その4 究極の目標としていることば「ついつい」。

糸 井 北折さんが自分を実験台にして
「死なないぞダイエット」をしていたときに、
「くじけそうになる心」は、
どうやって克服したんですか。
北 折 やっぱり「おもしろかったから、つい」ですね。
こんなに簡単に減っていくんだってことが
毎日の発見でしたから、
すごく楽しかったんです。
糸 井 ぜんぜん、いやじゃなかったんですね。
北 折 いやじゃなかったですね。
あと、やっぱり、
やせたときのデータを見たいっていうことが、
そのときは、遠い目標じゃなくて、
近いところに目標があったので、
向かっていけたのかもしれないですね。
糸 井 うんうん。
北 折 やせて健康になるっていう、
漠然とした遠い目標だと、
人間はなかなか、
そこに向かっていかないと思います。
でも3、4週間後に
データを取りたいっていうような
すぐ近場の目標がありましたし、
明日の朝の数字っていうのは、
もっと近場の目標ですから。
糸 井 いま、ぼくは、
それがものすごい励みになっているんです。
いろんな心の中の発見があるんですけど
だいたい、本に書いてあるんですよ。
つまり、朝起きて、計るのがたのしみなる、
ってことを、じっさいに感じる前に、
読んだことがあるんですね。
さっき言ったような、
北折さんが先回りして、
本の中で仕組んでてくれるっていうのと、
おんなじようなことを、
本の中と、いま自分が現実にやってることの中で、
実証してるんですよ。
北 折 ああー。
 
糸 井 だから、この人はつまり、
机の上で考えてる人じゃなくって
一緒に旅に出たことがある人だと思って。
何回も出てる旅の中で
言い方を発見してきたわけですよね。
ポテチの実験なんかも、
最初のお話のときには、
ポテチ食べたはずがないわけで。
北 折 そうです(笑)。
糸 井 あとで、何回かやってるうちに、
食べたいときは食べてやれ、あるいは、
3日で帳尻あわせてやれ、だとか、
そういう溺れきってしまわないための
ボートを絶えず大小持っていて、
それは自分を臨床の実験台にした人でなければ
書けない文章だなと思っていたんです。
北 折 それを聞きながらすごい
ぞぞっとしたんですけど(笑)。
糸 井 はい。
北 折 書くとこ見てたんですかっていうぐらい。
観 客 (笑)。
北 折 でも、ホントそういう気持ちで書きましたので。
糸 井 そうですよね。
北 折 はい。
ぞぞっとします(笑)。
糸 井 ぼくはね、そういうの上手なんですよ。
観 客 (笑)。
 
