【手島編】
幻の唐辛子が
残る島。
翌朝。
この日は、塩飽諸島の「手島(てしま)」に向かいます。
昨日、車で広島のあちこちを
案内してくださった木下さんは、
本業が漁師さんなんです。
手島へはフェリーで行くのが普通ですが、
「このほうが速いから」と、
とくべつに漁船に乗せてもらうことになりました。
港に着くと、
ひとりの男性が自転車で迎えに来てくれました。
尾崎さんが紹介してくださいます。
「幻の唐辛子といわれる
『香川本鷹』を生産されている高田さんです」
まずは、高田さんが作っている
香川本鷹を見せていただくことに。
高田さんが説明してくださいました。
「ふつうの鷹の爪というのは、
1つの茎に、バナナのように
5~6つ重なって実がつきます。
でもこれは、1つの茎に1つだけしか実がつきません。
大きさも7~8センチにもなるんです」
尾崎さんも続けます。
「朝鮮出兵のとき、塩飽諸島の水夫さんたちが
秀吉の命を受けて朝鮮へ行き、
そのときに秀吉が褒美として
この唐辛子を彼らに渡したと伝えられています。
もう作る人がいなくなって、
塩飽諸島では高田さんが最後の一人なんです。
私は、この唐辛子を作ることができる
若者を島に呼びたいんです。
農業といっても、やみくもに
島で菜っ葉やキュウリを作る人を
呼んだってしかたがないけど、
この唐辛子は、この島の自然風土と
ぴったり合っているうえに、
品質がいいものだから、
韓国に持っていけばかなり高額で売れるんです」
ここでしか作れない唐辛子。
作るのは大変なんでしょうか。
「けっこう手間暇がかかりますね。
あと、刺激物だから、
世話をしていると、
鼻や目がものすごく痛いんです。
それが辛いっていう人が多くてね」と高田さん。
島には民家が多いです。
そのどれもが、広島と同じく、
空家になってしまっているとのこと。
尾崎さんが言います。
「高田さんは、すごい方なんですよ。
島に廃校になった小・中学校があって、
いまキャンプ施設になっているんですけど、
そこも高田さんが管理されているんです」
このあたり一帯は、
夏には一面がひまわり畑になるそう。
ひまわり畑は、
高田さんとそのご家族が、
「島に来てくださる方に喜んでほしい」と、
個人的に作られているそうです。
次に、すでに廃校となり、
いまでは「自然学習センター」として
使用されている学校へ向かいます。
尾崎さんが説明をしてくださいました。
「廃校になった小中学校の教室に
畳を敷きつめてあって、
一泊千円で泊まれるようになっています。
もともと学校には立派な給食の調理場がついてますから、
本土から持ってきた食材や、
島でとれた野菜や魚を料理できます。
調理場とは別に、外にも
バーベキューができるところもあります。
立派なお風呂も作ってます。
学校だから、グラウンドもあるし、
サッカーだって野球だってできるし、
しかもね、千円で泊まれるんです。
1ヶ月いても、3万円ですよ!」
学校の、かつては校長室だった部屋で、
尾崎さんは資料を取り出しました。
この島でやりたいこと、
香川本鷹の後継者を見つけたいことなど、
説明をはじめました。
「まずはこの学校を全国の大学の同好会、
例えば吹奏楽やスポーツ系サークルの
合宿所として使ってもらいましょう。
更には外国のバックパッカ―達にも
使ってほしいんです。
彼らには、空いた時間に、
おじいちゃんやおばあちゃんの
農作業を手伝ってもらって、
かわりにその収穫物をあげて‥‥。
塩飽諸島のあらゆる可能性を、
日本の若者だけでなく、
外国の人にも情報発信していく。
そんなふうに、みんなで知恵を出し合って、
この島を盛り上げていきましょう」
ひととおり、話が盛り上がったところで
尾崎さんが言いました。
「私、これから、丸亀市長とお会いしてきます。
そして、今回のプロジェクトについてお話してきます」
「ええ、市長と!?」
驚くお二人。
実は、この取材が決まった際に、
尾崎さんから
丸亀市長とお会いしたいという話を
いただいていたのです。
尾崎さんの自宅に着き、しばらくすると、
市長がいらっしゃいました。
緊張気味の尾崎さん、
まずは製作したばかりの
島民参加の島のドキュメンタリーフィルムを
お見せすることにしました。
ここで、気になっていたことを聞いてみました。
「梶市長は、尾崎さんのことを
いつからご存知だったんですか?」
「10年くらい前からかな。
ただね、尾崎さんは、
我々のイメージとは違う次元にいらっしゃるから(笑)、
別世界の人という感じがあって、
市長になって、ようやくお話を
していただけるかなという感じですよ。」
「尾崎さんは国際人だし、活動も幅広いから、
いったい何をしているんだろう、
と不思議だったんですよ。
いまもビジネスでやってるわけでないし、
なぜここまでのことが
個人でできるんだろうと思っています。
今回、『島』という拠点がはっきりしたことで、
ぼくらも協力しやすくなりましたから、
一緒に何かしていけたらと思っています。
まずは地元の人に、自分たちがどうしたいのか
考えてもらうことが大事ですよね。
課題は多いですけど、いつでも相談してくださいね」
そして市長が私たちに聞きました。
「ところで、みなさんは小手島は行きましたか?」
小手島(おてしま)は、手島の隣にある島です。
行ったことがない、と伝えると、
市長がおっしゃいました。
「ぜひ、いつか行くといいですよ。
あの島には生徒がひとりしかいない学校があって、
ぼくも入学式に行って挨拶しました。
運動会では本土からその子のために
他の小学校の先生たちが駆けつけて応援するんです」
生徒がたったひとりの運動会‥‥?
尾崎さんも、その島の運動会に
強く興味を持ったようです。
(つづきます。
次回、その「運動会」に参加してきましたよ)
2017-01-26-THU