|
小林 |
僕はね、馬に惹かれたのは写真だったんです。
パドックを回ってるときの
オグリキャップのアップの写真っていうのが
当時あって。
オグリキャップの目の白いところが全部充血して、
赤い筋がブワーッと入っていて。
もう三白眼のこんな目をして。
で、首がツル頸なんですよ。 |
飯島 |
はい。 |
小林 |
ポーっと伸びてるのは緊張がないんですけど、
あまりに気合が入ってくると、
ツル頸になってくる。
噛むようにして、上目遣いになって。 |
|
糸井 |
威嚇するみたいな? |
飯島 |
へぇー。 |
小林 |
そのときのオグリキャップの、
顔のアップの写真だったんですけど。
それももう身震いするような写真ですよ。 |
糸井 |
その写真見たいね。 |
小林 |
『優駿』かなんかの表紙になったんじゃないかな。
もうすごかったんですよ。 |
飯島 |
すごそう。 |
糸井 |
へぇ〜。 |
小林 |
一生涯で本当にピークぐらいの育て方をして、
ダービーとか天皇賞、有馬記念とかそうなんですけど、
ミリ単位で修正してくるみたいなもんですよ。
調教師さんも。それはたぶん
オープン級ぐらいの馬だったんですけど、
皮膚がすごく薄くなるんですよ。 |
飯島 |
へぇ〜。 |
小林 |
スキンっていう感じです、本当に。 |
糸井 |
戦闘モードに入るとっていうこと? |
小林 |
いえ、あのぅ、もともと個体的に
「皮膚が厚い」っていう言い方するのと、
「皮膚が薄いね」っていう言い方する
馬はいるんですよ。
そんな個体差はそんな本来ないんですけど、
運動量が上がって代謝が上がってくると、
無駄毛が全部取れてくるんですよね。
冬毛なんていうと、細かいのになって。 |
糸井 |
へぇー。 |
小林 |
それが農耕馬と変わらないような
毛並みしてる馬もいるんですよ。 |
糸井 |
はぁ、はぁ、はぁ。 |
小林 |
だけど、調教を重ねてって
どんどん、どんどん仕上がってくると、
冬毛は当然抜けますよね。 |
糸井 |
スキニーになるわけだ。 |
|
小林 |
そう。しかも脂肪が取れてくると、
水の張ったような感じから、
無駄なものが全部なくなって
筋肉に薄い膜がこう重なって、
その間を血管が張ってるっていうような体に、
ビシーッとなってくるんですよ。
後肢の腹が完璧に巻き上がってくるんですよ。
そういう状態のやつを見ると、
もうね、なんかクラクラっと来るぐらいの
きれいさがあるんですよ。 |
飯島 |
そういう馬は勝つんですか? |
小林 |
いや、そうとは限らない。 |
飯島 |
そうとは限らない? |
小林 |
そうだったら、皮膚見てて、
勝敗がわかるんですけど。 |
飯島 |
そうですよね(笑)。 |
糸井 |
みんな、だから、
大なり小なりそうなってくるわけでしょう、
レースになったら。 |
小林 |
大きなレースでいったら、遜色ないですよ。 |
糸井 |
みんながそういうふうになってくるわけ? |
小林 |
そうそうそう。 |
糸井 |
それはわかんないわな。 |
小林 |
わかんないです。 |
飯島 |
わかんない。 |
|
糸井 |
ああー。 |
小林 |
あと、好き嫌いみたいな感じになってくるし。
だけど、ヘラクレスみたいな人が、
短距離ただ早いかっていうと、
そうとは限らないでしょう? |
飯島 |
ああ〜。 |
糸井 |
ああ〜。 |
小林 |
そうなってくると、
個体差が出てくるんですよね。 |
糸井 |
完全に飲み屋の会話だよね、こういうのね。 |
小林 |
おもしろいですよね。 |
飯島 |
すごい詳しいですね。 |
一同 |
(笑)。 |
