その3 やめてもまったく大丈夫。

糸 井 ぼくも、もともとは
「おもしろきゃいい」っていう人でした。
で、なんだろうな、
おもしろきゃいいとは言うものの
ちがう心もきっとあるんでしょう。
でも自分の整理って、自分ではできないから
おもしろきゃいいって言っていたんです。
それで、ある年齢になったときに、
みうらじゅんと飯食ってて、みうらじゅんに、
「おまえ幸せってなんだと思う」
って言ったんですよ。
帰り際に。
そういう質問って、
訊き方もなかなか難しいはずなんだけど、
ポンと聞いたら、
みうらが、ほんとに呆れたような顔して
「糸井さん、そういうこと、
 考えなくていいって言ったじゃないですか!」。
北 折 はははは!
観 客 (笑)。
 
糸 井 「それをぼくは希望にしてね、
 ついてきたんですよ?!」って。
北 折 はははは。
糸 井 だけど、その頃には、
ぼくはもう考えてたんですね。
幸せって、なんだろうって。
もともとその気配はあって
「♪ポン酢しょうゆのある家さ」
っていうあのコマーシャルのことを
絶賛した覚えがあるんですよ。
「♪幸せって何だっけ何だっけ、
 ポン酢しょうゆのある家さ」
って、あれを言えた人はすごい!
って思って。
そのちょっと前ぐらいから、
自分は人との関係で生きてるんだって
考えはじめたんです。
ぼくが、勝手に、
「オレはどうなってもいい!」
っていうのは、それで迷惑を被る人が
たくさんいるってことがだんだんわかってきて。
ことさらに力以上に
人助けしたいとも思ってませんけど、
でも、どこかのところで、
オレが捨鉢になってることの影響は
すごく大きいな、と。
北 折 なるほどー。
糸 井 その期間、いままでちょっと
長すぎたなと思って。
で、特に、その頃に、
きっと、チームでプレーするってことを
はじめたんだと思うんですね。
北 折 なるほどー。
糸 井 職人ですから。
落語の中に出てくる大工さんは、
借金のかたに道具取られても、
平気な顔してますよ。
だけど、そこで、
おまえさんが仕事がなくなったら
あたしたちは、どうやって、
おまんま食っていくんだい?
っていうセリフがあるように、
チームでプレーしていったときには、
オレの体はオレじゃないってところが出てきて。
それは、早い人はね、
子どもが生まれたときに感じたり。
北 折 ああー。それはありますねえ。
糸 井 結婚したときに感じたり、
親が亡くなったときに
感じたりするんでしょうけど。
ぼくはそれが、全部できなくて。
北 折 全部(笑)。
糸 井 運がよかったんでしょうね。
考えなくても済んでいた。
健康だし、それなりに稼げるし、
友だちも遊んでくれるし、
それが、45ぐらいになって、
チームワークをするようになってから、
それを考えるってことが、急にやってきて、
たぶん、そのもうちょっとあとに、
禁煙もしたんです。
あ、オレは社長になったんだ、
て思ったんですよ。
人間ドックも行くようになって。
北 折 うーん、大事なことですよねえ。
糸 井 それもおんなじなんですよね。
ちょっと、しゃべりかたを変えると、
美談になっちゃうんで
気をつけないといけないんですけど。
北 折 そうですね。
自分もいま、ちょっと、
きれいごと言ってるような気がしました。
観 客 (笑)。
 
