李監督×糸井重里対談
第5回【自分が一番理解してる、という気持ちが武器。】
糸井 『フラガール』を見ていて、
意外にオーソドックスな監督に
思えたんですよ。
すっごいわかりやすさということに対して
まったく恥ずかしげがない。
若い人ってわりに、わかりやすいってことを
恥ずかしがったりするから(笑)。
それが気持ちよかったんですよ。
 
ああ、そうですね。
糸井 最初からゴダールだとか言ってる人では、
きっとこういうふうには
ならなかったかもしれない(笑)。
まあ、わかんないですからね(笑)、
僕にはちょっと。
糸井 いや、わかんないと思います、それは。
その時代に生きて、そこの国にいてっていう
人と同じようにわかるはずがないんです。
『気狂いピエロ』とかは、感覚的に
「あ、なんか、なんかいいぞ」とか、
「なんか、なんか今ちょっと
 血がたぎったぞ」とか、
そういうことなんですけど、
映画文法的なことまではちょっと、
「この人、感覚で撮ってるんだろうな」
ということしかわからなくて。
糸井 本人もわからないことっていうのは、
わからないんですよ、絶対。
(笑)そうですよね。
糸井 今頃になって、
「いやー、そんなの知らないよ」
なんつって、きっと言ってるんですよ。
それをみんなが、俺のほうがわかってるって
顔して言ってたんです(笑)。
また、わかんないって言うのが
なかなか難しいですよね。
糸井 そこのこだわりがなくなった世代が、
こういう、実は案外描きにくいぐらいの
ところまで描くんだという
気持ちよさがあったんです、
『フラガール』って。
言い方が難しいんですけど、
けっこう細かいことを描いてるんですよね。
難しくて細かいことやってるんだけど、
でも、難しそうにじゃなく
できるじゃんっていう
気持ちよさがあったんです。
『フラガール』はとくにそうですね。
最初これをやろうと決めたときから、
大体ちょっと自分の“わかりやすい”寄りに
自分を持っていこうと思いました。
あまり疑問が残らないように、
伏線は必要だけども
変な疑問は残さないっていう
台本を作らないとな、と思ってたんですね。
糸井 3時間分撮って、公開用に1時間分以上
切っちゃっても、
ちゃんとわかる映画になったというのが、
感心しますね。
あれも入れたりこれも入れたりで、
1時間延びちゃったんですけど。
詰め込みすぎたんですね。
糸井 そうか、足し算した部分を引いたのか。
そういうことですね。
ただ、それでいいと思うんですけどね。
映画っていろんな無駄があって、
もう絞りきった本当にエキスの部分が
2時間前後の枠の中で
出てくるべきであって、
最初からきっちり
2時間何分ですっていうのが
あまり素晴らしいとは思わないんですよね。
糸井 世界は違うけども、
任天堂の宮本さんっていう
ゲームデザイナー、彼がよく言うのは、
「多すぎるのはあとで削れるけど、
 少なすぎるものは
 どうにもなんないんだ」。
増やせないんですよね。
編集室では、何も増やせないんで。
糸井 そう。
「捨てるのはいくらでも
 最後に捨てられるから、
 アイディアはもう山盛りいっぱいほしい」
という言い方をしますね。
それ苦情は増えますけどね(笑)。
糸井 「私はもっと出てたのに」って人、
きっといますよ、当然。
いますね。いますし‥‥
スタッフもね、大変な(笑)‥‥
糸井 スタッフもね(笑)、
「何のために苦労したんですか」みたいな。
「もうちょっとやれば
 2本作れるじゃないか」
ってぐらいな感じなんですよ。
でも、あまり現場で大きな声では
言えないですけど、
こういう場で言うとしたら、
「無駄を恐れるな!」って(笑)。
糸井 いずれ彼が監督になったときには、
そういうことをやるでしょうね。
ちょうどちょうどで作ろうぜなんてやつ、
映画やる資格はないですよ、それは。
結果でもう全部判断されちゃう
世界じゃないですか。
だからもう結果のことさえ考えてれば
いいと思うんですけど、
まあ難しいですけどね。
糸井 相当大変だったんだろうなあ(笑)。
そうですね、まあ、でもその大変な分、
やっぱり通じ合う人たちもできたし。
糸井 おなじみのチームになりそうなんですか。
いや、ならないですね。
糸井 そんなことはならないんですか。
ええ。
糸井 もう次のこと動いてるんですか。
次のことは、そうですね、
ヨチヨチ歩きでって感じで。
糸井 何年に1本みたいな、
そんなペースはあるんですか。
いや、できれば理想は1年に1本ぐらい
やりたいんですけど。
糸井 そうはいかない?
そうですね。なかなか自分で
台本に手を入れるんで、
そうなると1年に1本ペースって
ちょっと厳しいですよね。
糸井 自分で本を書くというのは、
やっぱり取組みとしては
非常に深いってことなんですね。
深いっていうかやっぱり映画って、
人から聞いた企画でも
自分がこれやりたいと思ったとしても、
すべてが全部わかってて
「これやりたい」ってところから
出発してないと、と思うんですよね。
何かちょっとした、
「何かわからないけど、これだ」
ってあるじゃないですか。
それをやっぱり本を書きながら、
「あ、自分はこれの
 こういうとこがいいと思ったんだ」
とか1個ずつ確認したり、本当にゼロから
それが積み上げられていくんで、
やっぱり現場でいろんな無駄も
しなきゃいけないし、
スタッフなんかほとんど年上ばっかりだし、
役者も、僕よりいろんな現場行って、
いろんな有名な監督と仕事してるし、
そういう人たち一人一人と向き合うためには
やっぱり、自分がこれを
一番理解してるとか、
そういうそれを武器にしちゃわないと、
そこから始まらないと、その人たちと‥‥
 
