糸井 |
『フラガール』を見ていて、
意外にオーソドックスな監督に
思えたんですよ。
すっごいわかりやすさということに対して
まったく恥ずかしげがない。
若い人ってわりに、わかりやすいってことを
恥ずかしがったりするから(笑)。
それが気持ちよかったんですよ。 |
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李 |
ああ、そうですね。 |
糸井 |
最初からゴダールだとか言ってる人では、
きっとこういうふうには
ならなかったかもしれない(笑)。 |
李 |
まあ、わかんないですからね(笑)、
僕にはちょっと。 |
糸井 |
いや、わかんないと思います、それは。
その時代に生きて、そこの国にいてっていう
人と同じようにわかるはずがないんです。 |
李 |
『気狂いピエロ』とかは、感覚的に
「あ、なんか、なんかいいぞ」とか、
「なんか、なんか今ちょっと
血がたぎったぞ」とか、
そういうことなんですけど、
映画文法的なことまではちょっと、
「この人、感覚で撮ってるんだろうな」
ということしかわからなくて。 |
糸井 |
本人もわからないことっていうのは、
わからないんですよ、絶対。 |
李 |
(笑)そうですよね。 |
糸井 |
今頃になって、
「いやー、そんなの知らないよ」
なんつって、きっと言ってるんですよ。
それをみんなが、俺のほうがわかってるって
顔して言ってたんです(笑)。 |
李 |
また、わかんないって言うのが
なかなか難しいですよね。 |
糸井 |
そこのこだわりがなくなった世代が、
こういう、実は案外描きにくいぐらいの
ところまで描くんだという
気持ちよさがあったんです、
『フラガール』って。
言い方が難しいんですけど、
けっこう細かいことを描いてるんですよね。
難しくて細かいことやってるんだけど、
でも、難しそうにじゃなく
できるじゃんっていう
気持ちよさがあったんです。 |
李 |
『フラガール』はとくにそうですね。
最初これをやろうと決めたときから、
大体ちょっと自分の“わかりやすい”寄りに
自分を持っていこうと思いました。
あまり疑問が残らないように、
伏線は必要だけども
変な疑問は残さないっていう
台本を作らないとな、と思ってたんですね。 |
糸井 |
3時間分撮って、公開用に1時間分以上
切っちゃっても、
ちゃんとわかる映画になったというのが、
感心しますね。 |
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李 |
あれも入れたりこれも入れたりで、
1時間延びちゃったんですけど。
詰め込みすぎたんですね。 |
糸井 |
そうか、足し算した部分を引いたのか。 |
李 |
そういうことですね。
ただ、それでいいと思うんですけどね。
映画っていろんな無駄があって、
もう絞りきった本当にエキスの部分が
2時間前後の枠の中で
出てくるべきであって、
最初からきっちり
2時間何分ですっていうのが
あまり素晴らしいとは思わないんですよね。 |
糸井 |
世界は違うけども、
任天堂の宮本さんっていう
ゲームデザイナー、彼がよく言うのは、
「多すぎるのはあとで削れるけど、
少なすぎるものは
どうにもなんないんだ」。 |
李 |
増やせないんですよね。
編集室では、何も増やせないんで。 |
糸井 |
そう。
「捨てるのはいくらでも
最後に捨てられるから、
アイディアはもう山盛りいっぱいほしい」
という言い方をしますね。 |
李 |
それ苦情は増えますけどね(笑)。 |
糸井 |
「私はもっと出てたのに」って人、
きっといますよ、当然。 |
李 |
いますね。いますし‥‥
スタッフもね、大変な(笑)‥‥ |
糸井 |
スタッフもね(笑)、
「何のために苦労したんですか」みたいな。 |
李 |
「もうちょっとやれば
2本作れるじゃないか」
ってぐらいな感じなんですよ。
でも、あまり現場で大きな声では
言えないですけど、
こういう場で言うとしたら、
「無駄を恐れるな!」って(笑)。 |
糸井 |
いずれ彼が監督になったときには、
そういうことをやるでしょうね。
ちょうどちょうどで作ろうぜなんてやつ、
映画やる資格はないですよ、それは。 |
李 |
結果でもう全部判断されちゃう
世界じゃないですか。
だからもう結果のことさえ考えてれば
いいと思うんですけど、
まあ難しいですけどね。 |
糸井 |
相当大変だったんだろうなあ(笑)。 |
李 |
そうですね、まあ、でもその大変な分、
やっぱり通じ合う人たちもできたし。 |
糸井 |
おなじみのチームになりそうなんですか。 |
李 |
いや、ならないですね。 |
糸井 |
そんなことはならないんですか。 |
李 |
ええ。 |
糸井 |
もう次のこと動いてるんですか。 |
李 |
次のことは、そうですね、
ヨチヨチ歩きでって感じで。 |
