33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q015

なやみ

利益を出すことが、そんなに大事なのでしょうか?

(49歳・経理)

会社でも、個人でも、利益を出すことって、そんなに大事なことなのでしょうか? もちろん赤字ではやっていけないと思いますが、がむしゃらに「利益」だけにこだわる必要もないのではないかと思ってしまいます。

こたえ

利益よりも大事なものがあります。
「アイディア」です。
そっちを生み出すほうが大事です。

こたえた人孫泰蔵さん(連続起業家・Mistletoe)

わたしも、そんなに大事ではないと思ってます。
──
おお、そうですか。
だって、利益って「結果」じゃないですか。
──
ええ。
具体的に言えば
「売上」から「費用」を引いたものが
「利益」ですよね。
──
はい。
その「利益」を膨らませるためには、
ふたつの方法があります。

まずは「売上を上げる」ですね。
これは簡単じゃないんだけど、
わかりやすいんです。
たくさん売れれば「利益は上がる」んだから。
──
ええ、たしかに。
もうひとつの方法が「費用を下げる」です。

これは、材料の原価を抑えたり、
従業員の人件費を抑えたりして
「製品を安くつくる」こと。
そうやって利益の部分を厚くするわけですが、
そこを至上命題にしてしまうと、
過剰に値引き交渉をしたり、
スタッフのお給料を下げたりしてしまうんです。
──
そうですね。
そうやって、いろんな人に泣いてもらって
利益を出しても、
果たして「そんな仕事で、うれしいか?」と
思うんですよ。
──
うれしくなさそうですね、あんまり。
利益至上主義的なことを正当化する人の論理は、
こうです。

利益が出れば出るほど
再投資に回せる資金が増えるので、
より多くの人に安価な商品を届けることができる。
結果として、自分たちの企業を
サスティナブルな成長軌道に
乗せることができる……と。
──
つまり
「会社を長続きさせるために、利益が必要だ」と。
はい。でもそのために、従業員の給料を抑えたり、
取引先からの仕入原価を叩いたりして
「利益」を増やしたところで、
わたしは「本末転倒」だと思うんです。
──
サスティナブルな企業には、ならないぞと。
そう思います。

誰かの犠牲の上に成り立つような会社は、
続かないと思います。
──
一方で、株式市場では、利益が減少したら、
「株価」が下がりますよね。

そうすると、株主総会みたいな場所で、
株主のみなさんに怒られたりすると思うんです。
はい。
──
そのあたりは、どう考えたらいいんでしょう。
株主が不満を感じる理由は
「株価が上がらないから」ですよね。

従業員にしてみれば
「給料が上がらない」と不満だし、
お客さんは「価格」が上がったら、不満です。
そして、取引先の人は仕入れ値を叩かれたら、
これまた不満。
──
はい。
みなさん、それぞれの立場があり、
それぞれの不満がある。

その
「あちらを立てればこちらが立たず」の状況の中で、
どうにか「バランスを取ろう」とするわけですけど。
──
ええ。
それだと、根本的な解決になりません。

利害関係のある人たちの間で
バランスを取ろうとしても
「誰かがちょっとずつよろこんでいない」
「みんな少しずつうれしくない」状況は、
変わらないので。
──
では、どうすればいいんでしょうか。
まったく新しい「アイディア」をうみだすこと、
ですね。
──
アイディア。
そうです。アイディアです。

まったく新しい「アイディア」を
うみだすことができれば、
株主も、お客さんも、従業員も、取引先も、
誰ひとり傷つけることなく
全体をハッピーをすることができるんです。
──
アイディアのちからで。
そう、アイディアこそが重要なんです。
利益じゃなくて。
──
これまで
孫さんがごらんになってきた企業の中で、
今のお話の典型例があったら
教えていただけますか。
ぼくらが応援している「スタートアップ」って、
いわゆる
「ディープテック」と言われる企業なんですね。

最先端のサイエンスやテクノロジーを用いて、
新しい何かを
生み出している人たちのことなんですけど。
──
ええ。ディープテック。最近、よく聞きます。
これまで世の中に存在していなかった、
従来の常識からみれば
「魔法」みたいな仕事をしている起業家を
応援しているんです。

その中のひとつに、
合成生物学の分野で起業した女性がいます。
25歳で、若いんですけど。
──
合成生物学。
最先端の科学で、
英語では「synthetic biology」と言います。

彼女が何をやっているかというと
「プラスチックのゴミ」から
「フォトポリマー」をつくっているんです。
──
プラスチックのゴミから……フォトポリマー?
はい。たとえばプラスチックのゴミ袋って、
製造コストが安すぎて
リサイクルされていないんですよ、ほとんど。
──
そうなんですか。
石油原料から非常に安くつくっているので、
リサイクルするのに
100倍くらいのお金がかかってしまう。

