月刊誌『TITLE』で連載されていた
吉本由美さんの「するめ映画館」。
お気に入りの1本の映画について、
ふたりでたくさん、とことんしゃべりましょう、
という企画に、糸井重里がよばれました。
そして選んだ映画が『初恋のきた道』。
「泣けるよー」「泣けるねー」というふたりのお話を
「ほぼ日」編集バージョンでたっぷりお届けします。



第1回 一度目も二度目も、泣けちゃって。 2008-02-18
第2回 すれっからしな俺だけど。 2008-02-20
第3回 たまらないプライベートの時間。 2008-02-22
第4回 生活ということの、うつくしさ。 2008-02-25
第5回 触っちゃいけない、触りたいもの。 2008-02-27
第6回 そういうこと言ってるとまた泣けて。 2008-02-29
最終回 それはある種の恋の成就。 2008-03-03





中国・華北の美しい村に、都会で働く青年が、
父の訃報を聞いて戻ってきた。
母親は、伝統の葬儀をすると言って
周囲を困らせる。
頑なな母の思いの奥には、
ふたりの若き日の恋物語があった。

都会からやってきた若い教師に恋して、
その想いを伝えようとする18歳の少女。
手作りの料理の数々に込めた少女の恋心は、
やがて彼のもとへと届く。
しかしそこには「文革」の波が押し寄せ、
二人は離れ離れに。少女は町へと続く一本道で、
来る日も来る日も愛する人を待ち続けた‥‥。

2000年、米中合作、1時間28分
第50回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞
主演:チャン・ツィイー
監督:チャン・イーモウ

オフィシャルホームページはこちら
AmazonでのDVDお求めはこちら
●価格:¥1,980
●発売・販売:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(c)2000 COLUMBIA PICTURES FILM PRODUCTION ASIA LTD.
ALL RIGHTS RESERVED.
協力:TITLE ソニー・ピクチャーズ エンターテインメント






吉本 糸井さんが『初恋のきた道』が
お好きだって聞いて。
わたしも好きなんです。

糸井 良かったです、お好きで。
吉本 久々に、お互いが好きだっていう
映画のことが話せてうれしいです。
リリー・フランキーさんがおすすめくださった
『プリシラ』以来かな。
『プリシラ』ごらんになりました?
糸井 知らないですー。
吉本 おかまさんの映画です。
3人のドラァグ・クィーンが、
オーストラリアを行く
ロードムービーなんです。
‥‥なかなか女の子向きの映画が
出てこなくてですね。
糸井 女の子に映画を観せたいと思っている
男の子たちの集いだったんですね、
今までの「するめ映画館」は。
吉本 ええ。おじさま系ですね。
糸井 おじさまが、こういうのを見る女に会いたいと。
そういう女とだったら俺と暮らせる、
というテーマだったんですね。
吉本 僕の好きなものを好きになれ、みたいな(笑)。
そういうのでいろいろ説明してくれたんですけど、
なかなか頷けないままに終わってて。
糸井 僕はマニアックですね、その意味で。
『初恋のきた道』は、かみさんが観てきて、
家にパンフレットがあったんですよ。
その、主人公の着ている服の
ピンクがとにかくもうさ、
わぁっと思ったわけ!
‥‥あ、ちょっと、今、
おかまっぽかったですけど(笑)、
「何、これ?!」って訊いたら、
「あなたは、好きじゃないと思う」って言われて。
そもそもぼく、恋愛映画は、嫌いなんですよ。
でも「好きじゃないと思う」なんて、
そんな断言しなくたっていいじゃないか、
とも思ってて、でもこのピンクに惹かれて、
いつか観たいなと思ってたんだけど、
終わっちゃったんですよ、すぐにね。
で、DVDが出て。

