その15 いちばん旨いものってさ。
糸井 食についても、今一番思ってるのは、
何がおいしいとかっていうのを
単体で言うのは、本当はやめようかなって。
「これがおいしいですね」とか、
「あれがおいしいですね」っていうのは、
小林 そうですね。
声高に言うことじゃないですよね。
品がないことじゃないですかね。
糸井 それだけの話だなっていうのは、
争うようにして言うことじゃないよね。
この間、芋煮が本当におもしろかったんですよ。
飯島さんが来てくれて、
おいしい芋煮を作ってくれたんだけど、
あれ、まずくてもおいしかったぜっていう
気持ちがあって。
で、なんで飯食うかっていったら、
うまいために食うんじゃなくて、
なんかもっと大きい理由があるよね。
小林 うん。
糸井 で、そのときに、
おいしいともっと楽しくなるとか。
ああ、よかったっていう気持ちが
増えるからあれなんだけど、
「おいしい」だけ取り出すっていうのは、
金持ってて孤独な老人が
できるようなことじゃないですか。
で、そういうことはだめだなと思って。
小林 うん。
糸井 じゃあ、何? っていうのはわかんないんだけどね。
もっとその手前で思ってたのは、
自分が食うより
自分の好きな人が食べてるのを
見るほうがおいしいんですよね。
小林 うーん・・・・。
糸井 だから、子どもが大きくなると、なりますよ。
1個しかないっていったときに、
「どうぞ」って食べさせられますよね。
お父さん、それは散々食べたから、
もう要らないから。
そのときに、やつが味わってるおいしさっていうのは、
俺のおいしさですよね。
みたいなところがあるんで、
人がみんなこう、われ先に餓鬼のようにさ、
「何が一番うまいか」
って言ってるのは
やっぱり開発途上だなっていうか。
小林 なるほどね。開発途上っていうのはわかるな。
糸井 うーん。
で、こだわりとかっていうのもそうだしさ。
小林 うーん・・・・。
糸井 飯島さんがやることって、
やっぱりどっかふっくらしててさ。
小林 そうね。なんか、
競って(グルメランキングの)本が出たりすると、
僕なんかはうまく言えないんだけど、
ちょっと違うなぁとかって思っちゃうんだよねぇ。
で、だいたいランクに出てるところで言うと、
僕、店の雰囲気から合わないから、
行ってておいしく感じないんですよね。
糸井 うん、うん。
小林 あのぅ、だったら、
居酒屋で十分なんですよね。
僕、最近はもうそういう、
なんか敷居の高そうな所っていうのは
行かないんですけど。
糸井 いや、そうですね。
みんな、そうなって。
俺もなってるよね。
あと、敷居の高い所って、
なんか他の理由があって
行くことがあるじゃないですか。
誰かがご馳走してくれるとか、逆だとか。
それだけでもうちょっとね。
その意味では、家でこう食ってるだけっていう
状態のときが一番うまいよね。
小林 僕、ちょっと自慢できるのが、
なんていうことはないんですけど、
スルメをですね、
1センチちょっとぐらい幅に切っていくんですね。
ゲソは2本ずつぐらいで。
で、これをお酒に3、4時間漬けるんですよ、
日本酒に。で、その後取り出しまして、
フライパンでピュッピュッピュッと炒めてですね。
飯島 へぇ〜。
小林 で、ちょっと火を小さくして、
醤油をビヤーッとかけて。
糸井 うんうん。
小林 みりんをちょっちょっと落として、
七味をバーッとかけて、ザッザッザッてやって。
粗熱を取って、冷蔵庫に、
タッパーウェアに入れといて、
ビール飲むときにそれ1本取って食ってると、
滅茶苦茶うまいんですけど。
飯島 スルメって、乾燥したスルメですか?
小林 そうです。乾燥したあのスルメを、
糸井 酒でふやかしておくんだよね?
小林 ふやかして、それでなおかつ
炒めちゃうんです。
飯島 へぇ〜。
小林 これ、たまたま、
柄の悪いプロデューサーがかつて作ってて。
それをハマッて食ってるうちに。
糸井 うまいだろうな、そりゃ。
飯島 おいしそうですね。
小林 これが本当に、僕の中で
家の中でのツマミの一番で(笑)。
昨日も僕作りました。
糸井 冷たくなってうまいんだ、やっぱり?
小林 ちょっと冷えて固まると、
タレがギュッと、なんかこう絡みついてて。
飯島 へぇ〜。おいしそう。
小林 冷蔵庫に入れたほうがうまいですね。
また、ゲソがなかなかこう、うまいんですよ。
糸井 (笑)。
小林 それでこう、ビール飲んだりとかするのがね。
糸井 ちょっとやってみたくなるね。
小林 見栄えは確かに悪いんですよ。
飯島 私も、スルメを日本酒と、
醤油とみりん少々に漬けてから
焼いたりします。
小林 それはもうそのまま炙るんですか?
飯島 そうです。炙って、
マヨネーズと七味とかかけて。
小林 あ、だから、その工程をまぁ、
言ってみれば時間がないような感じですか。

