第5回 触っちゃいけない、触りたいもの。

糸井 村でいちばんの可愛い子が、
この旗を織ることになってるっていう
設定があったじゃない?
だからこの子が可愛いっていうのは、
無条件でオッケーなんですよ。
で、よく見ると、この子以外に
この年ごろの女の子は
あんまり出してないんですよね。
で、競争じゃないものにしてるんですよね。
そのへんもけっこう微妙に、
相当上手なさじ加減をしてると思うんですよ。
そこはね、二度目観たときにふと気づいたの。
女の子同士で、ぺちゃぺちゃ
井戸で喋ってるなんていう機会はなくて、
必ず井戸に行ったら男が
「俺が汲んでやるよ」っていうやつが出てくるし、
もうこの子だけなの、若くて可愛いのは。
そのへんがね、また映画観てる人に
違和感を感じさせない何かが。
吉本 全然違和感感じなかったですよ。

糸井 でしょう。こいつにライバルがいて、
「私もあの先生好きなんだけど」
っていう、もうちょっと不細工な子出したら、
あの物語はぼーん、ですよ。
吉本 たしかに(笑)。そういえばそうですね。
この子しかいませんでしたよね。
糸井 だから素人にはつくれない映画なんですよ。
餃子っていう設定もね。
たぶんものすごくきっと旨いんだと思うんだよ。
他の料理は知らないけど。
吉本 いや、餃子はもうほんとに私は。
糸井 水餃子?
吉本 もう素晴らしいものでした。

糸井 ご馳走であり、誰でもつくればつくれるもので、
旨い不味いはきっとあるだろうし、
時間もかかるし。
吉本 で、餃子ってね、
中国の人たちにとっては、
たとえば日本でいう、家族が一年に一回
集まったときにつくるお料理なんですよ。
で、家族でつくって、
家族の親睦を確かめるというお料理なの。
糸井 なるほどねえ。
吉本 ほんと上手ですよね、餃子。
糸井 もう食器なんかでもさ、
そのまま欲しいくらいになっちゃいますよね。
吉本 うん。
糸井 あれ粗末な食器なはずですよね。
吉本 そうですよ。
それでちょっとしかないんですよね、枚数も。
糸井 そうだよね。
吉本 それを扱って、
次から次に使い回すっていうか、
上手だなあと思う。
糸井 丼の蓋がしまらない分量をのせてるあたりの演出も、
素人にはできないよね(笑)。
吉本 上手ですよ。
糸井 お弁当の蓋が、のせただけでちょっと
天丼のランチみたいなね、
あの盛りつけも、
ツーと言えばカーな分量入るんだよね。
吉本 食べ物の映像だけでも、
すごいなあと思っちゃう。
糸井 あとね、二度目に観て気づいたのは、
お弁当を丼に盛って蓋して、
そこがはみ出してる状態つくって、
縛るところで布の扱いがものすごい雑なんですよ。
あれは映画的約束だと思うんだけど、
本当に運ぶときには。
吉本 もっとね。
糸井 もうちょっと丁寧じゃないと、
こぼしちゃうんだよ。
だけど、あれあとで割るでしょう。
その都合で、あのぐらいの速度で。
吉本 そうかもしれない。
こういうことはやっぱり撮影をやったことの
ある人にしかわからない。
糸井 あの速さはね、ちょっと違和感あるんですよ。
あの女の子ものすごく丁寧に
いろんなことするんだけど、
生活のリズムがものすごく速いんです、
あそこだけ。
「さあ、行かなきゃあ」って
さーっとやるんですよ。
あれはあやしいなと思ってたら、
あとで、やっぱりこぼすんだよね。
あのあたりとかね、
もう一々プロは恐ろしいと思った。
それを感じさせないように、
これはもうファンタジーですからねっていう、
モノクロの映画のほうに
リアリズムを置いたわけでしょう。
「タバコ代がかかるんだよ」とかさ、
「人足代は一人いくらだからいくら。
 それにタバコ代があるよなあ」
っていう、あのおカネのリアリズムを、
逆にモノクロにして、
ファンタジーのほうをカラーにしたところとかも。
吉本 普通だと、
回想シーンがモノクロじゃないですか。
糸井 そうなんですよ。
吉本 それが違うのが、
やっぱりこの映画の成功のポイントだと思う。
糸井 あの逆転はねえ。
そうじゃないと、
このピンクの色は出せないからね。

吉本 ほんと上手だなあと思いながら観てたんですよね。
糸井 これ僕は、今喋ってて思いついたんだけど、
吉本さんはメーキャップとかについて
詳しいほうですか。
吉本 いえ。
糸井 そうですか。メーキャップの人に
聞いたらどうだろう。
つまりあの村の人たちの素の顔とか、
素肌とかっていうことと、
映画的なメーキャップの微妙な差が、
どのくらい表現されてるかっていうのは、
プロが見たらすごいでしょうね。
ほんとにノーメークだったら。
吉本 でも、違いますよね。
糸井 違いますよね。このくらいの年の子だと、
ノーメイクでもできちゃうけど、
そうしたらメリハリがきかないですよね。
そこは誰かメーキャップ・アーチストに
見せたいですね。
で、このくらいの子は、
寒い日には自然にほっぺたが赤くなるんですよ。
で、僕は、冬の女の子のほっぺたの赤いのって
大好きなんですよ。
吉本 ハハハハ。
糸井 触っちゃいけない触りたいものの代表が、
この冬のほっぺたなんですよ。
ここにあるじゃないですか。
もう25になったら、
そうなっても違うものなんですよ(笑)。
吉本 うーん!
糸井 これですよね。
ピンクとは何か、みたいな映画ですよ。
ほんとに。
吉本 なるほどねえ。ピンクがポイントなんだ。
糸井 ポイントだと思いますね。
そのピンクがなかったら、
僕はそのパンフレットに目がいかなかったもん。
これがグリーンの服でね、よく似合うんです。
吉本 はい。これはピンクですね、やっぱり。
糸井 で、ピンクとか赤ってさ、
基本的には霊長類の生殖器の色ですからね。
吉本 ああ!! そういうところまで行くわけですね。

糸井 行くわけですよ。
そこはもうすれっからしな希望論としてはさ、
「ピンクですね」って、
いやらしいことを言いたくもなるようなところを、
もうフル回転で使ってるわけですよ。
この映画はピンク映画であると(笑)。
吉本 なるほど。
糸井 汚れなきピンク。

(つづきます!)



2008-02-27-WED

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN