とんでもない、原丈人さん。 次の時代のヒントは、この人のなかに?  第3部 「XVD」と「吉本隆明」を組み合わせ、 「スピルリナ計画」の難題を解決し、 「世界一の鉄道博物館」を建てるという話

第2回 めずらしい発言
バングラデシュの遠隔教育・医療の事業を
グラミン銀行のグループ会社と組んで、やります。
最先端の「XVD」技術を使って。
そう、2011年くらいまでには、
プロトタイプのシステムを完成させるつもり。
あと3年‥‥ですか。

われわれブラック・ネットのほうで、
バングラデシュ全土にある
52000の小学校と
3000カ所の病院に向けて、
教育・医療の改善事業を担当するんです。
ただし、
どの学校、診療所を結ぶのがよいのかは、
BRACが決めます。

で、グラミングループのほうには
マイクロクレジットの銀行支店に向けて
「XVD」の技術を投入し、
なんらかのサービスを提供してもらう。

なるほど、得意な分野で担当をわけてるんだ。

‥‥そうか、教育や医療の分野以外にも
「XVD」のテクノロジーを活用できる道って、
いろいろ考えられそうですもんね。

うん、実際にサービスを受ける人たちに
ヒアリングしてみても、
われわれが築き上げた通信ネットワークを活用して
いろんなアイディアが出てくるんですよ。

これがまた、すっごく、おもしろくてね。

それは現地の人たち?

そう、わたしには想像もつかなかったんだけど‥‥。

たとえば、バングラデシュって国では
出生証明書いちまい取るのにも
首都のダッカまで来なければならないんです。

へぇ。

行政サービスが地方まで整備されてないから、
貧しい農村の人たちも
高い交通費を払ってわざわざダッカまで来る。

その間、農作業を休まなきゃいけないから、
収入も減っちゃいますよね。

はい、はい。
しかも、ようやくたどり着いたと思ったら、
何十人とか並んでることもあったりして。
行列に?
そう、役所の効率が悪いんです。
そりゃあ‥‥タイヘンだ。
そこでインターネット通信の技術をうまく使って、
ダッカから遠い農村部でも
出生証明書を取れるようにしてくれないか、と。
技術のちからで、そんなことが可能になったら、
ほんとにみんな助かるんだろうなぁ。
農村の人たちにしても、ダッカまでの汽車賃と、
農作業を休んだために得られない収入と、
長い行列にえんえん並ばなきゃならない時間のロス、
それらすべてを足した合計コストの
何分の一かの値段だったら、
じゅうぶんに、支払う動機はあるはずなんです。
そうでしょうね。
‥‥とまぁね、こんなふうに、
わたしが想像できていない使いみちが
まだまだあるんだなってわかると、
ほんと、うれしくなっちゃうんですよ(笑)。
この「XVD」というテクノロジーも、
原さんの構想している
「ポストコンピュータ」のひとつ、ですね?

そう、このあいだお話した
「PUC」という考えかたの範疇です。

この構想が実現できたら、
現行のコンピュータは必要なくなるはず。

たとえば、この「XVD」技術を使ったら、
ニューヨークと東京、
コンピュータをいっさい使わずに、
「お互いの会議室の壁に掛けた画面」を通して
会話ができるようになる。

うん、それも、限りなく肉声で聞き、
肉眼で見ているかのように。

高精細のハイビジョン映像を
タイムラグなしに送ることができる技術ですから。

まるで、トンネルを掘ってのぞいてる、
みたいな発想ですよね。
たとえ、アメリカと日本にいても、
いま、ここで話してるわたしと糸井さんくらい、
熱のこもった議論ができるでしょう。
ようするに「すごいテレビ電話」だと。

このシステムが、軌道に乗ったら‥‥。

以前、わたしのベンチャーキャピタルが
創業者を助けてつくったポリコムなどの
テレビ電話会議の会社の大手も‥‥
潰れるか、
新しい技術を持った新しい会社が
買収することになるでしょうね(笑)。

ちょうど、ポリコムが
その前の世代のリーダーであった
ピクチャーテルを買収したようにね。

ピクチャーテルも
わたしのベンチャーキャピタルが
創業から公開まで世話した会社ですが、
大きくなると
やはり研究開発にかげりが出てきたのです。

大会社の運命みたいなものでしょうか。

ははぁ。
価格も、はじめは高いかもしれませんけど、
業務用のものについては、
どんどん普及させて、
毎年2割から5割くらい、下げていきたい。
じゃ、いずれは、みんなが使えるようなる。

そうです。それが、わたしのやりたいこと。

だから、もう一方で取り組んでいる
アフリカのプロジェクトも、
最終的には、バングラデシュのように
教育・医療のほうに持っていきたいんです。

でも、アフリカの場合、そのまえに
「飢餓の問題」を解決しなければならない‥‥と。
そう、そうなんです。
まずは、そこが満たされないとね。
そこで、スピルリナのプロジェクト。

うん、タンパク質含有量の高いスピルリナを使って、
アフリカの栄養状態を改善するんです。

ただしね‥‥問題がひとつ、ありまして。

なんでしょう?
事業としてはじめから自立させ、
その収益を使って公益を行うという
事業モデルを考えることができず、
どうしたらいいのか、
目下考えているのです。
そうなんですか。
相当考えないと、すぐには思い浮かばない。
はぁ。
バングラデシュの
デフタ・ブラック・ネットモデルのように、
事業会社をつくり、
きちんと利益を上げたうえで
質の良い公益サービスを提供するという‥‥
つまり、すべて「民間」でやれる事業モデルが、
アフリカの飢餓問題の場合、
まだ、思い浮かばないんですよ。
‥‥めずらしい発言。
<続きます!>
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2008-10-21-TUE