…ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里 …ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里
面白くて笑ってばかりだったんですけど、
伊集院光さんと糸井重里の対談があったんです。
公開対談でね、そう、「ほぼ日の學校」の!

テーマが一応「学校」なんですけど、
関係なさそうな話がどんどん出てくるんです。
円楽師匠の話や『粗忽長屋』の話になったり、
伊集院さんの奥さんと糸井の共通点が語られたり、
謎の旅の話をしたり、窓ガラスに鳥がぶつかったり、
だいぶ下品なたとえ話が登場したり。
‥‥でもふと気づくと、いつのまにかそれが
「学校」や「学び」の話にもなっていて。

ふたりが掛け合わさると、こんなふうに話が
広がっていくんだ!という驚きのある全15回。
ま、どうぞ、ごらんください。
8.鳥と私。
伊集院
僕、新製品大好きでわりと買うんですけど、
新製品が取り残していくものって
あるじゃないですか。
糸井
はい、ありますね。
伊集院
いま、カメラがデジカメになって、
その場で確認できるから
失敗の写真って減ったじゃないですか。
「伊集院さん、一緒に写真撮ってください」
ってときに
「あ、ちょっと目つぶっちゃったんで」
とか、何度も撮り直せるから。


でも失敗の写真って、
実はけっこう楽しかったりもする。


あと、昔は写真屋さんに1週間後に
取りにいって見る作業があって、
あれ、楽しかったじゃないですか。
それを取り出して整えると新しい遊びになる。
そういうのをいま、すごい大事にしたくて。
糸井
あぁ。
伊集院
身振り手振りを使いながら伝える
すごく短い面白い話とか悲しい話は
テレビでもいっぱいしてるけど、
ラジオだからできる、
なんだかよくわかんない話ってあるじゃないですか。
ああいうのがもう‥‥大好きで。
写真
糸井
いや、そうですよ。
僕も好きです。
伊集院
先週ラジオで、
「鳥と私」っていうタイトルのメールを
もらったんです。


夕方の、わりと仕事帰りの人が、
「ああ、今日疲れたな」みたいなときに
聞いてる番組なんですけど。


自分の老後の趣味が
「鳥の観察」と「家の掃除」をすることです、
っていうメールが来て。
いまこれ、もとの文章が長かったんで
自分がちゃんとまとめて話しますけど。


ある日、窓ガラスを拭き終わって
部屋に入ったら、
「ゴン!」っていう音がして、
後ろを向いたら
──そこだけ異様に表現がうまくて
「ハトが、窓ガラスに激突して、
そのまま止まって、下に、
赤い墨汁で1本線を引いたように
落ちていきました」って。
会場
(笑)
伊集院
‥‥すっごい怖くない?
すっごい怖くないですか。それ。


透明のガラスに「ゴン!」ってぶつかって、
そのままガーッと落ちてって。


そして、
「あ、これはもうダメだ、動かない、
どうしようかな」
と思ったら、
次、ゴミとりに行ったら消えてましたと。
「ああ、生きてたんだ。まああれは長くないな」
と思うんだけど。


でもそれ以来、そいつは
うちのベランダに来ては、
置いてるエサを持って帰ってる。
どうやら巣に持ってって子育てしてるけど、
顔がぐちゃぐちゃなんだと。
でも、ずーっと生きてる。


「僕は、彼に
『つぶれ』という名前をつけて、
観察しています」
っていう、おじいさんのメールなの。


‥‥これ何?って。
会場
(笑)
写真
伊集院
このジャンル何なんだろう? ってやつだけど、
テレビだと話せないし。
残念ながら、ラジオでも夕方にこの話はグロいから
「ゴンって音がしたから『ゴン』でした」
みたいに、必ずすこし薄めたんです。


「つぶれ」って、すごくないですか。
それとその「赤一文字」も切りました。
会場
(笑)
伊集院
これはじゃ、たとえばテレビのゴールデンの
「『さんま御殿』です。面白い話ください」
ってところには入らないじゃないですか。


かといって、
「じゃホラーなのか?」っていうと、
ホラーでもない、じゃないですか。
糸井
いい話?
伊集院
うん、いい話? 
でも「伊集院さん、なんかいい話ありますか」
って言われてこれやりだしたら、
「あんたそれ、いい話の部分薄くない?」
みたいな。


こういうやつってたぶんいま、
どんどん淘汰されてると思うんです。
短くできないから。
糸井
いや、僕いま誇りに感じたんですけど、
‥‥その話は、ここでできた!
伊集院
そうなんですよ!!
写真
会場
(拍手)
伊集院
あっち行ったりこっち行ったり
洗練されてない感じの書き方とか、
「直したほうがいい」とか言われるかもしれないけど、
その添削されてない感じとかも、相当よくて。


だからこういうものをなくさないでほしいし、
その場所をちゃんと取っといたりしたくて。
糸井
今のはもう、ほんとにすばらしいですね。
そういうものの居場所を作るのが、
僕は「学校」だと思うんです。
伊集院
ああ、そうですよね。
糸井
いまの「学校」って思われているものの外側に、
実際には「もっと広い学校」があって。


おそらくそれって、
「学校が終わってからの子ども同士の会話」
ですよね。
伊集院
そう、よく関西の文化で、
「その話オチないやん」みたいになるじゃん。
あれ、あんまり東京に持ってきてほしくないんですよ。
オチなんかなくていいんですよ。
俺たちは職業だからオチをつけてるだけだから。


子どもの話って全然たわいないですよね。
あれが好きなんだよ。
糸井
同じこと繰り返してて、
バカ笑いしてる子どもとかいるじゃないですか。
あれ、「ロックンロール」ですよね。
会場
(笑)
伊集院
あのリズムがいいんだ、リズムが。
糸井
「ゴー、ジョニー、ゴーゴー!」みたいな。
伊集院
で、楽しくなっちゃってるんですよ。
糸井
そういうものが、どっかで
「ジャンル分けできないから」っていうけど、
「そのジャンルって、いつできたんだよ」
っていう。
そのジャンルだって、
絶対にできたときがあるわけだから。
写真
伊集院
いやこのあいだ、クイズ番組で、
「戦中の教科書からクイズが出ます」っていう。


算数の教科書だと思うんですけど、
その問題というのが、
「ネズミがいっぱいいて、何人かがペストになる」
みたいな話なんです。
伝染病になりますっていう。


で、
「1日に◯割の人が伝染病になるとき、
クラス40人全員が伝染病にかかるまで、
どれぐらいかかりますか?」
っていう問題だったんですけど。


僕がいいなと思ったのは、
これ算数なんだけど、算数だけじゃなくて、
「伝染病が危ないよ」も入ってる。
家庭科なのか道徳なのかわからないけど
いろいろ入ってて、ジャンルがわかりにくいんです。
で、生活に密接してるんですよ。


これ見たときに、たぶん教育って
「算数は算数、道徳は道徳」って
分けたときがあると思うんですよ。
そのときにこういう、
大事で、便利で、凄みのある教科が
なくなってんだと思って。


「この映画は喜劇/悲劇/SF」って分けた時点で、
曖昧なものがちょっと消されてくっていうか。
糸井
もともとその「分ける」っていうのは、
誰かが人工的にしたことのはずなんで。


そこでのジャンルって、
もともと起こってたことに名前をつけただけで、
さっきの頬っぺたの
うずまきみたいなものなんですよね。


だから、いちどその名前をなくしちゃったほうが、
「からだ全体の気持ちよさ」とか、
「その人が生きた証(あかし)」は
入ってきますよね。
(つづきます)
2024-02-07-WED