#4
起業のスキルと成長のスキル
- 糸井
- お話をうかがっていると、
この6年間、ハブスポットは
とても順調に成長してきたようですが、
逆に、これは予定外だったぞ、とか、
ちょっとうまくいかなかったな、
みたいなことがもしもあれば
ぜひ、聞いてみたいです。
- ブライアン
- もちろん、たくさんありますよ。
ひとつ、とても驚いたことを挙げましょう。
創業当時、私と直接仕事をしていた
中心的なメンバーが8人いました。
その8人のうち、いま何人が
ハブスポットで働いていると思いますか?
- 糸井
- ‥‥ひとり?
- ブライアン
- 正解です(笑)。
- 糸井
- へぇー、そうですか。
- ブライアン
- それは非常に驚いたことです。
つまり、こういうことだと思うんです。
スタートアップの時代に必要とされる人と、
会社が軌道に乗って成長していくときに
必要とされる人は、だんだん変わってくる。
それは、決してその人の能力がないとか、
そういうことじゃなくて、
必要とされる質やスキルが変わってくるんです。
それが自分にとってはとても驚いたことだった。
- 糸井
- ああー、なるほど。
創業当時、そういうことになるとは、
想像してなかったわけですね。
- ブライアン
- ぜんぜん。
- 糸井
- 会社をはじめたとき、
それがバンドのようであると思ったのかな。
ローリング・ストーンズのように。
- ブライアン
- うん、そうですね。
長く続くロックバンドみたいに思っていた。
- 糸井
- そしたら、違ったんですね。
- ブライアン
- 違ったんです。
その後、ある教授が説明してくださったんです。
彼らが変わってしまったのではなくて、
スタートアップに必要な人々と、
スケールアップに必要な人々と、
2種類の人々が、状況に応じて必要なのだ、と。
- デイヴィッド
- CEOとしてのあなたは、どちらの人ですか?
- ブライアン
- やはり、創業者ですから、
スタートアップに必要なタイプの人間で、
軌道に乗った会社を成長させるためには、
もっと学ばなければいけないと思っています。
アメリカには、重役や役員が
日常的にやるべきことを指導する
「Executive coach」という人たちがいるんですが、
そういう人を雇って、
トレーニングしているところです。
- 糸井
- 危機感を持っているんですね。
- ブライアン
- そうですね。
会社を起業するときに役立つ長所というのは、
あとで短所になってしまいますから。
スタートアップのときは、
自分自身ですべてをコントロールして、
決断もすべて自分で下す。
それが、自分にとっても会社にとっても重要で、
大きな長所でもあるんですが、
会社が成長するにつれ、逆に短所になってしまう。
- 糸井
- うん、うん。
それに気づかないままの人も
たくさんいるでしょうね。
- ブライアン
- まぁ、私の場合は、自分で気づくだけでなく、
社員や、いろんな人から
フィードバックをもらいますから(笑)。
- 糸井
- でも、それをきちんと受け入れるのが
すごいことだなと思います。
さっきも言いましたけど、
「自分はインターネットのネイティブじゃない」
という認識もそうですし、いまおっしゃった
「かつての長所が短所になる」ということも、
会社のために、非常に冷静に、客観的に、
自分をコントロールしているように思えます。
どうしてそんなふうにできるんでしょう?
- ブライアン
- ‥‥できているかなぁ(笑)。
- 糸井
- デイヴィッド、友だちから見てどうですか?
- デイヴィッド
- 彼はきちんと変わってきたと思います。
たとえば、起業してすぐのころ、
彼は会社についてなんでも知っていました。
「いま、会社でなにが起こってる?」って訊くと
なんでも答えることができた。
それから数年が過ぎたころ、
同じように質問すると、
「あの部署でなにが起こっているのか
ぜんぜんわからないんだ」と答えるようになり、
彼はそれに対してすごく
フラストレーションを感じているようでした。
ところが、いま、彼は、
会社のすべてを知らないことに対して、
「かならずしもすべてを知る必要はない」
というふうに感じているんです。
まるで、ある種の悟りを開いたような感じで。
- 糸井
- つまり、信じて、任せられるようになった。
- ブライアン
- たとえば、ゴルフみたいな感じなんですよ。
私は、ゴルフの先天的な才能はぜんぜんない。
それで、レッスンを受けたりして、
まあまあのスイングができるようになった。
でも、たぶん、多少ギクシャクしている。
天性の才能じゃないけど、まあ、ましになった。
そこにお金もかけたし。
リーダーシップというのもそれと同じで、
私は生まれつきの才能はないので、
それをコーチングで一所懸命それを学んでいる。
つまり、天性の性分としては、
「すべてを自分でコントロールしたい」んです。
それを一所懸命抑えて、
セルフコントロールするようにしてるんです。
だから、できているといえるのかどうか。
- 糸井
- でも、結果的に、できてますよね。
自分を客観的に律して、
「こうあるべきだ」というところに
向かって動いている。
- ブライアン
- そうですね。
改善しようと思って、努力はしています。
私は、いくつも会社を経営しているわけではなく、
ハブスポットがはじめて経営する会社です。
CEOになったのもはじめてです。
ですから、それを努力してやろうとしてる。
- 糸井
- やり遂げていると思います。
よく学んで、たくさん努力して、
いってみれば、「優等生」ですよね。
でも、あえて言いますけど、
あなたは、もともとはそんなに
「優等生」じゃなかったんじゃないか
という気がするんですけど。
- ブライアン
- そうですね(笑)。
自分をコントロールしてますよ、やっぱり。
- 糸井
- で、それはね、
いつの間にか社長をやっているぼく自身と
けっこう似ているような気がする(笑)。
- ブライアン
- ハハハハハ、そうですか。
- 糸井
- なんだろうね、それ。
で、本来のじぶんと違うからといって別に
フラストレーションを
抱えてるわけじゃないんだよね。
- ブライアン
- はい、不満があるわけじゃない。
だから、状況を受け止めているんですよね。
瞑想のとき、鼻から息を吸って口から吐いて、
というように。水が流れるように(笑)。
- 糸井
- そうそうそう。
だから、じぶんに訊きたいようなことを
ブライアンに訊いてるんだね、さっきから。
- ブライアン
- (笑)
- デイヴィッド
- 私から見ると、ふたりともすばらしいと思う。
価値のある組織をゼロからつくりあげて、
いまも大きく成長させている。
私は創業時代にハブスポットの
社外役員になりました。
それ以外にもいくつかの会社の
アドバイザーをしていますが、
基本的には本を書いたり講演したりして、
ひとりでやっているので、
ふたりのことをほんとうに尊敬します。
私にはとてもできない。
- 糸井
- たぶん、デイヴィッドは、
ブライアンがやっているのをすぐそばで見て、
自分のことのように満足しているんだよ。
だから、ブライアンとは別のことが考えられるし、
的確なアドバイスも送ることができる。
- デイヴィッド
- たしかに、会社の成長を近くで見てきて、
けっこう満足しています。
いい立場にいるな、と思います(笑)。
- ブライアン
- (笑)
- 糸井
- いってみれば、F1のドライバーと、
ピットでマシンを直すメカニックですね。
別々の才能と視点が必要ですけど、
レースをするうえでは、一体じゃないですか。
- デイヴィッド
- ああ、たしかに。
- ブライアン
- うん、そう思います。