糸井 |
何年に1本みたいな、
そんなペースはあるんですか。 |
李 |
いや、できれば理想は1年に1本ぐらい
やりたいんですけど。 |
糸井 |
そうはいかない? |
李 |
そうですね。なかなか自分で
台本に手を入れるんで、
そうなると1年に1本ペースって
ちょっと厳しいですよね。 |
糸井 |
自分で本を書くというのは、
やっぱり取組みとしては
非常に深いってことなんですね。 |
李 |
深いっていうかやっぱり映画って、
人から聞いた企画でも
自分がこれやりたいと思ったとしても、
すべてが全部わかってて
「これやりたい」ってところから
出発してないと、と思うんですよね。
何かちょっとした、
「何かわからないけど、これだ」
ってあるじゃないですか。
それをやっぱり本を書きながら、
「あ、自分はこれの
こういうとこがいいと思ったんだ」
とか1個ずつ確認したり、本当にゼロから
それが積み上げられていくんで、
やっぱり現場でいろんな無駄も
しなきゃいけないし、
スタッフなんかほとんど年上ばっかりだし、
役者も、僕よりいろんな現場行って、
いろんな有名な監督と仕事してるし、
そういう人たち一人一人と向き合うためには
やっぱり、自分がこれを
一番理解してるとか、
そういうそれを武器にしちゃわないと、
そこから始まらないと、その人たちと‥‥ |
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糸井 |
張り合えない。 |
李 |
ええ、張り合うときにちょっと‥‥
難しいかなって気がするんですけどね。 |
糸井 |
思えば『フラガール』って
シネカノンは小さいかもしれないけれど
けっこう大きいサイズの映画だったと
思うんです。 |
李 |
そんな大きいってほどじゃないですけど、
まあ、ミドルクラスになります。
サイズ的にはメジャーな映画会社でも
全然ありのサイズなんです。
小さくはないです。 |
糸井 |
そういうサイズのものを
これからもやっていくんでしょうね、
立場的に。 |
李 |
いや、それはもう企画次第ですよね。 |
糸井 |
自分で思ったことが大きければ
大きいものに? |
李 |
これは大きくやりたいし、
大きい環境が整えば
それは大きくやりますし、
ビッグプロジェクトにならないと思ったら
小さくやればいいし、それは企画に応じて。 |
糸井 |
それはのちにプロデューサーとの
話になるんですか。 |
李 |
そうですね。やっぱり自分がいくらこれを
10億円かけてやりたいと言っても、
そう簡単に集まるものじゃないんで。
結局そのあとに、じゃ、回収するにはって
考えるじゃないですか(笑)。
やっぱりビッグバジェットになったら、
それだけその予算の何倍も
回収しなきゃいけなくて、
回収するためにはちょっとこの部分を
変えなきゃいけないとか、
本当は全部ピンクにしたかったのに
黄色とか緑混ぜなきゃいけないものが
出てくるとか、
そういうことが起こりうるんで、
そうしてまでもそれをやるかどうかって
ジャッジしたりとか。 |
糸井 |
その都度テーマによって
考えるしかないですね。 |
李 |
ええ。多分‥‥ |
糸井 |
これは儲かったんですよね、ちゃんと。 |
李 |
ちゃんと儲かってます。 |
糸井 |
でも、当てる要素を真面目に考えて
当てるように作ったって
当たんないですよね。 |
山崎 |
そうですね。当たらないでも
いいやって作ることはないですね。 |
糸井 |
ないですよね。 |
李 |
まあ、あまり当てようと思っても‥‥
それは会社は考えるでしょうけど、
僕はあまり考えないですけどね。 |
糸井 |
いや、考えてありますね、すでに。
僕、今日監督さんと話してて思った。 |
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李 |
(笑) |
糸井 |
つまり、当てようと思うっていうことを
一番にしなくても、
「俺わかってるからさ」
っていうとこがあるから、
そう言えるんだよ、きっと。 |
李 |
やっぱりある程度赤字が続くと‥‥ |
糸井 |
作れなくなっちゃうからね。 |
李 |
やっぱり監督続けるってことが
一番大事じゃないですか。
1本やってもう完全燃焼したら
俺はいいってこと一切思わないんで、
死ぬまで一監督である以上はやっぱり‥‥ |
糸井 |
ほかに行き場がない。 |
李 |
ええ、ほかにもう行き場がないんで(笑)、
ここでちょっと貯金できたら
次こういうのができるとか、
やっぱりその積み重ねですよね。
そしたら、ある日多分、
相当でかいバジェットでも
通る日が来るかもしれないんで。
今はまだオセロみたいに、
全部黒に端っこ取られる状況にあるんで。 |
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(続きます) |