そこで「燃やそう」としても、
二酸化炭素は排出するわ、燃料代もかかるわで、
あんまりいいことがない。
そこで、どうしているかといえば、
ただ「埋め立ててる」だけなんです。
──
地面の中に。リサイクルも、焼却もせずに。
ええ。でも、プラスチックは
土の中で分解されませんよね。

一説には、
何百年もそのままだろうと言われています。
つまり
「ただ、見えなくしているだけ」なんですよ、
人間の目から。
──
都合のわるいものに、フタをするかのように。
まさに。でも、その若き研究者は、
最新の合成生物学の技術を用いて
「プラスチックのゴミ」を
「フォトポリマー」に変えることに成功したんです。
──
フォトポリマー、というのは?
紫外線を当てると固まる化合物です。

常温ではドロドロしてるんですが、
そこへ紫外線を当ててやると
「固化」する性質を持っています。
──
紫外線で。
通常、プラスチックを溶かすためには、
相当の熱を加えなければならないですよね。

でも
「温度を高くすることはできないけど、固めたい」
というニーズって、じつは、けっこうあるんです。
たとえば「歯のセメント」だとか。
──
あっ!
歯医者さんいにくと、
詰めたところに、光を当ててたりしません?
──
はい、当ててます当ててます。
あれ、紫外線でフォトポリマーを固めてるんですよ。
──
はああ、そうだったんですか。

何をやってるんだろうと前々から疑問だったんです。
あれは、固めていたんですか、フォトポリマーを。
へええ。
半導体の回路を固定させるのにも、使われていますよ。
半導体の回路って、熱を加えると焼き切れてしまうので。
──
そこで、熱の必要ないフォトポリマーを用いていると。
ええ。でも、そのフォトポリマーという物質は、
ふつうにつくるとめちゃくちゃ高価なんです。

ものすごい値段で、取り引きされていたりして。
──
それを、プラスチックのゴミからつくろうとしてる?
そう。
──
すごい。
人工知能を駆使して、
物質の化学組成を研究し続けた結果、
ある処理を施したプラスチックから
フォトポリマーをうみだせることがわかった。

超最先端の化学を用いて、
ただのゴミから
高価な素材をつくりだすことができたんです。
──
環境の問題と価格の問題を、同時に解決してる。
すばらしいアイディアのなせるわざですよね。
誰ひとり犠牲にせず、
大きな利益を上げることができます。

利益が上がれば株主や従業員もよろこぶし、
ゴミだから取引先から買い叩く必要もない。
そしてフォトポリマーが安く手に入るなら、
ぼくらもうれしい。
──
アイディアひとつで、みんながハッピーに。
経済学の用語で、
ひとつのパイを奪い合う状況を
「トレードオフ」と言うんですね。

自分たちが「6」を取ったら、
相手は「4」しか取れないという、
そういう状況のことを。
──
ええ。
そうじゃなく、全体の総和を
「10」から「20」に増やしてしまえば、
みんなの取り分が増えますよね。

そうやって、
パイそのものを大きくしてしまおうという思考を
「プラスサム」と言うんです。
ぼくらが応援しているのは
「プラスサム的な発想の企業」ばかりなんです。
──
目の前の状況を
プラスサム的に変えていくために必要なのが、
突破力のあるアイディアだと。
そうです。

限られた資源を「どう分配しよう」なんて悩むのは、
じつに時間がもったいない。
そんなところに知恵を使うより、
まったく別の視点から新たなアイディアを出して、
全体の総和を大きくしたほうがいいと思います。
──
おたがいに「奪い合う」イメージがなくなるのも、
いいですよね。
はたらく……という言葉は
「はた(傍)」を「楽にする」っていうことじゃ
ないですか。
──
ええ。自分のまわりの人を、助けること。
本当にそうだなあと、あらためて思うんです。

ぼくらは、お金のためにではなく、
まわりの人を楽にするために……。
──
はたらく。
はい。でね、ぼくらが「絶対、応援したい」と思う
スタートアップって、
その「はた」が、
自分中心に
半径50メートル100メートルじゃなく、
全世界をカバーしちゃうような可能性を
秘めた人たちなんですよ。
──
はた(傍)の範囲が、地球大。

さっきのフォトポリマーのお話なんか、
まさにそうですね。
彼らの発想を見ていると、
やっぱり、何よりもまず「アイディア」なんです。
──
はい。
利益というのは、アイディアのうしろに、
ついてくるものなんだと思います。
【2020年4月2日 東京都世田谷区
←ZOOM→シンガポール】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
ご予約を承っております。

和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。