糸井 張り合えない。
ええ、張り合うときにちょっと‥‥
難しいかなって気がするんですけどね。
糸井 思えば『フラガール』って
シネカノンは小さいかもしれないけれど
けっこう大きいサイズの映画だったと
思うんです。
そんな大きいってほどじゃないですけど、
まあ、ミドルクラスになります。
サイズ的にはメジャーな映画会社でも
全然ありのサイズなんです。
小さくはないです。
糸井 そういうサイズのものを
これからもやっていくんでしょうね、
立場的に。
いや、それはもう企画次第ですよね。
糸井 自分で思ったことが大きければ
大きいものに?
これは大きくやりたいし、
大きい環境が整えば
それは大きくやりますし、
ビッグプロジェクトにならないと思ったら
小さくやればいいし、それは企画に応じて。
糸井 それはのちにプロデューサーとの
話になるんですか。
そうですね。やっぱり自分がいくらこれを
10億円かけてやりたいと言っても、
そう簡単に集まるものじゃないんで。
結局そのあとに、じゃ、回収するにはって
考えるじゃないですか(笑)。
やっぱりビッグバジェットになったら、
それだけその予算の何倍も
回収しなきゃいけなくて、
回収するためにはちょっとこの部分を
変えなきゃいけないとか、
本当は全部ピンクにしたかったのに
黄色とか緑混ぜなきゃいけないものが
出てくるとか、
そういうことが起こりうるんで、
そうしてまでもそれをやるかどうかって
ジャッジしたりとか。
糸井 その都度テーマによって
考えるしかないですね。
ええ。多分‥‥
糸井 これは儲かったんですよね、ちゃんと。
ちゃんと儲かってます。
糸井 でも、当てる要素を真面目に考えて
当てるように作ったって
当たんないですよね。
山崎 そうですね。当たらないでも
いいやって作ることはないですね。
糸井 ないですよね。
まあ、あまり当てようと思っても‥‥
それは会社は考えるでしょうけど、
僕はあまり考えないですけどね。
糸井 いや、考えてありますね、すでに。
僕、今日監督さんと話してて思った。
 
(笑)
糸井 つまり、当てようと思うっていうことを
一番にしなくても、
「俺わかってるからさ」
っていうとこがあるから、
そう言えるんだよ、きっと。
やっぱりある程度赤字が続くと‥‥
糸井 作れなくなっちゃうからね。
やっぱり監督続けるってことが
一番大事じゃないですか。
1本やってもう完全燃焼したら
俺はいいってこと一切思わないんで、
死ぬまで一監督である以上はやっぱり‥‥
糸井 ほかに行き場がない。
ええ、ほかにもう行き場がないんで(笑)、
ここでちょっと貯金できたら
次こういうのができるとか、
やっぱりその積み重ねですよね。
そしたら、ある日多分、
相当でかいバジェットでも
通る日が来るかもしれないんで。
今はまだオセロみたいに、
全部黒に端っこ取られる状況にあるんで。
  (続きます)
2007-05-30-WED