…ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里 …ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里
面白くて笑ってばかりだったんですけど、
伊集院光さんと糸井重里の対談があったんです。
公開対談でね、そう、「ほぼ日の學校」の!

テーマが一応「学校」なんですけど、
関係なさそうな話がどんどん出てくるんです。
円楽師匠の話や『粗忽長屋』の話になったり、
伊集院さんの奥さんと糸井の共通点が語られたり、
謎の旅の話をしたり、窓ガラスに鳥がぶつかったり、
だいぶ下品なたとえ話が登場したり。
‥‥でもふと気づくと、いつのまにかそれが
「学校」や「学び」の話にもなっていて。

ふたりが掛け合わさると、こんなふうに話が
広がっていくんだ!という驚きのある全15回。
ま、どうぞ、ごらんください。
5.「面白い答え」もアリだろ。
写真
伊集院
師匠の『死神』を聴いてみると、
最初、借金苦の男が自殺しようとするんですけど、
「この自殺の仕方はイヤだな」という話を、
ずっとするんですよ。
「高いとこから落ちると、
落ちた瞬間が痛いはずだからイヤだ」とか、
「首吊りは枝が折れたときに
枝が頭に当たって痛いかもしれない
‥‥イヤだ」とか、
ずーっと言ってるんですけど。


でも一個だけ、
「川に飛び込もうかな」
っていうときだけ、
「溺れるのはもう二度とごめんだ!」
って言うんです。


でも、これはね、
上も下もなんにも繋がってないですよ。
伏線も回収も、なんにもないんです。
糸井
好きだ、それは。
伊集院
そうなんです!


師匠が、
『子どものころに溺れかけて死にかけたことで、
その時点からこいつは死神が見えるんじゃないか?
ま、これが正解ってわけじゃないんだけど』
とか思うのって楽しいじゃん、なんて言うんですよ。


うちの師匠は理屈っぽい人なんだけど、
「そこはそのままで切らなくていいだろう」って。


ああ、やっぱり古典すげえな! と思って。
糸井
いいですねぇ。
つまり、聴いてる人と一緒に
作るものだってことですよね。
伊集院
そう。で、たぶんこれ、
今日の漠然とした「学校」というテーマに
合ってると思うんですけど。


「答えがあるから全部この通り覚えなさいよ、
これが正しいですよ」
のつまらなさとか、
「試験100点満点に向けての予定調和」
みたいなことと一緒に、
「『面白い答え』もアリだろ」って
思いますけど、そういう発想って、
僕の通った学校にはなくて‥‥。
写真
糸井
きっと両方必要なんだと思うんですね。


みんなでなにかを前に進めるとか、
ちょっとでも上を目指そうみたいなときには、
先に法則があって
「これを仮にこう覚えておきましょう」とか
「それを知ってるからやった」とかが
いっぱいあるほうが、
たくさんものができたりするんです。


だから、ある時代までは
それが必要だったんだと思うんですね。
だけどいまはそういうもの、そこまでいらないから。
伊集院
そうなんだよなぁ。


だからなんか僕、カミさんから、
「メールがつまらない」って言われて。


僕のメール、ちゃんと情報伝達するんですよ。
でもカミさんのメールって口語だなって。


「びっくりしたんだよ!」
ってメッセージが最初に来たりするから、
「どういうことで!?」ってなるんですけど。
会場
(笑)
伊集院
でもそれが順番に、
「犬のリードがはずれちゃってさ
‥‥あ、散歩してたんだけどね」
みたいな文章が書けるんです。
糸井
それ落語じゃないですか。
伊集院
いや、そうなんです。
あいつのほうが落語上手いのかな。
会場
(笑)
写真
糸井
だって、落語って
「いまびっくりしたんだけどさ」って。
伊集院
そういうことですね、そうですよ。
「落ち着け落ち着け‥‥落ち着けないよ!」
そんな話ですもんね。


だから彼女はすごく気軽にメールを使ってるけど、
僕のメールは
「これは手紙が進化してできたもので、
文章には起承転結があって」が
どこか入ってる、変な理屈臭さがあって。


「情報をなるべく早く、間違いなく、
みんなに伝達するための文章」も
書けたほうがいいけど
「面白い!」ってことは大切じゃないですか。
あの面白いやつ、逃したくないんだよなぁ。
糸井
その矛盾のなかに、
ずっと伊集院さんは居続けてるわけですね。
伊集院
居続けてます。
糸井
僕は逆で、お宅の奥さんと一緒なんで、
「こればっかりだと世の中回らないな」
と思ってて。


そういうことがちゃんとできる人に聞いては
「そうか、自分もちょっとできるようにするよ」
ってのを練習してる人生なんですよ。
伊集院
それはわりと若い頃から?
糸井
ずっとそうですね。


僕は「習い事」ができないんです。
「段取り」ができないから。
たぶん、できるふりぐらいまでは
できるんだと思うんです。
でも、全然上手にできないんですよ。


だって音楽の授業で、オルガンの前で
順番に歌わされるのがあったじゃない。
僕、あのときだけ声が出ないんですもん。
いつも歌とか大好きなのに。
‥‥ってぐらい段取りがダメで。
伊集院
「こうやりなさい」って言われるやつが。
糸井
そう。ほんとに大人になってから、
テレビ局で、マジックの番組かなにかで、
「俳優さんと一緒にタキシード着て、
会場まで歩いて入ってきます。
角にカメラがありますから、
こう曲がって入っていってください」
って言われて、
「ではやりましょう‥‥スタート!」
ってやったら、
なぜか僕、反対側に曲がっちゃって。
写真
会場
(笑)
伊集院
それはなんでしょうね。


「流行りものには乗らないぞ」
という人っていますけど、そういう人って
むしろちゃんとしてるじゃないですか。
要するに、理屈がわかってるから。


「流行りものは絶対買わないんだ」
という人こそが、
「いちばん流行りものに敏感な人」ですよね。
会場
(笑)
伊集院
欲しいものしか買わない人は正しいけど。


それで言うと、糸井さんはべつに
「言われたことの逆をやったろう」と
思ってるわけじゃないんですよね。
糸井
ぜんっぜん「逆」をやらない人なんです。
「みんながやってることって、
面白いからやってるんだろうな」と思うから、
自分もやるし、いらなくても買うんですよ。


だから
「どうしてお前ら、いらないものを買わないんだ!」
が僕の会社での説教ですよ。
会場
(笑)
伊集院
だから、ここも間違えがちで、
「俺は絶対きまりに従わない」と思ってると、
従ったほうが楽しいことでも
従わなかったりするんですよね。
糸井
そうです。
会社のなかに自販機があるんですけど、
よく売れるのが強炭酸の水なんですよね。
「どうしてお前らそればっかり買うんだ」と。


こっち側に、
「ポンジュースなのに、
(いい声で)ソーダが入ってる」みたいな。


よーく見るとアメリカのジュースで
「あれ、愛媛のまじめジュースじゃないのか!」
みたいな、そういうのもあるんで。


1回そこで
「どうしてアメリカなのに」みたいなことを
考えるには、買わなきゃダメじゃないですか。
「どうしてしないんだ!」って、
社長として、怒ってます。
会場
(笑)
伊集院
それで社長が言うとおりに買うと、おそらく
「どうして言う通りやるんだ!」
って感じになるんでしょうけども。
会場
(笑)
糸井
永遠なんですけどね。
写真
(つづきます)
2024-02-04-SUN