糸井 |
こういうのをさ、オヤジたちがさ、
怖い顔してさ、
「なななんですよぉっ!」
「そうそうそうそう!」って言って。
そういう会話をやっぱり馬好き同士は
飲み屋でやってるわけでしょう? |
小林 |
これね、馬好きな人って、
ふた手に割れてね、
こういう話一切しない人って多いんですよ。 |
糸井 |
そうなの(笑)? |
小林 |
やっぱり馬券好きな人とか、ギャンブル系の人と、 |
糸井 |
あ、そうかぁ。 |
飯島 |
ああ、馬そのものが好きな人じゃないですか? |
小林 |
「馬がかわいいとか言うようなやつと、
俺は違うんだよ」みたいな。
やっぱりちょっとこう、
拗ねてるわけじゃないんですけども、
「気持ち悪いよ」とか言うタイプの人も。
「馬が美しいとか言うんじゃねぇよ」とか、
そういう人も結構お爺ちゃんに多いですね。 |
糸井 |
それをさ、語り分けるっていうことは、
あなたは役者だからだね、やっぱり。 |
小林 |
そうなんですかね? |
|
糸井 |
なんかそんな気がするなぁ。
やっぱり一緒くたにさせられちゃいそうなのをさ。
種類違うなっていうことは、
両方上だと思ってるよね、自分のことをね。 |
小林 |
そうかなぁ。 |
糸井 |
きっとね。そっちの役が来ることもあるし、
こっちの役が来ることもあるよね? |
小林 |
ああ〜。 |
糸井 |
おもしろいね。
薫ちゃんのその馬関係の話は
結構俺は気圧されるんだよね。
本気で言ってる感じがして、
ちょっとうらやましくなるんだ。 |
小林 |
ていうのは、僕がまだ生産者として
未知な部分があって。
配合とか出てくるんですよね。
速い馬と速い馬を掛け合せたら、
もっと速い馬ができる。
その速い馬と速い馬で、また速い馬ができる。
一応そういうので犬なんかも
改良されてきたんですよ。 |
飯島 |
あ、そうなんですか。 |
小林 |
足の短いやつ同士で
ダックスフントを作っていったように。
錦鯉でもそうなんですけど、あるんですよね。
ところがそういう人知を越えちゃうときがあるんですよ。 |
糸井 |
うん。 |
小林 |
そこがまだ解明されてないことなんです。
たいがいがそうなんですよ。
あるいは、馬って、売れるとか売れない、
マーケットがありますから。
欲しい人はやっぱりいい馬といい馬の
間に生まれた子どもを欲しいんですよ。 |
飯島 |
高いですよね? |
小林 |
そう。高いんですよ。
だけれども、その子が走るとは限らない。
そうすると、妥協して作った馬で
値段も頃合いだからっていって作った馬が、
たまたま走るっていう場合があるんです。
だから、そういうのが人知を超えちゃうんで。 |
|
飯島 |
そうですよね。人間だって、
必ずしもきれいな人ときれいな人で
かわいい人が生まれるわけじゃないですよね。 |
── |
小林さん、この馬の話って
書いても大丈夫ですか? |
糸井 |
いいんじゃないんですか、別に。 |
小林 |
大丈夫じゃないですか? |
── |
はい、わかりました。ありがとうございます。 |
糸井 |
言い忘れたこととか、質問とか、
「おいしいですね」とか、
そろそろ言ったほうがいいんじゃないですか、
まとめて。 |
小林 |
いやいや、さっき言ったように、その、あのぅ、 |
糸井 |
(笑)。 |
小林 |
そうなんだけど、
食についてのスタンスみたいなのが、
俺すごく糸井さんに興味がありますね。
なんだかんだって結構
気をつけてるなっていうのが。
さっき言ったけど。でも、そうでしょう? |
糸井 |
薫ちゃん、何を見てるんだ、俺の? |
|
|
(つづきます) |