(ここでしばらく、先輩役者さんの話になりましたが、
 ちょっとプライベートなことなので割愛します)
糸井 そういえば、薫ちゃん、結構そういう、
なんていうの、こういう役がきたんだとか、
そういうのについてはおもしろがって結構言うねぇ。
小林 はいはいはい。
これ、なんかやっぱりテーマですよ。
本来、そんなにできるわけないし、
幅広いわけないじゃないですか。僕なんか。
あれもできて、これもできるわけないと思うんですよ。
糸井 ほぉ!
小林 「ほぉ!」って。
で、年とって、爺さんになってきたら、
もうだいたい役柄としては、向こうも
「このへんでお願いします」
ってなるじゃないですか。
そのときに、やっぱり
他の追随を許さないっていう
イメージ大事じゃないですか。
この役だったらこの人だっていうのは。
一同 (笑)。
小林 そうすると‥‥、
糸井 浦辺粂子になっていく?
小林 そうそうそう。
だから、俺は希林さんにも言ったんだけど、
樹木希林って、あの道を歩んでる人は、
誰もいないでしょう?
糸井 樹木希林一派として1人だけいるんだよね(笑)。
小林 1人でいるだけでしょう?
琳派はあっても、
樹木希林派なんてないよ(笑)。
一同 (笑)。
糸井 ない。ない。
小林 継ごうっていう人もいないし、
なんかっていったらもう
希林さんに頼むしかないじゃないですか。
糸井 その通りだ。
小林 ね? だから、
「もう誰もついてくる、
 牙城を揺るがすやつ絶対出てこないから、
 希林さん得だよね」って俺は言って。
「それ作ったんだもんね」って。
糸井 あ、薫ちゃんそういう、
先輩方を見てて、ここはイケるなとか?
小林 だから、そんなんやっても、
年季が違うし、俺も。
でも、冗談で、
そういうようなポジションというか、
この人ならここっていうのが
身に着けられたら、
とりあえず年とっても賄ってもらえる(笑)、
なんかお声がかかるじゃないですか。
それっていいよねって僕は思うんですよね。
糸井 なんか和菓子屋の旦那がさ、
「うちはこの饅頭さえあれば」みたいな話だよね?
小林 赤福と同じですよ。
赤福はやっぱり赤福だけでずっと。
糸井 あ、赤福だけだもんねぇ。
小林 後、やっていけるんですよ。
糸井 転んでも起きたもんね。
小林 そうそう。
まぁ、生八つ橋だってそうですよね?
飯島 そうですねぇ。
糸井 ニッキが入ってるだけなんですよね?
飯島 本当ですよね。
子どものときは嫌いだけど、
大人になったら、ちょっといいかも。
小林 そうそうそう。
で、そういう意味では万人って、
まぁ、年配の方に集中してやってれば。
飯島 そうですよね、そうですよね。
糸井 薫ちゃん、そういうので
憧れの男優とかいるの?
あれ、いいなぁっていうの、
憧れとは言わなくてもさ。
小林 いや、特別ああなりたいって
いう人はいないんですけど。
糸井 なりたいのはいないんだ?
小林 なんか大変だろうなと思いますもん。
なんかあの人ああしててって。
糸井 (笑)そうだね。常田富士男みたいなのはね、
ずっと常田富士男やっていくの大変だよね。
(つづきます)


2010-07-15-THU


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN