33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q016

なやみ

フリーランスのデザイナーです。
仕事がないと罪悪感や無力感に苛まれます。

(28歳・デザイナー/イラストレーター)

フリーランスのデザイナーをやっていますが、つい最近、ぽっかりと仕事が空いてヒマになり、すごく焦りました。フリーランスが不安定なのは重々承知だったんですが、将来への不安、他の人がはたらいているときにはたらいていない罪悪感、無力感……など、マイナス感情があふれて止まりません。営業をかけたり、LINEスタンプをつくったり、とにかく何かをして気を紛らわせています。こんなちゃんとしていない自分がフリーランスなんてしてていいんでしょうか。そもそも自分、はたらいていると言えるのか? 悩みというかただの気持ちの吐露になってしまいました。すいません。

こたえ

注文のこない今こそ、
注文の多いデザイナーになるチャンスです。
才能がないなと思ったら、
ベラスケスをまるパクリすればいいんです。

こたえた人田中泰延さん(青年失業家)

田中
青年失業家を名乗るぼくに、この質問。
──
もしよろしければと思いまして。
田中
いや、まずこの人、
「他の人がはたらいてるときに、自分だけはたらいていない」
ことに対して
「罪悪感」や「無力感」を抱いてますよね。これが不思議で。
──
あ、そうですか。どうして「不思議」ですか。
田中
会社員時代、
ぼく、平日に有給を取ってディズニーシーなんかに行くと、
ものすごくうれしかったんですよ。
──
ああ、ご自身の経験から(笑)。

みんながはたらいているときに
「遊ぶ」のが「うれしい」と。
田中
だって、
俺がジェットコースターで絶叫している今この瞬間にも、
会社で見積もり書いてるバカがいるのかと思うと。
──
向いてたんですかね、「仕事をしない」ということに。
田中
そう、仕事をしてないのに向いてた。
──
でも、この方は「焦り」を感じてらっしゃいますよね。
のみならず「罪悪感」や「無力感」まで。
田中
みたいですね。
──
そういう気持ちは、湧いてこなかったんですか。
田中
ぼくにはまず、
書くことが「仕事」だとは思えないんですよ。
──
え、あんなベストセラーを出しておきながら。
田中
いやいや、だって「50万円で書いてもらえますか」
という人もいれば
「3万円以上はちょっと」という人もいる。

で、どっちも書く労力はほとんど一緒なんです。
──
たしかに、
そこに「47万円ぶんの差」はないでしょうね。
田中
だから、そんなものをアテに生きていこうと思ったら、
生活の設計ができないんです。

ぼく、会社を辞めるときに
「文章を書いて食ってこうと思ってます」
と言ったんですよ、おたくの社長さんに。
──
ええ、弊社の代表・糸井重里に。
田中
そしたら社長、なんておっしゃったと思います?

「田中さん、それはね、
コンビニかガソリンスタンドではたらきながら
書いたほうがいいよ」って。
──
別のことで食い扶持を稼がないとキツいぞと。
田中
そう。

つまり「書くことで収入を得る、食っていく」
なんてことは、
現代の日本ではファンタジーなんです。
──
イバラの道ですよね。
それも相当、トゲトゲの生い茂った。
田中
この人もフリーランスのデザイナーさんでしょ。
発注がない限りお金にならないんです。
──
ええ。
田中
ぼくもね、少し前までは
同じような状況だから知ってるんですよ。

なにしろ、会社を辞めて2年で稼いだお金が
「200万円」くらいだったんで。
──
なんと。
田中
年収にしたら「100万円」です。
──
ゆえに「青年失業家」を名乗られて。
田中
まあ、仕事がしたくなくて会社を辞めたんだから、
別によかったんですけどね。

生活費をどうするかって問題は、
まあまあ、あるにしても。
──
その点、この方は、そういう状態に耐え切れず、
空いた時間と心の隙間を埋めるために
「営業をかけたり、LINEスタンプをつくったり」
しているようです。
田中
ぼくも、しばらく「とくに仕事のない状態です」
という感じが続いたんですが、
去年の6月に本を出してからは、
講演会の依頼がいっぱい来るようになった。
──
わあ、そうなんですね。
田中
あの本の内容について100人とか200人、
多いときは
300人くらいの前でしゃべってくださいと
言われるんです。

みんな、
何千円の入場券を買って来てくれるんです。
──
一冊のベストセラーを持つということは、
すごいものですね。
田中
まあ、講演会自体は
好きでやってるわけじゃないんだけど、
義理やお付き合いもありますし、
お客さんも来てくれるっていうから、
そういう依頼を
この3月まで詰め込んでいたんです。

今日もひとつ、あるはずだったんです。
あさってもその次の日も、
3月21日も3月23日もあったんです。
沖縄をはじめ、日本各地で。
──
すごいじゃないですか。
田中
でも、例の新型コロナのおかげで、
2月半ばから3月いっぱいのすべての講演が
吹っ飛んだんです。
──
ひとつ残らず?
田中
ひとつ残らず。
──
ああ……その場合は、
何の保証もないわけですよね。

入るはずのものが、ただ入らなくなるだけで。
田中
そうですね。
ま、各団体、騒ぎが収まったらやりましょうと
おっしゃいますけど、
何せ、先行きがわかんないもんね。
──
じゃあ、とつぜん、日々の予定が真っ白に。
田中
なりました。
──
それは、そうでしたか……。
田中
で、よかったなと。
──
え? 
田中
よかったなと。
──
「よかったな」?
田中
はい。
──
「よかったな」と思ったんですか?
田中
思いました。

