HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

物理学者・小林誠先生に聞いた素粒子とノーベル賞と宇宙の謎。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.1 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.1

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは世間一般に「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
子どものような好奇心をもちながら、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちを敬意を込めて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談を通じ、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりとご紹介していきます。

小林誠先生ってどんな人?

第8回 最大の謎「重力理論」

乗組員A

あと、どのくらいの謎が、
人類に残されているのでしょうか。

小林

どのくらいの謎が‥‥。そうですねぇ。
それを具体的に答えるのは、
ちょっとむずかしいかもしれませんね。
というのも、
いま謎として認識されているものは、
知れば知るほど変化して、
謎がもっと増えていくんです。

乗組員A

謎が増えていく‥‥。

小林

素粒子の世界での
いちばんの課題といえば、
ひとつは「重力の理論」が
ちゃんとしていないことです。

量子力学とちゃんと整合している
重力理論というのは、
いまのところありません。
これが最大の課題。

乗組員A

なるほど。重力の理論が、
まだちゃんとしてない。

小林

未解決なことは無数にあります。
「なぜ宇宙には4つの力があるのか?」
「なぜ粒子と反粒子は非対称なのか?」
「なぜクォークは6種類なのか?」など、
例を挙げるとキリがありません。

でも、もし「重力の理論」が解明されると、
いまいったすべての疑問は、
ある程度説明できる可能性がある。
まあ、本当にわかればですが‥‥。

乗組員A

でも、なぜ重力のことは、
そんなにもわかっていないのですか?

小林

重力は力を伝える波というか、
粒子の性質が他とはちがうんです。

光の正体も粒子ですが、
これは自転をしています。
その自転の程度をスピン1とすると、
重力の粒子はスピン2です。
このちがいだけで、
もう、いろいろな理論が破綻する。
テクニカルにはそういう問題があります。

乗組員A

まったく手がかりが
ないような状態なんですか?

小林

ないわけじゃない。
最新の「超ひも理論」と呼ばれるものは、
さっきの「スピン2」を扱えるので、
この理論が完成すれば、
重力の謎を解明できるだろう、
と予想する学者もいます。

早野

その重力の分野は、
小林先生ご自身がなさってきたものとは、
すこしちがうものですよね。

小林

そこまではちょっと、
手が出せなくなっちゃってますね。

早野

それは数学的にもテクニカルだから?

小林

数学的にもテクニカルだし、
ものすごく新しい概念が
いっぱい出てくるんです。
全部を消化するのはなかなか大変。

乗組員A

もし重力の謎がわかったとしたら、
科学はすごく進化するのでしょうか?

天動説が地動説になったような、
そういう突拍子もない事実が
発表されたりするのでしょうか?

小林

突拍子もないという意味でいえば、
「この世界は10次元です」という話も、
すでに議論されています。

乗組員A

じゅ、10次元!

乗組員B

もう、なにがなんやら‥‥。

早野

そもそも反粒子の存在も、
いまでは当たり前の話ですが、
発見された当時は、
もう突拍子もなかったわけです。
だって、ある日突然、
わたしたちが知ってる粒子の数が
2倍になったわけですから。

そういう飛躍ならまだありえますが、
一般の人にはほとんど関係がない(笑)。

乗組員A

たしかに(笑)

早野

今後のことをいえば、
ヒッグス粒子を発見した
ジュネーブにある「LHC」という加速器で、
もしかしたら「超対称性粒子」が
見つかる可能性だってあります。

小林

「スーパーシンメトリー」ですね。

乗組員A

‥‥スーパーシンメトリー?

乗組員B

(なんか、かっこいい‥‥)

早野

スーパーシンメトリーというのは、
世の中の粒子の数が、
「さらに2倍になる」という理論です。

乗組員A

2倍になる?

乗組員B

どういうことですか?

早野

われわれ人類は、
粒子というもの以外に、
じつは「反粒子」というものが
存在することを知ります。

スーパーシンメトリーというのは、
宇宙にある粒子の数は、
「さらにいまの2倍ある」という理論です。
つまり、宇宙には
「粒子・反粒子」のセットに対称する、
もう1セットの未知なる粒子が存在する。

乗組員A

2倍の2倍!

小林

もしそれが本当だとしたら、
これは大変なことになります。

乗組員B

なんだか、すごい話になってきた。

(そして、あしたは最終回! つづきます)