糸 井 気を付けましょう。
つまり美談のつもりはないんだけど、
はじめてオレは社長になったんだなぁ、
っていう気持ちになって。
みんなにこれ、押し付けようとしても、
自分もちがってたわけだから、
押し付けられないんですよ。
だから、いまでも、
事務所には喫煙ルームもありますが、
「煙草、やめるといいぞ」
ってことも、どっかで伝えられたらいいな。
この「死なないぞダイエット」もまったくおなじ。
がまんしていい夫になれ、って話をしてないし、
がまんさせることはしたくなかった、と思うんですよ。
それで、これを始めてみたら、
がまんじゃなくて、
ちょっと“取り返した”気がしたんです。
どう言ったらいいですかね。
うーん。
ものすごく大袈裟に言えば、
天地一体となってる感じを、
一日のうち、ある時間分だけでも、
取り返した気がしたんです。
こんなこと言っちゃうと、
オレはこれをやめたとき、
なんて言って申し開きするんだろう。
北 折 (笑)。
観 客 (笑)。
北 折 いま、いくつか、お話があったんですけど。
糸 井 はい。
北 折 まずやめたときのことからいくと、
やめてもまったく大丈夫で、
いつでもまたスタートができる体になってる、
ということですよ。
糸 井 体が!
北 折 はい。もうやり方は体に
染み込んだものがありますので、
やめて、いつか、体重が上がちゃったとしても、
ここまで上がったらまずい、と思ったら
その日からすぐスタートできて、
ほら、下がったでしょ、
っていうのが言える人に
もうなってると思いますので、大丈夫。
糸 井 ひと月ぐらいでもう、なってますかね。
北 折 はい。
それはもう、大丈夫だと思います。
糸 井 ああー(ほっ)。
北 折 たぶん、これから先の人生は
ゆっくり上がってはちょい下げ、
ゆっくり上がってはちょい下げでいけばよくて、
長い間上がりつづけることさえなければ、
大丈夫ですので。
糸 井 そうですか!
 
北 折 はい。
その気楽さも、やってみた人が
また人に伝えるようなことになっていけば、
みんがハッピーでいられると思います。
糸 井 北折さんの、本の帯のお腹の写真は、
やっぱりインパクトありますね。
北 折 (笑)。
観 客 (笑)。
糸 井 これだったわけですよね。
北 折 これでしたねえ。
これ、なんかのときに使えるかなと思って、
撮っといたやつです。
 
糸 井 いや、見事ですよね。
ほら(と、みんなに見せる)。
観客 うわーっ!(ざわざわざわ)
北 折 ええ(笑)。
糸 井 実物がこんな
小柄な人だって思ってなかったですもん。
北折さんはこのダイエット方法を
「発明した」わけではないんですか。
北 折 もともと1日に4回計るっていう、
大分大学の先生が考えた方法があったんですけど、
どう考えても普通の人が
普通にやれる話ではないと思ったんですね。
ほんとに医者から、ちゃんと脅されて
ちゃんと指導された中の一部の人ができる
方法だと思った。
で、アレンジしてみたんですね。
自分みたいなズボラな人間でもできるように。
でも、「死なないぞダイエット」ができたのは、
自分をなんとかしなきゃっていうふうに
思ったということもあったんですけど、
それ以前に、自分の中で一回、
太ったときと、やせたときとで
自分の体で何が変わるのかっていうのを、
知りたかったっていうのがありますね。
糸 井 そこがスケベな人ならでは。
観客 (笑)。
北 折 太ってる人の平均値と
やせてる人の平均値で
血液のデータとか、いっぱい、
当時もあったんですけど、
おんなじ人がやせただけでどう変わったか、
ってデータがほとんどなかった時代だったんです。
だからって、学生のバイトに
悪いけど一回太ってくれる?
‥‥とかっていうようなことは、
なかなかできないので。
糸 井 うんうん。
できない。
北 折 はい。
仕方がなく、自分で一回太ってみて、
それで血液の値とか、いろいろ調べて、
そこからやせるって実験をやったんです。
糸 井 うん。
北 折 そしたら、もう、ほんとに
あまりにも簡単に下がるので。
びっくりしてしまって、
おもしろくなっちゃって、
また、もう一回太っても
できるんだろうかって(笑)。
糸 井 うんうん。
北 折 スケベの塊のようになってますけど。
糸 井 うん。
北 折 しかもコレステロールの値とかが
ほんとに、思い描いた通りの
値が出たもんですから。
糸 井 ほう。
北 折 これは、ちょっとみなさんに
お知らせしなきゃって感じで。
 
糸 井 つまりは、太ってるときは悪かった。
北 折 悪かったですね。はい。
最初、その実験をするときに、
ひとつだけ、気をつけたんです。
最初やせておいて、血液調べてから、
太ったときに、調べ直すとしたら、
二度と戻らない可能性が、
自分の性格としてあったので、
そしたら、一生デブのままに
なってしまう可能性がある。
だから最初に太ってから、やせる、
そしてデータを取る、っていうふうに。
糸 井 (笑)。
北 折 そこだけは、自分でしっかり考えました。
観 客 (笑)。
糸 井 すごい!
(つづきます!)
2010-05-26-WED
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