だって、3月いっぱい、
気はすすまないけどやるかと思っていた講演会が
ぜんぶ飛んで、
そりゃあ収入は「ゼロ」になりましたよ。
──
ですよね。
田中
たぶん、100万単位で吹っ飛びました。
──
うわー。
田中
だってほんとに、講演会でギッシリだったんだもん。

でも、それらぜんぶが吹っ飛んだんで、
今は泣きながら、
友人の浅生鴨さん主宰の同人誌の原稿を書いてます。
──
泣きながら(笑)。
田中
そう。
──
つまり「本業に向かった」ってことですね。
田中
うん。もちろんね、講演会が飛んで向かった本業も、
もうかる保証はないんですよ。

でも、うれしいわけですよ。
──
うれしい。何がうれしい?
田中
本来やるべきことに取り組めることが、です。

この人も、言ってみれば
「ヒマなデザイナー」じゃないですか。
「注文の多い料理店」ならぬ
「注文の来ないデザイナー」でしょう。
──
直言すれば、そうです。
田中
だったら今こそ、
昔で言う「スキルアップ」ってやつに
取り組めばいいじゃないですか。
──
そうか、
そのための時間がたっぷりできたと思って。
田中
ラッキーだくらいに思ったほうがいいです。
──
LINEスタンプつくってる場合じゃないと。
田中
どうして、そんなに焦るんだろうか。

注文がない限り仕事のない仕事をやっているのなら、
今こそ「ひっきりなしに注文がくる人」になる
チャンスじゃないですか。
──
注文のない今が、絶好の機会。
田中
世の中には、
まずいラーメン屋のほうが圧倒的に多いでしょう。
──
うまい店は、少ないですよね。数的には。
田中
10軒のうち7軒くらいは、もうまずい。
だからみんな、
おいしいほうの3軒に行列するんです。

そこらへんのマーケティングの人に
「うまいラーメン屋とまずいラーメン屋のちがいは何ですか?」
と質問したら、
だいたい「立地」とか「価格」とか、
いい加減なこと言うんですよ。
──
ええ。いい加減て(笑)。
田中
そんなの、理由はひとつだけなんです。

そこのラーメン屋の大将が
「うまいラーメンを食ったことがあるか、ないか」
だけなんです。
──
ああー……おいしいラーメンを食べるということを、
やったかどうか。
田中
まずいラーメンしか食ってないから
「まずいの連鎖」が起こるんです。

出汁取って、醤油ぶちこんで、ゆでた麺を入れて、
ネギをパラパラっとやったら一丁上がり。
「ラーメンなんて、こんなもの」
──
悲劇ですね。丼の中の。
田中
このデザイナーさんは今、
そういう「まずいラーメン屋」になっちゃってる。

でも、恐れることはない。
10軒中7軒がまずいラーメン屋さんなんだから、
ふつうです。
──
他の多くのラーメン屋と同じように、まずい。
では、どうしたらいいでしょう。
田中
簡単です。

うまいラーメン屋さん100軒の行列に
並んでみればいいんです。
さすがに、それだけ食べたら
「うまいラーメンに共通している何か」を、
つかむことができると思う。
──
100軒。
仕事がなくて時間があるなら、できますかね。
田中
できるできる。できますよ。

でも、もし「時間はあるけど、才能がないからな」
とか思ってたとしたら、次のことを試してください。
──
おお。何ですか。
田中
まるパクリしてみてください。
──
何を言うんですか。
田中
いやいや、まるパクリって悪いことじゃないから。
本気でやるなら。
──
まるパクリを、しかも「本気」で……。
田中
ええ、そうです。
もし、この人がぼくの後輩デザイナーだったら
「本気でまるパクリしてみろ」と言ってやります。

つまり、この人が、
ベラスケスをまるパクリしたような
デザインにしようと思って
ベラスケスまるパクリの絵を描いて割りつけても、
どうぞご安心ください。
絶対、ベラスケスにはならないから。
「もしかして、
ベラスケスをまるパクリしようとしたのかな?」
とすら、思われないから。
──
なるほど(笑)。
田中
だって、この人、ベラスケスじゃないんだもん。
だから、まるパクリしたらいいんですよ。
──
描いてる人がちがうということの意味ですね、
それはつまり。
田中
そう。絶対ちがうものになります。

ぼくだって、CMをつくるとなったときに
「リドリー・スコットの
あの映画のあのシーンよかったな、
まるパクリしよう!」と決めて、
スタッフにも映画を見せて
「このシーンのまるパクリで行こう、
リドリー・スコットっぽいって言われてもいいやん、
かっこいいから、まるパクリしようぜ!」
って言って、
いざできあがったものを見ても、
リドリー・スコット作品とは
似ても似つかないものになっているはず。
──
リドリー・スコット本人に見せてもわからないほど。
田中
そう。だって俺、リドリー・スコットじゃないから。
──
いい話ですね。
田中
絶対、大丈夫。正々堂々とパクってください。
──
なぜなら、あなたはベラスケスじゃないから。
田中
そう。リドリー・スコットでもないから。
【2020年3月15日 大阪にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
ご予約を承っております。

和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。