#3
企業文化って?
- 糸井
- ぼくが6年前にハブスポットを訪れたとき、
とても興味深かったのは、
「いい人がこの会社に入ってくれるために」
ということに対して
とても労力を割いていたことです。
そしてブライアンは、
自分が会社の創始者で社長であるにもかかわらず、
「ぼくはインターネットのネイティブじゃない。
これからの会社に必要なのは
生まれたときからインターネットがあった世代、
いわばデジタルネイティブな人たちだ。
そういう人たちがどうやったらこの会社に入って
自由に力を発揮できるか考えているんだ」
というふうにおっしゃってました。
いま、会社が大きくなって、社員の数も
1500人に増えているとうかがって、
あのときにかけたコストが
うまく実を結んでいるんだなと思ったんです。
できれば、ぼくらの会社でもそういう姿勢を
マネしたいものだと思っているんですが、
それについてなにか教えてくれませんか。
- ブライアン
- 人については、こんなふうに思ってます。
多くの会社はユニークな商品をつくって、
そのいい商品で人材を集めようとしている。
でも、その商品をつくるのは、社員なんです。
多くの会社は、商品にばかり注意を払って、
よい社員を育てることに力を入れていない。
ユニークなものをつくるユニークな社員、
そういう人たちを魅了する文化を
会社の中に根づかせるために、
私たちは非常に努力していますし、
時間も労力もかけています。
つまり、企業文化で人材をひきつけているのです。
- デイヴィッド
- おもしろい事実があります。
アメリカで転職希望者がよく利用する
「Glassdoor」というサイトがあるんですが、
そこは会社で働いている人が
匿名で自分たちが働いている会社の評価を
書き込むことができるんですね。
ほんとにその会社の社員かどうかを
チェックしたうえで、
正直に、経営者の評価とか、給料のこととか
ぜんぶつまびらかに書き込むことができる。
そのサイトで、ハブスポットは
とても評価が高いんです。
- 糸井
- ということはつまり、
いま働いている人たちがとても満足している。
- デイヴィッド
- そうなんです。非常に興味深いことです。
- 糸井
- それは、労力としても、コストとしても、
そうとうそこに注力してないとできないことだし、
一過性のものではなく、
その環境を維持してないとだめですよね。
- デイヴィッド
- おっしゃるとおりです。
企業の文化として根づいていないといけない。
- 糸井
- 企業の文化って、なんなんでしょう。
- ブライアン
- 私もかつてはそう思ってました。
そう、これは、非常に「unusual」な、
変わった体験なんですけど、
会社を立ち上げてから最初の数年間は、
「企業文化」という言葉を聞くたび、
私は「やめてくれ」って思ってたんです。
「企業の文化? はぁ?」って。
- 糸井
- (笑)
- ブライアン
- ところが、企業の文化について考えざるをえない
ふたつのことが起こったんです。
まず、会社をはじめてすぐのころ、
私は社員にふたつの質問をしました。
社員の数は、いまこの部屋にいるみなさんと
同じくらいだったと思います。
最初の質問はこういうものです。
「自分のともだちに
ハブスポットで働くことをすすめますか?」
驚いたことに、社員全員が、
「ともだちに働くことをすすめる」と答えました。
ふたつめの質問は「なぜ?」です。
いちばん多かった回答は、
「ハブスポットの企業文化が好きだ」でした。
それで、私は考えることになりました。
「企業文化ってなんなの?」って(笑)。
- 糸井
- それまで考えてもいなかったのに、
「企業文化」をほめられたわけですね。
- ブライアン
- ふたつめのエピソードは、
ボストンの会社のCEOが集まる会が
開催されたときのこと。
そのときのトピックが「企業文化」で、
私は「やめてくれよ」と思ってました(笑)。
その会に出席していたCEOのひとりが
私がとても尊敬し、憧れている
iRobot社の社長でした。
お掃除ロボットのルンバを開発した会社です。
彼は、企業文化についてこんなふうに説明しました。
「企業文化というのは、
社長のあなたが部屋にいないとき、
ほかの社員がどのように物事を決めるかだ」
それが企業文化というものだと。
- 糸井
- なるほど、おもしろいですね。
- ブライアン
- それで、私は企業文化について考えはじめました。
私はハブスポットという会社の、
企業文化についての原則をつくることにしました。
それを「文化のコード(Culture Code)」と
呼ぶことにしたんですけれども、
それをつくるとき、お手本にしたのが、
アメリカの最初の憲法でした。
建国の父といわれる、
トーマス・ジェファーソンとか、
ジョン・アダムズたちがつくったものです。
彼らは、アメリカにいるさまざまな人たちが
完璧に団結できることを目標にして、
その憲法をつくりました。
それを目標にして、
ハブスポットの憲法をつくったわけです。
- 糸井
- なるほど。
- デイヴィッド
- すばらしすぎるお手本ですよね(笑)。
- ブライアン
- それは非常に重要なものです。
しかし、憲法と同様に、
条項の改定はあり得ます。
インターネットが登場して以降、
顧客と社員、社員と会社の関係は大きく変化し、
つねに変わり続けていますから、
憲法もそれに合わせて見直されるべきです。
実際、四半期に一度、そのコードについて
みんなでどこを見直すべきか議論しています。
変えるときもありますし、
いまは直さないでおこうというときもある。
そうやって変えることもできるけれど、
安易に変えられるようなものではありません。
そのあたりも、アメリカの憲法と
同じように考えています。
いずれにせよ、全社的に力を入れていますし、
そこには多くの人が関わっています。
- 糸井
- なるほど、なるほど。
- デイヴィッド
- そして非常に興味深いのは、ハブスポットは
それを一般公開しているということです。
ですから、誰でも読むことができますし、
ダウンロードすることもできる。
ちなみに、これまでに200万人のひとが
それを読んだりダウンロードしたりしています。
- 糸井
- 一般に開かれているというのも
憲法に近いと思います。
つまり、アメリカ合衆国ができた
歴史の相似形なんですね。
ハブスポットはアメリカの歴史に学んでいる。
- ブライアン
- そのとおりです。
- 糸井
- アメリカという国ができた当時、
利害の異なる外国の人たちは、
いってみれば実験国家みたいなアメリカを、
応援したい気持ちと、
「うまくいくのかな?」って心配する気持ちと
両方があったと思うんですよ。
これは個人的な仮説ですが、
世界からそういうふうに見られているからこそ
いっそう「がんばらなきゃ」と思って、
アメリカという国は
発展してきたんじゃないかなと
ぼくは思っているんです。
- ブライアン
- 私もそう思いますよ。
だって、その当時はイギリスに対して
謀反を起こしていたわけですから、
うまくいかなければ犯罪者として
裁かれてしまう可能性だってある。
だからこそ、みんなで団結し、
発展していったんでしょう。
- 糸井
- その姿とハブスポットは重なるように思います。
また、どっちも拠点がボストンだというのが
おもしろいですね。
- ブライアン
- そうですね。
私は、いろんなものに
インスパイアされやすいんです。
- 糸井
- ぼくもそういうタイプですけど、
まさかアメリカやボストンの歴史と
ハブスポットの歴史が重なるとは思わなかった。
- ブライアン
- (笑)