33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q014

なやみ

会社員の「複業」が話題です。
組織の一員で自由なことをするには、
どうしたらいいですか。

(27歳・食品メーカー)

会社員の「複業」が奨励されていると聞きました。たしかに、これからの時代、リスクヘッジという意味でも、ひとつの仕事にとらわれないはたらきかたがいいのだろうと思います。でも、今いる会社が、けっこう古い体質なので、上司やえらい人に目をつけられないか心配です。会社員の立場で、いろんなことに挑戦するには、どういったコツがあると思いますか。

こたえ

同調圧力を感じない身体を手に入れる。
それが無理なら、
「本当にやりたいこと」をやる。
あいつ本気なんだなと思われることが、
重要だと思います。

こたえた人吉田尚記さん(ニッポン放送・アナウンサー)

──
吉田さんは、
主に「アナウンサー」だと思うんですが。
吉田
そうですよ。
──
他に、
さまざまなことに関わってらっしゃいますよね。
吉田
複業の嵐です。言われてみれば。
──
たとえばどんなことですか、具体的に挙げると。
吉田
えーっと、まず多いのはアニメ関係。
昔からアニメが好きで、
アニメのイベントの司会を
年間に100本くらいやらせてもらってます。

あとはアニソンのDJをやったり、
コミケでCDをつくったり。
落語も好きだったんで、
アニメと落語を組み合わせたイベントを、
お笑い芸人のサンキュータツオさんと
やってたりしてます。
──
慶應義塾大学の落研出身なんですよね。

あの全身ピンクのポップデュオ、
レ・ロマネスクTOBIさんの後輩にあたると
聞いています。
吉田
そう、そうなんです。
サンキュータツオさんは、早稲田の落研出身。
学生時代からの知り合いでした。

で、今年、そのイベントが
ニッポン放送の65周年記念事業に
選ばれまして。
紀伊國屋ホールを一週間押さえたから、
やってこいと。
──
すごい。
吉田
あと、
長く続いているのは「マンガ大賞」です。
──
はい、吉田さんが発起人なんですよね。
今年の大賞受賞作『ブルーピリオド』を
今、読んでいます。

意外なところでは、
アドラー心理学についての本を
出されてもいます。
吉田
アドラー心理学って、
本来「子育ての心理学」なんです……という話を
出版社の人にしたら
「それ、いいですね!」となりまして。

早稲田大学の向後千春先生と一緒に、
お母さんの悩みに答える本をつくったんです。
──
吉田さんは「ニッポン放送」という
大きな組織に属していますが、
何でしょう、
やりにくさを感じたこととかって、ないんですか。

そんなにたくさん、いろんなことやって。
えらい人に、にらまれたりですとか。
吉田
そもそもなんですけど、
ぼく、いわゆる「同調圧力」みたいなものを
感じないタイプで。
──
「感じない」んですね(笑)。
「気にしない」とかじゃなく。
吉田
感じないんです。

風速50メートルの風に向かって歩くのって、
きっと大変じゃないっスか。
──
そうでしょうね。

大型で非常に強い台風並みの風速ですから。
50メートルと言ったら。
吉田
でも、同調圧力の「風速」ってゼロですよね。
──
まあ、実際の風が吹くわけじゃないのでね。
吉田
つまり、感じませんよね。
──
うん。
吉田
だったら、そもそも気にならなくない?
──
そういう結論(笑)。
吉田
つまり、
同調圧力を感じない身体を手に入れる。

ま、そうは言っても
むずかしいかもしれないんで、
別のことで言いますとね。
──
ぜひ、お願いします。
吉田
ぼくが担当している『ミューコミプラス』って、
たぶん日本で最初に
ツイッターの公式アカウントをつくった
番組なんですよ。
──
あ、そうなんですか。
日本で最初に、というくらい早い段階で。
吉田
生放送中に
「今からアカウントをつくりまーす」って、
スタジオで。
──
つまり「稟議を回して、えらい人の承認を」
みたいなことじゃなく。
吉田
じゃなく。というのも、過去に2回、
ネットを絡めた番組をやろうと思って
企画書を出したら、
2回とも「ダメ」って言われちゃったんです。

それぞれ
「ブログ」と「ミクシィ」だったんで、
両方ともけっこう昔なんですけど。
でね、ダメな理由は、
大雑把に言うと
「何を書かれるかわからないから」だって。
──
じゃあ、そのときの「反省」があって、
番組中に。
吉田
そう。ひとまず
「会社の規約」を読んでみたんです。
──
ええと、
それは、御社のルールブックみたいなもの?
吉田
そこに「ツイッターは禁止」とは
書いてなかったんです。どこにも。
──
そりゃそうでしょう。
だって、ツイッター出はじめのころの話
ですものね。
吉田
だったら「ダメってことないんだな」と
解釈しまして、はじめたんです。
──
つまり「勝手に」ですね(笑)。
吉田
そう、勝手に。番組の公式ツイッターなんて
今じゃふつうですけど、
当時はめずらしかったんで
大勢の人が集まってきました。

それで「既成事実」として
認められていったんですが、
いつの間にか、
うちの営業のリリースにも載るようになりました。
『ミューコミプラス』には、
こんなに多くのフォロワーがいて、
ツイッター上でこんなことをやっていて……と。
──
知らないうちに「公認」されていたと。
吉田
だから、この人も「会社の規約」を
読んでみたらいいと思う。