吉本 劇場では観なかったんですね。
糸井 観てないんですよ。
で、DVDが出て、見たら、素敵でしたよ。
だから「好きじゃないと思う」っていう
かみさんの俺の見方が、間違ってたんですね。
俺にはもう一つの俺がいるんですよ。
吉本 泣いちゃうから、
劇場で観なくてよかったですよ。
糸井 劇場は危ないですね。
吉本 私は、試写室でもう大変。
終了後、出るに出れないっていうか。
私のお隣のおじさまも、やっぱり途中から
「うん、うん」て、なんか出してて。
糸井 なんか出してて?
吉本 ハンカチ。
糸井 そうですね。僕はこのお話があって、
きょうに備えて、もう一度見たんです。
まるっきり忘れちゃって、
「よかった」としか憶えてないと
思ってたんですけど、
見たら、けっこう憶えてました。
一人で見たんですけど、
ずーっと、「ぽろぽろ」じゃなくて、
濡れ雑巾みたいに、じわじわ、じわじわ、
とにかくずーっと湿っ気てました。
最初から良かったですね、ずーっと。
吉本 ‥‥なんだか、話してると、
もう‥‥。

糸井 いや、わかる。あのね、
「どこ」っていう話をしましょうか。
まずどこで来ちゃったか。
吉本 それは二度目?
糸井 二度目。
吉本 一度目はどこですか。
糸井 一度目のときは、やっぱり最後ですね。
最後で、葬列をつくるのに、
みんな集まってくれたよっていうところが
嬉しかったですね。
お父さんの物語として、
おカネがいくらかかるみたいな話を
してたじゃないですか。
そこんところで、みんながお父さんに対して
集まってくれたという話して、
堰が切れたように、
今までの分もだーっと泣けてきましたね。
で、今回はね、
ただ好かれてるだけで嬉しかった。
この子からあの先生が好かれてるでしょ。
まあいろんな表現してますけど、
邪魔したいとかっていう他人に
なれなかったですね。
どう言えばいいんだろう。
嬉しいんですよ、他人のことなのに。
僕はちょっとそういうところがあって、
電車のなかで高校生の男女とかが
見つめ合ってるの見ると、
東海林さだおだったら
石投げたくなるんでしょうけど、
僕は、よく見ないようにしながら
「頑張れよ」と思うんです。

吉本 ハハハ。
糸井 ちょっとね、
「おじさんおばさん」なところが昔からあって、
「頑張れ」と思うんですよ。
その気分がずーっとありましたね。
好かれてるなと思うたびに涙が出ましたね。
吉本 私はね、最初は試写室で、
もう目の前が見えなくなっちゃったくらいに
涙が出たのは、
この女の子が先生をずーっと待ってるでしょう、
しつこいくらいに。
で、走って走って、待ってるでしょ。
そこが長いんですよね。
糸井 長い。
吉本 何分間か同じシーンがずーっと。
そうするとね、
最初はべつに何とも思わなかったのに
なんか涙が出てきちゃって、
それから止まらなくなっていって、
ちょっと何か言うだけでもうぶわーぁ、とか。
糸井 体を揺さぶられらちゃった。
吉本 で、二度目は、
もうすでに知っているので、
最初から涙が出ちゃって。
糸井 わかる、わかる。
吉本 もうだめなんですよね。
糸井 いや、今回の僕の二度目はそれでした。
最初から、
お父さんのところに行ったモノクロから、
もう泣いて泣いて。
一度目も二度目も共通して言える、
ほんとに大好きな台詞があって、
「お父さんの声がいいのよ」
っていうおばあさんの台詞があるんです。
朗読するお父さんの声が好きだったっていう、
その台詞が、一度目も感動したっけなあって、
二度目に思ったんですけど、
教科書を読んでる声が好きだって言われる、
その愛され方。愛し方。
‥‥たまんないですよね。
吉本 ‥‥ねえ。なんか、いやぁ。
糸井 「いやぁ」ですよね。
吉本 そうなんです。
だから私はけっこう
観ないようにしてたんです。
今回もやっぱり観ないようにしようと
思ってるんですけど、
観たほうがいいかしら。

糸井 大丈夫ですよ。
僕、たぶんまた近々観ますよ、もう。
持ちますよ、何度も。
で、そのつど滲み出てくるようにね、
自分のなかの何かが出てくるから。

(つづきます!)

2008-02-18-MON




(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN