これからのぼくに、できること。 これからのぼくに、できること。
2017年の12月、
写真家の幡野広志さんはブログ上で
ご自身が余命3年とされる末期ガンであることを
公表されました。
ツイッター経由で幡野さんの存在と
その写真やことばを知った糸井重里は、
「なにかお手伝いできることはないか」
と考え、ご迷惑にならないよう気を配りつつ、
幡野さんに声をかけました。
そして現在、おふたりを中心にして
たいせつなプロジェクトが進行しています。


幡野さんという写真家について、
ガンという病気について、
生きるということについて、
それから現在進行中のプロジェクトについて。
おふたりにあらためて語っていただきました。


また、わけあってこの対談はぼく、
ライターの古賀史健が進行役をつとめ、
原稿をまとめています。
そのあたりの理由も含めて、
全6回の対談をおたのしみください。
第1回 「考えたい」の人。
写真
糸井
ちょっと、お元気そう?
幡野
じつは最近、体重が増えてしまって・・・・(笑)。
糸井
でしょう!
なんだかおっきくなったもの。
幡野
ええ。
この1か月で4キロくらい。
抗ガン剤の影響らしいんですけど、
どうもまわりからは元気に見えちゃうというか、
ガン患者が太ってどうするんだよって(笑)。
糸井
ああ、そういうこともあるのかあ。
幡野
でも、体調はとくに変わりないです。
骨が弱っちゃってるんで、
重いものを持ったり、
はげしい運動はできないんですけど、
食欲もありますし、
見た目にはふつうの人間だと思います。
糸井
そうですよねえ、
言われないとわからないものねえ。
──
それでは幡野さんのご紹介も兼ねて、
糸井さんと幡野さんの出合いのところから
お話しいただけますか。
糸井
順番に言いますと、あのブログは2月でしたよね?
休日のお昼にふと思い立って、
ちょっと遠くのラーメン屋さんまで出かけたんです。
遠くといっても、地下鉄で15分くらいのお店ですけど。
着いたらもう、行列ができていました。
そこは1杯ずつていねいにつくるお店ですから、
けっこうな時間待つことになると覚悟しました。
幡野
はい。
糸井
なんでこんな話をするかというと、
そのラーメン屋さんという状況がもう、
ぼくのなかでは「ひとり」なんです。
これは大事なところで(笑)。
お好み焼きやとんかつを食べに行くのとは違って、
ラーメン屋さんに行くぼくは
いつもよりちょっと「ひとり」なんですよ。
幡野
ええ、なんとなくわかります(笑)。
糸井
それで列に並んだままツイッターを眺めていたら、
「燃え殻」さんの投稿を見つけました。
たしか佐々木俊尚さんが紹介されていたブログを読んで、
強くこころを打たれた様子で。
それで燃え殻さんのことばに引きずられるようにして
見に行った先に、幡野さんのブログがありました。
あの、「最後の狩猟」という回が。
幡野
はい。
写真
撮影/幡野広志
狩猟シーズンが始まった直後にガンが発覚して2ヶ月、
いまだにガンという漢字が書けない。
ショックで受け入れられていないとか
心境の問題はなく、学力の問題だ。
入院や引越しを余儀なくされ慌ただしくなり、
狩猟どころではなくなった。
僕のガンの自覚症状は激痛と体が急激に老いることだ。
激痛で横になることもできなくなり夜も眠れない。
ソファーに腰掛けて毛布にくるまり
30分ぐらいの睡眠と痛みで目が覚める
というセットを夜中に繰り返す。
睡眠不足で思考力が低下することや
痛みから解放をされたいという願いから自殺を考えた。
なんてことはない、山に行って散弾銃で心臓を撃つだけだ。
上手く誤射を装えば猟友会が加入する
ハンター保険で死亡保険金が3000万円おりる。
苦しさから解放されて家族にお金も残せる、悪くない。
他の狩猟者に迷惑がかかるとか
家族が悲しむとかどうでもよくて、
まともな心理状態ではいられなかった、それがガンだ。
ガン患者は健康な人に比べて自殺率が20倍も高い。
数値で見ても驚くが、
自殺したい人の気持ちを死ぬほど理解できた。
──幡野広志 ブログ『最後の狩猟。』より
──
読んで、どうでしたか。
糸井
これはたいへんなものを読んじゃったなあ、ですよね。
それで、さかのぼって過去のブログも読みました。
嫌いな人の話、余命の話、息子さんへのお手紙の話。
どこまでさかのぼっても、
ぼくらが持つ正直さの、
もうひとつ深い底を掘っていると思いました。
そして「真剣」ということばの、
もともとの意味を考えさせられました。
挿絵のように入っている写真には、
文章とはまた別の「真剣」がありました。