そこで禁止されていないことなら、
やっちゃっていいんじゃないっスかね。
──
吉田さんは「企画をいっぱい出しなさい」と
言われているんですか。
吉田
ぜんぜん言われていません。

他のアナウンサー、
誰も書いてないです。企画書なんて。
──
そもそも、
そこを勝手にやってるんですね(笑)。
吉田
まあ、そうです。

そんなことばかりしていたら、
所属が「アナウンサールーム」じゃ
なくなってしまいました。
──
アナウンサーなのに
「ビジネス開発局」ですものね。
吉田
はい、
「ビジネス開発局ネクストビジネス部」です。
──
いろいろ勝手に手を出してきた結果
「次のビジネスを開発する人としてがんばれ」
と。
吉田
まあ、そういうことになってます。
──
吉田さんの名刺を見ると
「ビジネス開発局ネクストビジネス部」の次に
「吉田ルーム」と書いてあって、
以前から
「これは、何かな?」と思っていたんです。
吉田
ぼく、アニメのイベント司会でも何でも、
ギャラは会社に入れてるんですけど、
あるときに
「吉田、アナウンサールームは
収入セクションではない」と言われたんです。
──
つまり「お金を稼ぐ部署ではない」と。
吉田
なので
「知ってますけど、いただいたものがあるので、
それを会社に入れてるんです」
とお返事したら
「じゃあ、今日からお前は
アナウンサールームの人間ではない」
となりまして。
──
それで「吉田ルーム」なる部署がつくられた。

ネクストビジネスで稼ぐ吉田さん、
という人の「ルーム」が。
吉田
はい。
──
吉田さんの好き勝手な動きが、
新しい部署をつくってしまった、
ということですね。
吉田
結果的に、そうなってしまいました。
──
お聞きしていると、
まず好きなことを勝手にやりだして、
それが事後的に承認されるというパターンが
多そうです。
吉田
そうですね。ひとつ、
ぼくら下の人間の勝手な動きに
「期待」してるのって、
ほとんど「会社の上のほうの人」なんですよ。

えらい人であればあるほど
「もっとやれ、もっとやれ」って言う。
──
あっ、そうなんですか。
吉田
はい。30代、40代が無茶苦茶やるのを、
70代の人は、おもしろがってくれます。

中間管理職のみなさんには、
立場や責任があるので
「そうは言っても」という気持ちが、
まだ、あるのかもしれないけど。
──
じゃあ、遠慮しちゃダメってことですね。
若い人は。
吉田
そうだと思いますよ、経験上。

上の人は、待ってます。
下の人間のおかしな動きを。
──
勇気の出る話だなあ。

でも、吉田さんって、
いろんな「複業」を勝手にはじめて、
成功させて、
会社に収入をもたらしているわけじゃないですか。
吉田
まあ。
──
つまり、これまでの「実績」があるから、
いろいろやりやすい……みたいなことって、
あると思いますか。
吉田
その「実績主義」は、
よくない考えだと思います。

つまり「実績のある人」しか好き勝手できない
となったら、
若い人は何もできないです。
──
たしかに。
吉田
ぼくの場合は「実績のある人」じゃなく
「言うことを聞かない人」なんです、たぶん。

で、そういう人が、
好き勝手やって笑ってるだけ。
実績じゃなく、何と言うか……雰囲気?
──
雰囲気。
吉田
あいつ、本当にやりたいんだな……みたいな。
──
あ、その気持ちが伝われば、大丈夫だと。
吉田
そう思います。まわりを見ても、
そういう人が、やりたいようにやってますし。
それだけじゃないかなあ。

あるいは「こっち、楽しいっスよ!」って、
仲間を増やしちゃう人とかね。
──
つまり「戦略」とかじゃないってことですか。

忖度とか、根回しとか、コツとか、
わからないですけど。
吉田
まあ、好き勝手やったときに「怒る人がいる」
ということは、
知っておいたほうがいいかも。
──
あ、なるほど(笑)。

そりゃ、いますよね。
そうやって怒る人に対しては、
どうされてきたんですか。
吉田
「すいません。やりますけど、悪気はないんです」
って言う。
──
ははは。「悪気のないことを伝える」のか!
吉田
そうです。せいいっぱい。
──
思ったんですけど、
吉田さんの場合「昔から好きだったもの」を、
ひとつひとつ、
仕事にしてきたという面がありますよね。
吉田
あ、それはそうかも。
アニメも、マンガも、落語も、アドラー心理学も。
──
吉田さんは
「複業を奨励」されたわけじゃないけど
「もともと好きだったもの」を好きであり続けたら、
いつしか「複業」になっていったというような。
吉田
ぼく、サンキュータツオさんによく言われるんです。

吉田さんは、アナウンサーを
「振り」にして生きているよね……って。
──
なるほど(笑)。
吉田
つまり「アナウンサーなのに、アニソン」
「アナウンサーなのに、落語」。

言われてみれば、たしかにそうだなと。
そんなふうに仕事をしてきたんだなあと思います。
【2020年3月30日 千代田区有楽町にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
ご予約を承っております。

和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。