糸 井 たぶんそういう商売なんですよね。
この人を考えるときには、
この人自身がおもしろいってことと、
この人が書いてることがおもしろいってことと、
それから、この人がどこで得た方法論が
おもしろいかってこと、
3つあるぞ、と思って。
で、どのコンテンツで
北折さんをお呼びするか
決めてなかったんです、最初。
だから、3つ目(方法論)って、
テレビつくるってどういうこと?
っていうことなんですよ。
この本はテレビの番組をつくるってことの
ノウハウのエッセンスが、全部入ってる。
北 折 それは立川志の輔という人と出会って
ぼくが鍛えられたことかな、
っていうのを思いますね。
糸 井 ああー。
北 折 あの人は自分が落語家ですから、
NHKのアナウンサーが
司会をやってるんじゃないっていうスタンスを
ものすごく厳密に考える人なんですね。
健康のためにダイエットを
やった方がいいですよということを、
あの人は絶対言いたくないんですよ。
糸 井 なるほど。
北 折 だけども、見た人には、はまってもらいたい。
そのためには、どうしたらいいか
って考える人なんです。
その人とずーっと15年、毎週やってた中で
鍛えられたことだと思います。
志の輔という、
なんに対しても手を抜かない人が
毎週ものすごい、
傍からみるとけんかしてるんじゃないか、
と思うぐらいの議論を
いまでも、毎週やってくれるんです。
リハーサルと収録との間に。
そういう人にいかに司会をさせて、
これを浸透させていくか、というようなことで、
こちらも、すごくずるくなる方法も
たくさんあみださせてもらった。
ですから、方法論を得る過程そのものも
おもしろかったですね。
糸 井 うーん!
北 折 全部その中で、得たことなんですね。
ダイエットにしても、
いままで自分もやせようと思ってなかったし、
お腹がどんどん出てきた中年男性っていうのは、
別にやせようとは普通は思わない。
そんな人が、どうやったら、はまるか。
で、考えるんですね。
糸 井 うんうん。
北 折 ぼくたちが「ためしてガッテン」を
つくるとき、
究極の目標としていることばがあるんです。
それは、「ついつい」っていう
ひらがな四文字なんです。
糸 井 ああー!
北 折 「ついつい」が起こるために、
どうしたらいいか。
そう、ものを考えてるんですね。
ハンバーグをつくる回だったら、
さっき夕食食べたばっかりなのに、
番組見終わったら、
ついつい、ハンバーグがつくりたくて
仕方がない体になっててもらうために、
どうしたらいいか。
糸 井 うんうん。
北 折 病気の話でも、そうなんですね。
生活習慣病っていうのは、基本、
「ついつい」が積もり重なって
できた病気じゃないですか。
つい、悪い習慣がやめられない
っていうことに対して、方法論としては、
怖い映像をたくさん見せて、
このままではたいへんなことになりますよ、
とだけ言って脅して、
生活を変えてもらう
って方法もあるんですけど、
たぶん、それではうまくいかない。
糸 井 いかないですね。
北 折 3日ぐらいはまずいなって
思うかもしれないですけど、
それで、止まりますから。
それだとお客さんにとってよかったなーとならない。
で、「つい」何かをはじめるためには、
どうしたらいいかの方法論で考えたのが、
この「死なないぞダイエット」ですし、
そのための演出方法だったと思います。
だから、基本全部「ついつい」です。
 
糸 井 それがわかったのは、
志の輔さんに会ってからなんですか。
北 折 会って、しばらくして、ですね。
2年目、3年目ぐらいからです。
糸 井 時間かかってますねぇ。
やっぱり。
北 折 はい。
糸 井 「ついつい」の4文字を発見するのに、
2年かかるってことですよね。
「ついつい」ってつまり、
自分の無意識に近い意識の話ですよね。
北 折 はい。そうですね。
人間の生活の中で、
やっぱり、一番強いのが「ついつい」なんですね。
「ついつい」やってることは、
悪いとわかってても、やめられないわけですから、
それは、強いってことなんですね。
その、強い「ついつい」で悪くなったものに、
こちらから、なにか用意できるもので、
対抗できうるものとしたら、
やっぱり「ついつい」しか方法がないっていうか。
糸 井 ついつい対ついつい。
対の字を「つい」って読めば
ついついついついつい。
観 客 (笑)。
北 折 (笑)番組づくりも、そうなんですよ。
「ためしてガッテン」は
毎週、水曜日に
うちあげを必ずやってるんですね。
糸 井 1本ごとですか。
北 折 1本ごとにやってます。
あ、もちろん割り勘で。
それで、その場で、やっぱり、
「ためしてガッテン」っていう番組は
ほんとにいい番組で、
ここにいつまでも居続けたいっていうふうに
「ついつい」思うように、ディレクターをはめる日が、
その水曜日のうちあげ。
観 客 (笑)。
北 折 ほんとですよ。
糸 井 いや、よくわかる。
北 折 もう、この番組のことが大好きで
この番組をお客さんが見てくれるってことが、
とてつもなく気持ちのいいことだから、
っていうことで、はまっていって、
若い人たちが、いい番組をつくるようになっていく、
っていうようなことを、毎回やってるんです。
 
(つづきます!)
2010-05-27-THU
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