堀江貴文さんの、 まじめなおせっかい。  「もっとこうすればいいのに、と思うんです」
堀江貴文さんと糸井重里の対談です。 2013年11月に出版された堀江さんの本、 『ゼロ』について触れながら ふたりの会話は終始なごやかに、かろやかにすすみました。 ライブドアのこと、近鉄バファローズ買収のこと、 ヒッチハイクの経験談(!)などをうかがううちに、 「どうやら堀江さんはおせっかい」 という傾向を糸井が見つけます。 その「おせっかい」は、とてもまじめで、本気で‥‥。 「CAKES」さんとの共同企画で実現した対談。 どうぞ、おたのしみください。
第2回 みんなそこまでがまんすることないのに。
糸井 推測で書かれるようなことは、
やはりさんざんやられた覚えがありますか。
堀江 そうですね。
ステレオタイプな見方は、どうしてもされます。
糸井 ステレオタイプな見方をするひとって、
その本人もステレオタイプにはまってるんですよね。
ぼくはむかしから巨人軍が好きで
よく野球場に行くんですけど、
ジャイアンツファンから
「もっと応援しろ!」って怒られることがあります。
堀江 (笑)
糸井 だからそうやって
型にはめようはめようとするひとは、
自分もいっしょに型にはまっていますよね。
「この相手にはこう接するものだ」という。
堀江 ぼくはいつも、お金の話を聞かれます。
最近の取材でもそうです。
「お金に対する考え方は変わりましたか?」とか、
「いまの収入源はなんなんですか?」とか、
ほぼ確実にきかれますよ。
糸井 ああー。
ただ、収入源の話はまた別で、
おもしろいところもあると思います。
つまり、「なにで食ってるか」という話には、
そのひとが立ち現れる瞬間があるから。
「そうか、そこは守りたいよな」という、
そのひとなりの線引きが見えたり。
堀江 いやぁ、ぼくの場合は
もっと下世話な好奇心できかれるんですよ。
糸井 下世話なところで終わるとつまんないですよね。
「いまの収入源はなんですか?」の質問の、
次の次くらいまでいけば
おもしろい話になっていくのに。
堀江 ええ。
糸井 お金の話って、ぼくはけっこうやるんですよ。
お金が持つマジックってあるじゃないですか。
武器でもあるし、薬でもあるし、毒でもあるし。
なのにみんな、
簡単に「いらない」っていいすぎますよね。
堀江 そうそう、そうなんですよ。
糸井 たぶん、お金と性って似たところがあって。
「自分」を横に置いてしゃべれるひとは
いくらでもいるんです。
けれど、ちょっとでも「自分」をまぜようとしたら、
たいへんなことになっちゃう。
堀江 ああー、そうですね。
糸井 だからぼくは、お金について
「おれもほしいんだよ」
といいながら話をするひとしか信じられない。
その「おれもほしい」から始めないと
ウソになりますよね。
堀江 ええ。
糸井 ものすごく早い段階で
「お金じゃない」って簡単にいうのって、
ちゃんと考えているひとたちに悪いですよ。
‥‥ただ、
お金のことはたいせつとはいえ、
あの騒動のころだと
どうしても興味本位だけで語られますよね。
世の中のセッティングができあがっちゃってたから。
「お金」という隙間がスポッと空いていて、
ホリエモンというひとは
そこに入らざるをえなかった。
堀江 完全にそうでしたね。
それで、成金キャラになってしまって。
たとえば今回の『ゼロ』という本と、
当時書いた『稼ぐが勝ち』という本は、
根底に流れるメッセージは同じなんですよ。
自分に自信さえ持てればなんでもできる、
というのが『稼ぐが勝ち』のメッセージで、
自信をつけるための手段として
「お金を稼ぐこと」を紹介していたんですね。
それだったら生まれも性別もルックスも関係なく、
誰にでもできることだから。
糸井 はい。
堀江 でも、当時は完全に誤解されました。
「堀江はカネが大好きで、
 カネさえあればなんでもできる、
 人の心も買えると思ってるヤツだぞ」みたいに。
糸井 その当時って、30歳くらいですか?
堀江 そうですね、30歳ちょっとくらいです。
糸井 やっぱり年齢のこともありますけど、
あのころは「ホリエモン」というひとが
メディアとして完成されてない
ということもあったかもしれませんね。
堀江 メディア、ですか。
糸井 メッセージを発信するメディアとして。
今回の『ゼロ』にもご自身で書いてありましたけど、
伝え方が間違っていたというのは、
そうだったのかもしれませんね。
堀江 ああ‥‥。
糸井 30歳だったら、できないですよ。
ぼくもぜんぜんできませんでした。
その方法を誰かから習った覚えもないだろうし。
堀江 習う機会はなかったです(笑)。
糸井 メディアのひとが挑発的に聞いてきましたよね?
そのとき、目の前にいる「彼」のことが
本気で憎らしくなってくるじゃないですか。
彼に対してイライラしながらしゃべっちゃうと、
それが「彼の向こう側」にいるひとたちに
届いちゃうんですよ。
現場としての「ここ」にいながら、
同時に遠くのひとたちみんなが
「ここ」を見ている実感って、
なかなかつかめないですよね。
堀江 むずかしいです。
糸井 「わかってもらうことになんの意味があるんだ」
って思っちゃうくらいでしょう。
堀江 ほんとうにそう思ってました、実際。
糸井 そういう、まだメディアとして
未完成だった堀江さんのアクションが、
これまた大きかったですからね。
そのひずみが、あの騒動だったんじゃないでしょうか。
堀江 まあ、
でっかい揺り戻しがきましたね(笑)。
糸井 あの構造のなかで上手にやるのは、
30歳にはむずかしいですよ。
堀江 ただ‥‥
ステレオタイプな型にはめられるのって、
ぼくに限った話じゃないと思うんです。
みんな、なにかしらの型にはめられてるというか。
それでも、型にはめられないで
生きていく方法はあるし、
そういう気づきをすこしでも
提供できるんじゃないかという思いがずっとあって。
『ゼロ』という本を出したいちばんの目的は
そこかもしれないですね。
糸井 その目的、達していると思いますよ。
堀江 そうだといいんですが‥‥。

伝わってほしいです。
現状に生きづらさを抱えているひとたちに。
みんな大なり小なり
不満を抱えて生きているんだと思うんですけど、
やっぱり
「そこまでがまんすることないのに」
という気持ちは強いですから。
糸井 ああ‥‥
それは、堀江さんのコンセプトですよね。
「みんなそこまでがまんすることないのに」って。
(つづきます)
2014-01-24-FRI
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