…ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里 …ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里
面白くて笑ってばかりだったんですけど、
伊集院光さんと糸井重里の対談があったんです。
公開対談でね、そう、「ほぼ日の學校」の!

テーマが一応「学校」なんですけど、
関係なさそうな話がどんどん出てくるんです。
円楽師匠の話や『粗忽長屋』の話になったり、
伊集院さんの奥さんと糸井の共通点が語られたり、
謎の旅の話をしたり、窓ガラスに鳥がぶつかったり、
だいぶ下品なたとえ話が登場したり。
‥‥でもふと気づくと、いつのまにかそれが
「学校」や「学び」の話にもなっていて。

ふたりが掛け合わさると、こんなふうに話が
広がっていくんだ!という驚きのある全15回。
ま、どうぞ、ごらんください。
2.師匠とコンセント。
伊集院
若い方はわかんないかもしれませんけど、
この間亡くなったうちの師匠の円楽
(6代目円楽)の、
さらに上の圓楽(5代目圓楽)っていう、
もうめちゃくちゃな人がいたんですよ。
糸井
星の王子様。
伊集院
星の王子様。馬の圓楽。


ほんっとにめちゃくちゃな人だったから、
その人をどう喜ばせてきたかの話を
「俺はな」ってうちの師匠は自慢話するんですけど、
そういう話もやっぱり覚えてて。


5代目の家のテレビが壊れたんです。
それで「どうにかしろ」って言われて急いで家に行ったら、
結局のところ、コンセントが抜けてるんです。
写真
会場
(笑)
伊集院
そのときに他の弟子は
「師匠、コンセント抜けてましたよ」って言う。
そうすると5代目は機嫌悪くなってブチ切れると。
自分が悪いのに(笑)。


だけどうちの師匠はそこで
コンセントが抜けてるのを確認してから、
いったんテレビの後ろを開けて、
掃除機で吸ったりとかして、
いちおう埃が溜まってますからね、
それが終わってから
「直りました」って言うんですよ。
糸井
ああ、なるほど。
伊集院
で、これは相手のプライドを傷つけずに
自分の価値を上げるやり方で、
「最善だ」って言う。


だからそういう話を聞きながら
「あ、なるほど。こういうときも
相手のプライドを傷つけちゃいけないんだ」
とかって思うわけです。
糸井
はい、はい。
伊集院
だけどそのかわり、うちの師匠の負った十字架は、
「あいつはテレビを治せる」っていう。
会場
(笑)
写真
伊集院
何が壊れても。もう偉くなってるのに。
もう「笑点」のメンバーなってんのに。
「(太い声で)こういうときはあいつを呼べ!」
って言われて。
会場
(笑)
伊集院
そんな話のほうが、いま、すごい役立ってますね。
「雑談のなかに入ってること」みたいな。
糸井
たぶんそれも、円楽さん自身が考えて、
とっさにやったことですよね。
伊集院
そう、人間関係のなかで、そのときの瞬発力で
やったことだと思うんですよ。
マニュアルに書いてあったことじゃなくて。


考えてみれば
「あれは学校だったな」っていう。
糸井
いまみたいに徒弟制度が少なくなると、
普段のそぶりを見てるとか、
どうしようもない時間をどう過ごすかとか、
一緒に退屈してるとか、
そういう時間がなくなってきてて。
写真
伊集院
そうなんですよ。


たとえば仕事で長野に行くとかになると、
いまだと新幹線ですぐですけど、
昔は結局5時間、電車のなかで
一緒にいなきゃなんないんですよ。
そのときに、師匠も黙ってるのにも飽きてきて
喋りはじめるじゃないですか。
糸井
そうですね。
伊集院
あれはいい機会ですね。


そういうの、どうしてます? 
どんどん効率化してるじゃないですか。
わざわざ5時間かかる電車に乗るなんて、
しないじゃないですか。
「便利」を拒絶はしないですよね。
糸井
ちょっとしますね。
伊集院
ちょっとします?
糸井
なにかっていうと、わざわざ
「車でみんなで出かけよう」っていうのを
やることとかは、いまもありますから。
家族でもなんでも。


あれ、絶対退屈なんですよね、
車を運転してない人にとっては。
だけど
「誰かいるところで無言の時間が過ぎてる」
っていうのは、仲良くなるんですよね。
伊集院
わかる。そうなんですよね、そう。
むしろそっちが大事なんです。
糸井
ラグビーの人たちが合宿で生活してて、
「その無駄な時間がいるんだ」って言うんですよ。


