いよいよ迎えたファーストランの日、
ふたりの顔はまったく浮かないものでした。
「あのさあ、ホントに皇居にいくの?
なんかさ、さっきまで雨降ってたし」
「ていうかまた降りそうだし‥‥」
「今日は、やめとく?」
そんなふうに明らかに乗り気でないふたりでありましたが、
走るための体の使い方を教えてくれた
格闘家・高阪剛さんがやさしく一言。
「あははは、武井さん、石川さん、
だいじょうぶですよ!
ぼくも一緒に走りますから!」
「うわ、TKが一緒に?
そりゃ、走らないわけにいかないよー。
は、走ります! よね?」
「は、は、走りますとも!」
というわけで中年陸上部は
ひじょうに怪しい天気のなか、
こころもとない足取りで
皇居に向かったのでありました。
まずは皇居近くにある
ランニングステーションで着替えをすませます。
ランニングステーションも初体験だったふたり、
「小銭、持ってく?」
「タオルは?」
「水はどうする?」
と、いろいろ不安な様子。
基本的に貴重品は着替えとともにロッカーに預け、
タオルや水は小袋に入れて持っていくんですよと説明。
小銭は、別に必要ないですよとも。
「それはわかったけど、
その小袋は抱えて走るわけ?」
いえ、小袋は置いていきます。
「ど、どこに?」
みんながそういうものを置いているベンチがあるんで、
そこで大丈夫ですよ。
「え? 路上ってこと? ホントに大丈夫?」
だーいじょうぶですって!
皇居のようにたくさんのランナーがいる場所では、
そういうマナーが出来ているんです。
足元にはSTEP菊池店長が選んでくれた
ファーストシューズ。
ようやく皇居に向かって歩き出します。
途中で、当時、
「ランナー手帳」の企画を相談しはじめたばかりの
NumberDo編集部の竹田さんと涌井さんも合流します。
そうして皇居、桜田門に到着。
みんなで高阪さんによる
体操のおさらいと準備体操を終えます。
高阪:
「いきなり走りだして怪我をしてもいけないので、
まずは歩いてみましょうか」
さすが指導者としても一流の高阪さん。
ふたりに歩きながら体の動かしかた、脚のはこびかた、
腕のふりかたなどのレクチャーをしてくださいました。
高阪:
「では、すこしずつ走ってみましょうか」
おっと、このあたりの写真、走りながら撮影したので
手振れしてしまってすみません。
「わわわっ。もう走っていいの?
なんかフォームとかもっと‥‥」
いえいえ、まずはこうやっておしゃべりできるくらい
ゆっくり走りはじめるのがいいのです。
フォームって、人によって体型も異なるし、
筋肉の付き方も違うから千差万別なんですよ。
教則本を読んでも、いろんな流派があって
着地方法ひとつをとっても
こっちの本は「足はかかとからつく」と書いてあるけど
あっちの本は「足全体で押し出すように」と書いてある。
一方では「裸足で走り始めよう」なんていう本もある。
もう、どれが正解かわけがわかんなくなるんです。
高阪:
「走ることって
そんなに難しいことじゃないんですけどねえ」
そうなんです。
と、ぼくも今は言えますが、
ひとりで走り始めた頃はなにもわからなくて、
あらゆる教則本を読みました。
で、わかったことがあります。
それは、どの本の走り方も、
最終的にはこの2つに集約されるということです。
●腰を高くして走る
●腕(ひじ)を後にひいて肩甲骨を動かす
ランニングフォームについては
まずはこの2つだけを覚えておきましょう。
「ん? 腰を高くするってどういうこと?」
たとえば、自転車に乗っている時、
立ち漕ぎしたりサドルの高さを上げると
スピードが出るでしょう?
その時、腰の位置が高くなっているじゃないですか。
それと同じように背筋を伸ばして
腰の位置を高くするんです。
そうすると「位置エネルギー」が使えるから
楽にスピードが出せるようになるんです。
コンパスに例えると
わかりやすいかもしれません。
コンパスの支点の位置が腰だとすると
支点の位置が高いほど‥‥
「一歩の幅が長くなる!」
そうなんです。
同じエネルギーを使っても
歩幅つまり、ストライドが長いほうが
速く目的地につきますよね。
このフォームを一般的には「腰高」って言います。
「で、“腕をひく”っていうのは?
腕は前に振るもんじゃないの?」
そうですね、「腕振り」という言葉のせいで
腕を前に振るイメージがありますね。
特にウォーキングをしている人に多いんですが
肘を体側から顔に向けて
前にぐいっと上げる動きをしている人をよくみかけます。
けど、「腕(肘)は前にふらずに後にひけ」が正解です。
後にひくから前に戻ってくるんです。
そして、腕を後にひくと
逆側の腰が前に押し出されて歩幅が伸びます。
腕を後にひくことによって産まれた推進力を使うので
楽に走れるようになるんです。
「ふうむ‥‥こうかな?
意識しすぎるとわからなくなる!」
だんだんと慣れると思いますよ。
そうやって筋肉だけに頼らない
楽な動きを覚えておくことで
走れる距離が伸びるんです。
距離が伸びると確実に体型が変わってきて、
フォームも変わっていくんですよ。
「にしもっちゃんからみて、
ぼくらのフォームは
2つのポイントはできてる?」
うん。悪くはないんだけど、
もっと腕と腰に意識をおくだけで
同じゆっくり走っててもより
ちゃんとしたランナーっぽい動きになりますよ。
走りながら、ぼくらを抜いていくランナーのみなさんの
後ろ姿を観察してみましょうよ。
ほら、さまざまなレベルのランナーが走ってます。
こう言っちゃなんだけど、
いい例と悪い例がこんなに集まっている場所はないです。
フォームって実は教わるものではなくて
自分で見つけるものなんですが、
ファーストランで皇居を選んだのは
そういうランナーがたくさん見られるからでもあるんです。
題して、「人の振り見て我が振り直せ」作戦です。
ほら、すっごく速い人が抜いていったけど、
あの人、腰と頭の位置が高さを保った走っているでしょ。
「ほんとだ!
後からみると肩甲骨が腕をふるたびに
体の中心に寄ってるね。
そうそう。そういう視点です。
一方であの人は一歩ずつ走るたびに
腰の位置も上下している。
一歩出すだびに太ももの筋肉を使って
体をもちあげているからふとももの前が太いですね。
「なるほど、あれが腰が落ちてる状態か。
だとしたら、もっと背筋を伸ばしたらいいかもね」
おっ。そうこう言っているうちに
一周おわっちゃいますよ。
「なんとかおしゃべりしている間に終わった!」
このおしゃべりできるスピードというのが
とっても大事なんです。
今日、ふたりがやったのはLSDというトレーニングです。
「えっ。LSD? それってやばくないの?」
というところで、次回は
「LSDのススメ」をお届けします!
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