幡野
ありがとうございます。
糸井
複雑なんですよ。
これはなんにも言えないなぁ、
という気持ちがひとつあるのと、
ラーメン屋さんという「ひとり」の時間に
出合えてよかったなぁ、という気持ちがあるのと。
そして、友だちに伝えたい気持ちもあって、
なにかツイートしようとしたんだけれど、
そのまま消しちゃったんです。
じぶんの「つぶやき」と幡野さんの文章とが、
あまりに釣り合いがとれていないように感じて。
幡野
コメントしづらいですよね。
糸井
けっきょく次の日、
いまお話ししたような流れを「今日のダーリン」に、
つとめてただの日記のように書きました。
軽はずみな激励や親切は、見透かされると思ったから。
──
その場でさかのぼって、
過去のぶんを読まれたんですね。
糸井
うん。
読めるものはどんどんさかのぼりましたね。
それは、はじめに読んだ狩猟の話が
あまりにすばらしかったから。
だから、まじめな顔で読みながら
「この文章は、
 ガンという病気になったから書けたものなのか」
という、斜めな興味もあったんだと思います。
幡野
ええ、ええ。
糸井
ところが、
さかのぼればさかのぼるほど、一貫している。
たとえばあの、
お子さんへのお手紙の回にしても。
写真
撮影/幡野広志
お父さんはいま34歳です、
優くんはいま1歳6ヶ月です。
これを読む優くんは何歳になっているかな?
先月お父さんの体に
ガンという大きな病気が見つかってしまいました。
ガンという病気にはいろいろな種類があるのだけど、
お父さんのガンは残念ながら
現在の医学では治すことができないものです。
少しでも元気になって優くんとお母さんと
また一緒に遊べるように一生懸命頑張っています。
優くんに教えてあげたいことが
お父さんにはいっぱいあります。
でも、もしかしたら優くんが大きくなる頃には
お話しができないかもしれないです。
だからここに優くんに伝えたいことを
手紙として残します。
──幡野広志 ブログ『息子への手紙。プレゼント。』より
幡野
そうですね、変わらないと思います。
糸井
きっと、病気になる前から、
幡野さんは幡野さんでしたよね。
幡野
はい。
ぼく自身が病気で変わることは、ないです。
糸井
それが、またまたすごかった。
だから、もしもこの先、
ぼくの声が届くような距離になったら、
それでなにかじぶんに
お手伝いできることがあるのだとしたら、
おれは手伝おうって決めたんです。
スタートは、そこですよ。
幡野
ほんとうにありがとうございます。
──
あのブログを読んだとき、
ぼくも姿勢を正される思いでした。
幡野さんの落ち着きと、目線と、ことばの精度と。
こんな人がいたんだって。
糸井
もともと幡野さんは、
深いところまでどんどんどんどん、
目玉を潜らせていきたい人
だったんじゃないかと思うんです。
それは狩猟もそうだし、写真なんてまさにそうだし。
写真って、相手のことを撮っているようでいながら、
じぶんが撮られることでもあるじゃないですか。
写真
幡野
そうですね。
じぶんが写ります。
糸井
むかしから、深く潜る人だった自覚はありますか。
幡野
うーん、ありますねえ。
きっと、ぼくが深みにはまり込んでいくのは、
そのことを「考えたい」からなんです。
糸井
考えたい。
幡野
はい。
むかしから、そうですね。
写真についても、狩猟についても、
根っこにあるのは「考えたい」なんです。
少しでもその世界を知ると、
考えることは山ほど出てくるので。
それはもちろん、ガンという病気についても。
糸井
病気についても、
余命ということについても、
まったく同じことをしていますよね。
どうしようもなく「考えたい」の人が・・・・。
幡野
たまたまガンになっちゃった(笑)。
(つづきます)
2018-09-01-SAT
幡野広志さんのはじめての本
ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。
写真
著:幡野広志

出版社:PHP研究所

価格:1512円(税込)

ISBN: 4569841252
ガン(多発性骨髄腫)で
余命宣告を受けた35歳の父が、
2歳の息子さんに伝えたい大切なこと。
写真家であり、元猟師でもある
幡野広志さんのはじめての本。
幡野広志 作品展
「優しい写真」
開催日時:11月2日(金)~15日(木)

場所:ソニーイメージングギャラリー

開館時間:11時~19時

(※最終日やイベント開催時に
閉館時間が早まる場合あり)


定休日:なし

(※銀座プレイス休館日を除く)

入場:無料