着物が好きです。
ふだんから気軽に着ることは
なかなかできないのですが、
ここぞという「ハレ」の日、
たとえば友人の結婚式などの機会があると
どれがいいかなあと箪笥をあけて選び、
帯や小物をあれこれ合わせてみたりします。
すべて、祖母と母から譲りうけたものです。
着物にふれると
ちょっと浮き立つような気分になります。
街で着物姿の方を見かけたときも
すてきだなあと目で追ってしまいます。
いまは日常で着る機会があまりなくなったからこそ
より特別な気持ちになると思うのですが、
この着物の色や柄を見て
「美しい」と感じるよろこびは
ずっと変わらないのではと思います。
開幕が待たれている
特別展「きもの KIMONO」は
鎌倉時代から現代までの着物があつまる
かつてない規模の展覧会だそうです。
そもそも、絹織物の寿命は
100年ほどと聞いたことがあります。
身にまとうものですし、
じゃぶじゃぶと洗えるわけでもないし。
そう考えると、何百年も前の着物が
数多く集まるだけでも
価値があるのではと思っていました。
が、さらにそこで展示される予定の
着物の写真を見て、おどろきました。
わたしがこれまでに見たことのあるような
色やデザインのイメージを越えた、
とびっきりの着物がたくさん並んでいました。
左:振袖 白絖地若紫紅葉竹矢来模様
江戸時代・17~18世紀 東京国立博物館蔵
右:陣羽織 黒鳥毛揚羽蝶模様 織田信長所用
安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵
さいしょに目にとまったのは
江戸時代の振袖です。
ダイナミックなおおきな文字に
繊細な紅葉と竹垣というデザインは
『源氏物語』の若紫がモチーフなんだそうです。
なんて大胆! 逆にあたらしい! と思っていたら、
その時代のファッション雑誌とも言える
雛形本にはこのデザインが掲載されているそう。
特別な1着かと思いきや、
これが人気だったのか、とびっくりします。
どんな人が身にまとったんでしょう‥‥。
逆に、着ていた人物を聞いて
「さすが」と納得したのは
織田信長の揚羽蝶模様の陣羽織です。
山鳥の羽毛(!)でふさふさしていて
すごいインパクトです。
左:重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
右:TAROきもの 岡本太郎原案
昭和49年頃(1974頃) 東京・岡本太郎記念館蔵
撮影:堤 勝雄
この写真は
尾形光琳が直に描いたという小袖と
岡本太郎原案の「TAROきもの」。
時代もデザインもまったく違うけれど、
おなじ「着物」ですし、
そこに注がれた1人のパワーが
どちらからも伝わってくる気がします。
‥‥と、ほかにもまだまだ。
ここでは到底紹介しきれません。
衣食住の衣、だけではなく
やはり着物には
「美」への気持ちが
多分に含まれていると感じます。
さまざまな時代の人々が
着物というキャンバスで
どう表現してきたか、という
壮大な美術史をたのしめる展覧会だと思います。
着物の歴史や美術的な価値に
あまりあかるくないわたしでも、
展覧会の案内をのぞいただけで
こんなに期待を高めています。
間近で本物を見たいという気持ちが
どんどん強まるばかりです。
この展覧会の幕が開いたら、
着物を着て上野へ行ってみようかな。
そんなハレの日を心待ちにしています。