普段からとんでもなく長い時間一緒にいて、
終わったらそこでばったり倒れたいぐらいの
練習をしてるのに、
休みの日の自由時間もさらに一緒にいると。
それがラグビーだ、っていう話を聞いて。


その「自由時間を共有する」が、
どれほど役に立ってるか。
写真
伊集院
あーー、なるほど。


いや僕、そのあたりのことがいま、
すごい引っかかってて。


「便利」を完全に拒絶しても
生きていけないじゃないですか。
やっぱり仕事なんかにおいては
「効率がいいほうがいい」は間違いないから。


でもかといって最近、昔撮ったテレビ番組の
VHSのビデオテープとかを見ると、
そのころカッコつけてて、わざわざCMの部分を落として
コンパクトにしたりとかしてるんです。
ラジオの録音したやつとかも。
糸井
ええ。
伊集院
でもいまになると
「そこが面白いのに」っていう。


昔のアルバムを見てて面白いのは、
子供が笑ってピースしてる姿よりも、
「後ろに写ってるプラモデルの箱」
じゃないですか。
会場
(笑)
伊集院
だけどいまはトリミングできるから、
そこを「これじゃない」って切っちゃうんだよね。


この間もラジオの
「後悔してることありますか?」
というテーマに、
「子どもの泣き顔が残ってない」
というメールをもらったんです。
写真
糸井
ああー。
伊集院
笑顔で撮れたのをいい写真と思ってるし、
泣き顔にすごい苦労してきたから、
やっぱり泣き顔の写真は失敗で。
笑顔でこっち向いてるやつだけを
「いいやつだから」って残してきちゃったら、
「大事なものが全部切られてる気がする」って。


テレビの録画も、
マニアな友達は全部切っちゃってた。
2台ビデオデッキがあるなんて幸せなことだから、
「このCMがなくて、全部本編が繋がったら
いいに決まってる」
とか思って、切って繋げちゃう。


「あれ間違ってた」って思うんだけど。
この、効率との戦いっていうか。
糸井
そうですね。
伊集院
だから「いちばんの近道を取らない」っていうか。
もっと言えば、そのほうが効率的だっていうこと。


非効率なほうが、全体考えたときにいい。
ラグビーが強くなるにはそっちが効率的なわけでしょ。
その取捨選択については、すげぇいま悩みますね。
糸井
そのこととはずっと付き合ってる気がしますね。


まさに僕は最近、自分で描いた文章のなかで
「最近は役に立つことばかりしてしまってる」と。
伊集院
ためになる本、
めちゃめちゃ売れるじゃないですか。
「ためにならない本はどうする?」
って感じですよね。
糸井
そう。だけど一方で、
「ためにならないことをわざわざ言ってくる」
ような本も、あんまり面白くないんですよ。
会場
(笑)
伊集院
そうなんだよなぁ‥‥。
糸井
「よく走る車」はやっぱりいいんですよ。


そして
「よく走る上にデザインが面白い」ときには
買おうかなと思うんです。


で、「よく走らなくて面白い」車は要らない。
それは置いとくものになっちゃうから。
伊集院
「車」って意味がちょっと薄れちゃうし。
糸井
だから、僕は自分で車に乗ってるときに、
どの車が羨ましいかをいつも見てますけど、
それはおそらくほとんど
「デザイン」を見てるわけですよ。


ってことは、
「デザイン」っていう言葉で
表現されてるようなものが面白ければ、
「あとは全部しっかりしてていいんだな」って。


その時代がいまかな、と思ってるんですよね。
写真
伊集院
なるほどなるほど。
糸井
だから会社みたいなことやってても、
「約束を守りきれない会社」って
やっぱりダメですよね。
そこはちゃんと守ってくれないと。
伊集院
「納期が圧倒的に遅い」のは、
やっぱりダメですもんね。
糸井
それから「お金払わない会社」もダメですよね。
まずはそういうのがちゃんとしていて。
その上で「どうやって面白くするか」は、
言ってみれば、車の「デザイン」に
当たるようなものかなと。
伊集院
それで言うと、
「面白くない」のもダメですよね。
糸井
ダメですねぇ。
伊集院
だから難しくはなるんだけど。
面白くなくてちゃんとしてるだけだと、
僕の仕事じゃないしなあ。
(つづきます)
2024-02-01-THU