
早くてよかった。
すごいですね。 |
北 折 |
そうですね。
そのおばあさんの電話で変わりました。 |
糸 井 |
その日のことを、
いつでも全部思い出せますよね、きっと。 |
北 折 |
思い出しますね。
泣きました、ほんとにね。 |
(つづきます!) |
2010-05-25-TUE |