飯島食堂へようこそ。  『シネマ食堂』出版記念 AERA×ほぼ日共同企画 藤原帰一さんと、映画のごはん。

第7回 藤原先生の、お茶漬け記念日。
藤原 アメリカのギャング映画だったかな、
デンゼル・ワシントンがアフリカ系のギャングで、
そのギャング仲間って結構下品なわけ。
そのギャング仲間が
冷えたコップをドカンと置いたところに
デンゼル・ワシントンが、
そっとコースターを下に敷く。
糸井 ああ、いいですね。
藤原 これでデンゼル・ワシントンが
どういう人物か、もうわかっちゃうわけね。
うまいんですよ。
糸井 「サタディ・ナイト・フィーバー」
っていう古い映画があって。
あそこで労働者階級の恋人と
ジョン・トラボルタが
ご飯を食べるシーンがあるんですよ。
藤原 ああ、ありますあります。
糸井 それがすごくよくて。女の子の恋人は今、
ハイクラス志向になってるの。
つまり、この労働者階級の中に
私はちょっといたくないかな、っていうような。
いつものように会って、
トラボルタが口の中にこんなに頬張って、
こまわり君みたいにご飯食べてるの。
そうすると女の子の方は
「私、紅茶」って言うんですよね。
コーヒーに決まってたんですよ、2人とも。
なのに「コーヒー!」って言うと
「私は紅茶」って言うんですよ。
トラボルタは「どうしたの」って言う。
そこはね、もう若くて見たから
そういうことを表現してるんだなっていうのは、
今みたいには思えないんだけど、
すげえなあ、ここ、と思ったの。
娯楽映画なんだけどね。よかったなあ。
藤原 ね。
糸井 飯島さん、この『シネマ食堂』をつくるには
そうとうな数の映画を観たでしょう?
AERA たぶん掲載レシピの3倍ぐらい観てますよね。
飯島 もう4倍、5倍、6倍!
さらっと観ようと思うんですけど、
「タンポポ」でチャーハンを作るシーンとか、
3回くらい巻き戻して見ちゃったりとか。
瀕死のお母さんに、あれ作れとかって言って。
藤原 「母ちゃんの最後の飯だ」ってね。
糸井 映画の文法からいったら、
なんで入れたんだっていうようなところですよね。
あの映画全体がすごい乱暴してますよね。
それが、見事。
藤原 見事ですよ。
あれ、伊丹さんの中でも傑作だと思うんです。
糸井 あの思い切りはできないですよね。
映画のなかの料理を探すだけで
大変っていうことはわかるんだけど、
撮った側も“思い入れる”わけですよね。
きっとね。
あれじゃなくてこれにするっていう理由が、
何かあるわけで。
飯島 そうですね。
糸井 そこは撮った人に1個ずつ聞いてみたいですよね。
なんで? って。
藤原 飯島さんが仕事をしてきた監督さんの中で、
「これはこの料理なんだ」って
具体的なイメージでリクエストしてくる人って、
やっぱりいらっしゃいますか。
飯島 はい。決まってるところと
決まっていないところがあったりします。
「美味しそうな朝食」
「美味しそうなちらし寿司」
って書かれてたり。
糸井 食い物って、やっぱり直接、
音楽みたいに訴えかけるところがあるね。
日常の食べ物について、
やっぱり監督がしょっちゅう考えてないと
撮れないですね。
藤原 撮れないでしょうね。
ディテールに感受性がないとだめでしょうね。
糸井 骨のある物の骨の取り方、出し方、
どこに置くかみたいなのだけで
全部性格違いますよね。
どこに置くの? その汚れは、みたいな。
飯島 ありますね。
糸井 台湾料理なんかで食卓の上をどんどん汚してくる。
藤原 うん、わかるわかる。
糸井 あれをやれるかやれないかだけで、
全部違いますもんね。
── きょうはたくさんお話しいただいて‥‥。
藤原 いや、ほんとうにありがとうございました。
きょうは、お茶漬けでした。
これがお茶漬けだったのかって、
ほんとうに驚きました。
映画を観てね、「これが映画なのか」って
びっくりする瞬間が人生に1桁ぐらいあるんですよ。
映画の観念が変わっちゃうようなね。
ぼくは、きょうはお茶漬けの観念が変わりました。
はっきり言って、
今日、私は永谷園から独立した(笑)。
お茶漬けのお茶って、貧乏な先祖のように
ずっと駆逐されてきたものが、
今ちゃんとね、王様の帰還という感じで。
糸井 完全に昔庶民が飲んでいたお茶って、
何煎も淹れてるじゃないですか。
飯島 ああ、そうです。出がらしです。
糸井 だからお湯に色がついてたみたいなのを
お茶って言ってたから、
あの時代とはもう全然違うんじゃないかな。
飯島 違いますね。
藤原 きょうはありがとうございました。
記念すべき日になりました。
(おしまい)

2009-11-06-FRI

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写真 山崎エリナ  協力 AERA編集部(朝日新聞社)

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